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今回の実験では、被験者に認知疲労を50分かけて人工的に誘導し、その後、有酸素運動中に判断力(反応速度と精度)を測定するという方法がとられました。
被験者には運動の1時間前に「高用量フラバノール(500mg)」入りカプセルか、「低用量」カプセルのいずれかを摂取させるという手法が用いられました。
その結果、高用量のフラバノールを摂取したグループでは、認知疲労下でも明らかに判断力が維持されていたことが確認されました。
ただし、疲労感そのものが軽減されたわけではなく、「頭の疲れは感じるものの、判断のスピードや正確さは保たれていた」という現象が見られたのです。
今回の研究は、天然成分によって競技中の判断力を高める可能性を実証した初の試みといえます。
しかも使用された成分は、チョコレートの原料としても知られるカカオの種子に含まれるもの。
つまり、自然由来のフラバノールはドーピングの対象外で、安全に摂取可能なのです。
この成果が意味するところは大きく、スポーツ選手のパフォーマンス向上だけでなく、将来的には一般の人々の認知機能維持や認知症予防といった分野にも応用が広がる可能性を秘めています。
同じくフラバノールを多く含む食品としては、緑茶のカテキンやウコンのクルクミン、赤ワインのレスベラトロールなどもありますが、最も効率的に摂取できるのはカカオであるとされています。
さらに、カカオフラバノールは血管の健康を守る作用もあることから、日常的な健康維持にも効果が期待されています。
一方で、本研究では「精神的疲労感そのもの」は軽減されなかったという結果も得られており、脳の主観的な疲労と客観的な判断力が必ずしも一致しないことが示唆されました。
今後は、こうした“主観と客観のギャップ”を埋める研究や、フラバノールが脳に与えるメカニズムの解明も期待されます。
参考文献
カカオの有効成分でスポーツ時の判断力が向上
https://www.waseda.jp/inst/research/news/81343
元論文
A single intake of flavanol-rich cocoa improves inhibitory executive process under cognitive fatigue during aerobic exercise in men: a randomized, double-blind, placebo-controlled crossover trial
https://doi.org/10.1007/s00213-025-06826-7
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部