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そういう意味で、日食は、太陽の光が一時的に弱まるという大きな自然の変化であり、注目すべきイベントです。
しかもそのタイミングは天文学的に正確に予測できるため、あらかじめ準備して生物の反応を見るにはとても都合がいいものです。
つまり、日食は「自然がくれる特別な実験のチャンス」だと言えます。
これまでの研究によって、日食時に一部の動物たちは行動が変化することが示唆されています。
たとえば、砂漠地域のセミたちは日食時に急に鳴き止む様子が観察されました。
同じように、動物や昆虫が日食で一時的に眠ったり、行動を止めたりするという報告が上がっています。
では、植物はどうでしょうか?
この問いに答えるため、イタリア技術研究所(IIT)の研究チームは、イタリアの森で木々の電気的な活動を記録することにしました。
「木が電気を出している?」と不思議に思うかもしれません。
実は、植物の体の中では、電気のような信号が流れていることが昔から知られています。
これは「bioelectrical signals(生体電気信号)」と呼ばれ、外の環境に変化があると、その刺激を受けて電気的に反応します。
人間でいえば、脳や神経が情報をやりとりするように、植物も体の中で情報を伝え合っているのです。
今回の研究では、特別なセンサー装置を使い、木に針のような電極をつけて、電気信号の強さやパターンの変化を記録しました。
観測されたのは、オウシュウトウヒ(またはヨーロッパトウヒ、学名: Picea abies)であり、70歳の木、20歳の若い木、古い切り株などが観察対象となりました。
では、日食の間、これら木の中で電気信号はどのように変化したのでしょうか。
実験の結果、生体電気信号を観察したすべての木が、日食が始まる数時間前から電気信号のパターンを変えていると分かりました。
その変化は、日食中に最大になり、終わると元に戻っていきました。
これは、木が「何かが起こる」と感じ取り、体内の活動を調整していた証拠かもしれません。
しかも驚いたことに、古い木のほうが、より早く・はっきりと反応していたのです。
研究チームは、この結果について、「古木が数十年分の環境記憶を保持している証拠」だと主張しています。
さらに興味深いのは、まるで「日食のお知らせ」が広がっていくように、波のように電気信号の変化が、複数の木々に広がっていったということです。
研究チームはこの現象を「シンクロ(同期)」と呼びました。
人間でも、コンサートで拍手が自然に広がっていくことがあります。
木々でも同様のことが生じているのかもしれません。
そして、その変化の起こりは古木たちでした。
つまり、今回の反応は、まるで経験豊かな古木が最初に日食を感じ取り、そのことを若木たちに伝えていったかのようだったのです。
もちろんこの研究だけでは、植物たちの中で生じていることを正しく判断することはできません。
それでも日食における植物たちの反応は、私たちの植物に対する見方をいくらか変化させるものかもしれません。
参考文献
Forest in sync: Spruce trees communicate during a solar eclipse
https://www.eurekalert.org/news-releases/1082082
We now have evidence of how old trees share critical intel with forest youth
https://newatlas.com/biology/trees-knowledge-eclipse/
元論文
Bioelectrical synchronization of Picea abies during a solar eclipse
https://doi.org/10.1098/rsos.241786
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
ナゾロジー 編集部