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「早食いは太る」という話を聞いたことがあるでしょう。
実際、これまでの研究でも早食いの人は肥満になりやすいという結果が示されています。
食事のスピードが健康に影響を与える理由のひとつは、満腹感のシグナルが脳に届くまでに時間がかかることにあります。
急いで食べるなら、脳が「もう十分食べた」と判断する前に、必要以上の量を胃袋に詰め込んでしまう可能性が高いのです。
そのため、逆にゆっくり食べるなら、「食べ過ぎを防ぎ、太らない」と考えられています。
実際、日本の農林水産省も「ゆっくり食べること」を推奨しており、そのための具体的な方法として「よく噛む」「味わって食べる」などの工夫が挙げられています。
とはいえ、よく噛んで食べることについての科学的な裏付けはあまり存在せず、その方法も曖昧です。
そこで今回の研究では、「ゆっくり食べる」を科学的に検証するため、33名の健康な成人(男性15名、女性18名)を対象に、食事のスピードに関する実験を行いました。
被験者にはピザの一切れ(1/4サイズ)を食べてもらい、その際の噛む回数、食べるテンポ、食事の持続時間を計測しました。
ピザは、一定のサイズと形状で噛む回数を管理しやすい食品です。
また、ピザは比較的柔らく、噛む回数が少なくなりがちであることから、食事のスピードとの関連性を明確にするために適していました。
加えて実験では、メトロノームを使い、外部からリズムを強制的に与えた場合にどのような変化が起こるかを分析しました。
実験の結果、まず男女の差が大きいことが分かりました。
食事時間と咀嚼回数、口に運ぶ回数は男性で有意に少ない一方、咀嚼テンポは男女で差が見られませんでした。
つまり、食事時間を論じる場合には、男女の差を考慮する必要があるのです。
そして全体的な傾向としては、噛む回数が多い人ほど食事時間が長くなると分かりました。
つまり、単に「ゆっくり食べる」と意識するよりも、具体的に「噛む回数を増やす」「一口で何回以上噛む」などと意識することで、実際に時間をかけて「ゆっくり食べる」ことができるでしょう。
また、噛む回数は外部刺激の影響を受けることも分かりました。
ゆっくりとしたリズムのメトロノーム(40bpm)が流れると、食べるテンポが遅くなり、食事時間が延びることが確認されたのです。
つまり、単に「よく噛む」だけでなく、外部のリズムによっても食べる速さがコントロールできるかもしれません。
たとえば、食事中にテンポがゆっくりな音楽を流すことで、自然と食事のスピードを落とすことが可能かもしれません。
また、ダイエット中の人が「よく噛んでゆっくり食べる」ためのトレーニングとして、一定のリズムで噛む習慣をつけるのも効果的かもしれません。
今回の研究ではピザを使用しましたが、より複雑な食品(硬さの異なるものが一皿に混在しているもの)でも同様の効果が得られるかどうか、今後の研究で明らかにする必要があります。
もし、ダイエット中なのであれば、「噛む回数」と「ゆっくりとしたリズムの中で食べる」ことを意識してみてはいかがでしょうか。
参考文献
肥満患者の生活指導“ゆっくり食べる”を科学的に検証
https://www.fujita-hu.ac.jp/news/j93sdv0000011zgg.html
元論文
Greater Numbers of Chews and Bites and Slow External Rhythmic Stimulation Prolong Meal Duration in Healthy Subjects
https://doi.org/10.3390/nu17060962
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
ナゾロジー 編集部