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実験の結果、CLCF1を注射された高齢マウスは、明らかに握力や走る持久力が改善し、筋線維の太さも若返っていました。
また、骨密度も増加し、骨を壊す細胞(破骨細胞)の数が減っていたのです。
さらに驚くべきことに、CLCF1は筋肉の中でエネルギーを作る働きを活性化させており、細胞が酸素を使ってエネルギーを生み出す“ミトコンドリア呼吸”も向上していました。
これは、代謝機能の回復や血糖値の改善にもつながる可能性があります。
CLCF1の分泌量が増えたマウスでは、糖の処理能力(耐糖能)も向上していたことが確認されています。
また、骨についても、CLCF1は骨を壊す破骨細胞を抑えると同時に、骨を作る骨芽細胞の働きを助けるという“ダブルの効果”を示しました。
これは、加齢によって進行する骨粗しょう症の予防にもつながる可能性があります。
一方で、若いマウスにCLCF1を投与しても、あまり目立った効果は見られませんでした。
若いマウスではCLCF1を増やしても大きな変化は見られず、これは既に十分な機能が維持されているためかもしれません。
この研究が教えてくれるのは、「筋トレは筋肉を鍛えるだけでなく、体の中の“若返りスイッチ”のような働きをしている」ということです。
CLCF1というマイオカインが、そのスイッチの一つとして働いており、加齢による筋肉や骨の衰えを巻き戻す可能性を持っているのです。
もちろん、CLCF1を直接注射するような治療法はまだ実用化されていませんが、日々の運動がこの物質の分泌を促すことは確かです。
「健康のために運動しましょう」という言葉はよく耳にしますが、今回の研究はそれに新たな意味を加えてくれます。
それは、「年齢に負けない体を、細胞レベルでつくるために運動する」という考え方です。
今日の一歩が、未来の自分を“若返らせる”一歩になるかもしれません。
参考文献
Exercise-induced protein revives aging muscles and bones, researchers discover
https://medicalxpress.com/news/2025-06-protein-revives-aging-muscles-bones.html
元論文
Exercise-induced CLCF1 attenuates age-related muscle and bone decline in mice
https://doi.org/10.1038/s41467-025-59959-w
ライター
相川 葵: 工学出身のライター。歴史やSF作品と絡めた科学の話が好き。イメージしやすい科学の解説をしていくことを目指す。
編集者
ナゾロジー 編集部