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特に、妊娠初期に野菜や果物、魚、全粒穀物を多く摂取していた母親の子どもは、手先の器用さや目と手の協調能力が優れていたのです。
魚の摂取量が多いほど、その傾向が顕著であることも分かりました。
一方で、母親の体脂肪率が高いと、子どもの運動発達が遅れる可能性があることも明らかになりました。
特に妊娠後期に体脂肪率が高かった場合、子どもが発達性協調運動障害(Developmental Coordination Disorder, DCD)を持つリスクが高まる傾向が見られ、後期の体脂肪率が1%増加するごとに、運動障害のリスクが1.12倍に上昇していたという。
また、妊娠糖尿病(GDM)については、子どもの運動能力に統計的に有意な影響を与えないという結果が出ました。
これは、GDM自体よりも、それに伴う食生活や体重管理の影響がより重要なのかもしれません。
しかし、今回の研究で意外だったのが、妊娠中の母親の抑うつ症状が、子どもの運動能力向上と関連していたことです。
今回、意外な結果として報告されているのが、抑うつ症状が強い母親の子どもは、目と手の協調スキルが高い傾向にあったことです。
妊娠中の母親のメンタルが、出産から5年後の子どもの運動能力に影響するというのは一見するとよくわからない関連です。
研究チームは、この予想外の結果についていくつかの仮説を立てています。
ひとつの可能性として、妊娠中のストレスが子どもに「早期適応型の発達戦略(faster developmental strategies)」をもたらすことが挙げられています。
これは、母体のストレスにより、胎児が発育段階から環境の困難に備えるように変化するという仮説です。この適応メカニズムの一環として、運動能力が向上する可能性があると考えられています。
また、ストレスや抑うつが増えると、体内でグルココルチコイド(特にコルチゾール)というホルモンのレベルが上昇することが知られています。
コルチゾールは胎児の脳の発達に重要な役割を果たし、特に妊娠後期にそのレベルが高まると、認知能力や運動能力の発達が加速する可能性があるとされています。
抑うつ症状とは、気分の落ち込みや意欲の低下が続く状態を指しますが、では妊娠中は落ち込んでいた方が子どもの将来のいいのか、というとそれは早計な判断でしょう。
今回の研究では、参加した妊婦のほとんどが比較的低い抑うつスコアを示しており、強い抑うつ症状がある場合に同様の結果が得られるかどうかは現在のところ不明です。
研究者たちは、「今回の研究結果の臨床的な意味合いはまだ明確ではなく、さらなる研究が必要だ」と指摘しています。
妊娠中の母親のライフスタイルは、想像以上に子どもの未来に影響を与えているようです。
食生活を改善することで子どもの運動能力を高める可能性があり、過度な体脂肪の蓄積を避けることで運動発達の遅れを防ぐことができるかもしれません。
また、妊娠中のメンタルヘルスと子どもの発達の関係については、今後さらに深く掘り下げるべきテーマでしょう。
現在の産科医療では、妊娠中の食事指導は主に栄養面に焦点が当てられています。
しかし、本研究の結果を踏まえると、今後は「運動発達を促すための食事指導」が新たに組み込まれる可能性も考えられます。
母親の選択が、子どもの未来を形作る——この事実を知ることで、より良い選択ができるかもしれません。
参考文献
Lifestyle choices during pregnancy can impact child’s motor development up to the age of 5–6 years
https://www.utu.fi/en/news/press-release/lifestyle-choices-during-pregnancy-can-impact-childs-motor-development-up-to-the
元論文
The effect of maternal risk factors during pregnancy on children’s motor development at 5–6 years
https://doi.org/10.1016/j.clnesp.2025.01.047
ライター
相川 葵: 工学出身のライター。歴史やSF作品と絡めた科学の話が好き。イメージしやすい科学の解説をしていくことを目指す。
編集者
ナゾロジー 編集部