「ジャンクフードばかり食べているとバカになる」なんて言葉を聞いたことがあるかもしれません。

たしかに、ジャンクフードは体重の増加や糖尿病、心臓病など、健康によくないことが知られています。

では、食べ物の種類は、体だけでなく、脳にも何らかの影響を与えるのでしょうか?

そんな疑問に本格的に取り組んだのが、オーストラリア・シドニー大学(The University of Sydney)の研究チームです。

彼らは、ジャンクフードの摂取が人間の「空間記憶」にどう影響するかを、バーチャルリアリティを使って調べました。

その結果は、食生活が私たちの“道を覚える力”や“方向感覚”に影響を与えている可能性を示すものでした。

この研究は、2025年4月17日付の『International Journal of Obesity』誌に掲載されました。

目次

  • ジャンクフードのような食事は脳にどんな影響を及ぼすのか?
  • 高脂質・高糖質の食事は「空間記憶」に悪影響を及ぼす

ジャンクフードのような食事は脳にどんな影響を及ぼすのか?

これまでに、マウスを使った多くの研究で、高脂肪・高糖質の食事(HFHS食)が脳の海馬という記憶に関係する部分を弱めることが明らかになっています。

海馬は「どこに何があるか」を覚える空間記憶や、方向感覚、学習能力に関係する重要な部位です。

たとえば、ある研究では、1週間だけジャンクフードを食べたマウスでも、迷路での「場所の記憶」が急に苦手になったという結果が出ています。

しかも、体重が増えるよりも前に脳の機能が落ちることが確認されており、これは単なる肥満の問題ではなく、食べた内容そのものが脳に影響を与える可能性を示しています。

しかし、こうした実験はあくまで動物実験です。

「人間でも同じことが起こるのか?」という点は、これまであまり研究されていませんでした。

仮想現実を用いた空間記憶の試験 / Credit:The University of Sydney

そこで、今回のシドニー大学の研究者たちは120人の大学生を対象に、「人間の空間記憶力」と「食生活」の関係を科学的に調べようと考えました。

彼らが用意したのは、仮想現実(バーチャルリアリティ)で再現された巨大な迷路

参加者はVRゴーグルを装着し、まるでゲームのような空間の中で「宝箱のある場所」を探します。

迷路にはランドマーク(目印)がたくさんあり、これらを覚えながら「どの方向に進めば宝箱にたどり着くか?」を学習していきます。

参加者はこの迷路を6回探索し、宝箱を見つける必要がありました。4分以内に宝物を見つけた場合、次の試験に進むという具合です。(出発点と宝箱の位置は、各試行で一定)

7回目の試験では、仮想迷路から宝箱が取り除かれ、目印だけを頼りに宝箱の位置を思い出し、印をつけるよう指示されました。

こうした試験は、私たちが現実の街で「以前来たことがある場所」を記憶を頼りに再訪することに似ています。

さらに、研究チームは参加者に食事アンケートを実施。

ここで得られたデータをもとに、「脂肪の多い食事」「糖分の多い食事」「両方多い食事」の3タイプに分け、迷路の成績との関連を分析しました。

また、短期記憶や計算力といった「一般的な頭の良さ」が影響していないかも調べるため、「数字を逆から言う」ようなワーキングメモリテストも行いました。

こうして、「空間記憶力」と「食生活」の純粋な関係性を調べる準備が整いました。

高脂質・高糖質の食事は「空間記憶」に悪影響を及ぼす

高脂質・高糖質の食事を頻繁に摂取する人は、空間記憶試験の成績が悪かった / Credit:Canva

実験と分析により、研究チームはある傾向を発見しました。

ジャンクフードの摂取頻度が高い人ほど、宝箱の位置を正しく思い出すのが苦手で、迷路試験での成績も明らかに悪かったのです。

それぞれの試験において、参加者みんなは徐々に上達しましたが、高脂肪・高糖質食品を頻繁に食べていた学生たちは、そうでない学生に比べて、成績の伸びが遅く、7回目の試験でも宝箱の位置を正確に思い出せない傾向が見られました。

さらに興味深いのは、この関係は体重や頭の良さ(ワーキングメモリ)とは無関係だったこと。

つまり、「太っているから記憶力が落ちた」のではなく、ジャンクフードをよく食べているだけで空間記憶が落ちているというのです。

研究チームはこれを、「脳の中の“海馬”が食べ物の影響を受けている証拠だ」と考えています。

海馬は、新しい場所を覚えたり、方向を判断したりするのに必要な部分です。

ここがダメージを受けると、たとえスマホがなくても帰れるような「脳の地図機能」がうまく働かなくなるのです。

空間記憶を高めたければ、ジャンクフードは控えるべき / Credit:Canva

この研究は、以前からネズミで示されていた「ジャンクフードが記憶を悪くする」という話を、人間でも実証した初めての本格的な例です。

しかも、ゲーム感覚でリアルな空間認識をテストできるVRという最新技術を使ったことで、より現実に近い形で脳の働きが観察されました。

もちろん、この研究は因果関係を示すものではありません。

しかし、過去の動物実験や脳科学の知見と合わせると、ジャンクフードをよく食べる傾向が脳に悪影響を与える可能性は非常に高いと言えるでしょう。

では、私たちは日常生活にこの結果をどのように当てはめることができるでしょうか。

「絶対にジャンクフードを食べるな!」という話ではありません。

バランスのとれた食生活を心がけることが、脳の健康にとっても良いということです。

普段の生活で、ちょっとした工夫――野菜や果物を意識して取る、甘い飲み物をお茶に替える、というだけでも十分意味があります。

毎日を健やかに、そして道に迷わずスムーズに過ごすために、今日の食事をちょっとだけ見直してみるのはどうでしょうか。

脳は、あなたが食べたものでできているのですから。

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参考文献

Junk food makes you dumber in a very specific way
https://newatlas.com/diet-nutrition/junk-food-cognition/

High-fat, high-sugar diets impact cognitive function
https://www.sydney.edu.au/news-opinion/news/2025/04/21/high-fat-high-sugar-diets-impact-cognitive-function.html

元論文

Consumption of a diet high in fat and sugar is associated with worse spatial navigation ability in a virtual environment
https://doi.org/10.1038/s41366-025-01776-8

ライター

大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。

編集者

ナゾロジー 編集部

情報提供元: ナゾロジー
記事名:「 脳の「空間記憶」を高めたいなら”あの食べ物”は控えるべき【食事が脳をつくる】