- 週間ランキング
一般的に「子育てはストレスが多く、脳に負担をかける」と思われがちです。
実際、育児中の親の多くは、睡眠不足や疲労によって思考力の低下を感じることがあります。
しかし、これまでの研究では、子育てが社会的なつながりを強め、認知的な刺激を増やすことで、脳にポジティブな影響をもたらす可能性が示唆されていました。
社会的交流が脳の健康に良い影響を与えることは多くの研究で示されています(Neurobiology of Aging, 2018)。
また、運動や認知的刺激が脳の可塑性を高めることも広く知られています。
これらを踏まえると、子育ては脳にポジティブな影響を与える可能性が予想されるのです。
そこで研究者らは「親は子どもの世話をすることで、頻繁に身体を動かし、社会的な関わりが増え、脳を活発に使う機会が増えるのではないか」と仮説を立て、検証することにしました。
今回の研究では、イギリスの大規模な生物医学データベース「UKバイオバンク」を活用し、子供を持つことが脳の機能的結びつきにどんな影響を与えるのかを調べました。
研究者たちは約3万7000人の被験者の脳スキャンデータを分析し、脳の異なる領域がどのように連携しているのかを調査しました。
特に、運動や感覚、社会的なつながりに関与する脳のネットワークに焦点を当てました。
その結果、子どもを持つ親は、子供を持たない人に比べて、運動や感覚に関する脳の結びつきが強くなっていることが判明しました。
通常、これらの脳領域の結びつきは加齢に伴い低下するのですが、子供を持つ親は逆に脳のネットワークがより活発に機能していたのです。
さらに脳の若返りの効果は子どもの数が多いほど顕著になっていました。
これは「子育ての経験そのものが、脳を鍛える環境要因として機能している」可能性を示唆しています。
また母親だけでなく父親にも同様の傾向が見られたことから、この影響は妊娠や出産によるものではなく、「子育てをするという経験」が脳に作用していることがわかります。
では、子どもを持たない人はこの効果を得られないのでしょうか?
これについて、研究者たちは「脳へのポジティブな影響は、子供を持つこと自体というよりも、子どもを持つことで増える社会的交流や身体的な活動によって生じている可能性が高い」と述べています。
つまり、必ずしも子どもを持っていなくても、社会的なつながりを増やしたり、身体を積極的に動かしたり、新しいことに挑戦するなどの認知的な刺激を増やすことで、誰でも脳を若返らせることは可能だと研究者は推測しています。
その一方で、子育てのみに特有の効果があるとも考えられますが、その点についてはさらなる調査が必要です。
一般的に「子育ては大変」と言われがちですが、今回の研究から、その経験が脳の老化を防ぎ、むしろ若返りを促す可能性があるとわかりました。
これは親にとっても、これから親になるかもしれない人にとっても、興味深い発見でしょう。
また子どもがいない人でも、積極的な社会的交流や身体活動を増やしたり、あるいは兄弟姉妹の子供の面倒を積極的に見たりすることで、脳の健康を維持できる可能性があります。
子育ての大変さの中にも、意外な恩恵が隠されているかもしれません。
参考文献
How parenthood may help keep your brain young
https://medicalxpress.com/news/2025-02-parenthood-brain-young.html
元論文
Protective role of parenthood on age-related brain function in mid- to late-life
https://doi.org/10.1073/pnas.2411245122
ライター
千野 真吾: 生物学出身のWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部