この動画では、水の中に入れた魚の死体が、大量の小さな魚によって一瞬のうちに食い尽くされています。

この小さな魚の正体は「ピラニア」です。

「もし、水の中に入れたものが、魚の死体ではなく人間の腕だったら」と考えるとぞっとしますね。

ではピラニアは、川に落ちた人間を食い尽くすことがあるのでしょうか。

ピラニアの生態や過去の事例を解説します。

目次

  • 噛む力は生物の中で最強の「ピラニア」
  • ピラニアは人間を襲うのか

噛む力は生物の中で最強の「ピラニア」

ピラニアはフィクション作品の中ではかなり恐ろしい魚として描かれることがあり、実際の映像でも恐怖を煽るようなものが数多くあります。

しかしピラニアは本当にそれほど凶暴なのでしょうか?

私たち人間がピラニアに食い尽くされて死ぬようなことはあるのでしょうか?

ピラニア / Credit:Canva

ピラニアは、アマゾン川や南アメリカの熱帯地方に生息する肉食の淡水魚の総称です。

主に、カラシン目セルラサルムス科セルラサルムス亜科(Serrasalminae)に属する種を「ピラニア」と呼びますが、実際には分類が曖昧な種もあります。

体長は様々で、小型の種は15cmほどですが、大型種になると60cmにもなります。

ピラニアという名前は、現地のトゥピ語から来ており、「歯のある魚」という意味があります。

魚の歯はその種類によって形や役割が様々ですが、ピラニアは、その名前の通り、歯に大きな特徴があります。

硬くて鋭く尖ったまるでナイフのような歯を持っており、獲物の肉や骨を食いちぎるのに適しています。

ピラニアは鋭い歯と強力な顎を持つ / Credit:Wikipedia Commons

また、ピラニアは魚の中でも際立った咬合力(噛みしめる力)を持っています。

実際、カイロ・アメリカン大学(AUC)の2012年の研究では、ブラック・ピラニア(学名:Serrasalmus rhombeus)は、体重に対する咬合力で比較すると、脊椎動物の中で最も強い咬合力を持つ種の1つだと報告しています。

この強力な咬合力は、大きな顎筋よって生み出されており、素早く噛むことよりも強い力で噛むことを機能的に優先しています。

鋭い歯と強力な顎の組み合わせがが「肉を引き裂く」ことを可能にしているのです。

そしてピラニアの野生種は、この力を使って、川にいる魚や小さな水生動物を食べています。

稀に、川に落ちたひな鳥やネズミの死骸を食べることもあります。

またピラニアは集団で獲物を食べる習性があり、狩りの際には群れを形成することがよくあります。

とはいえ、全ての種がこのような習性を示すわけではなく、単独で獲物を狩る種も存在します。

では、このようなピラニアにとって、人間もまた獲物の対象となるのでしょうか。

ピラニアは人間を襲うのか

ピラニアは確かに鋭利な歯と強靭な顎を持ちますが、その性質は臆病であり、基本的には自分から生きた大型の動物に近づくことはありません。

ピラニアが「人を食べる魚」として知られているのは、メディアによる誇張が原因です。

「人食い魚」はメディアによる誇張 / Credit:Generated by OpenAI’s DALL·E,ナゾロジー編集部

しかし稀に、限定的な条件で、ピラニアが人を襲うことはあります。

例えば、乾季で川の水位が低く、餌が少ない時期にはピラニアたちが密集することがあり、そのようなストレスのかかる状況で、人間を襲うことがあります。

またピラニアは血液の匂いに非常に敏感なため、出血状態にある人が川の中に入ると、獲物の存在を示す信号としてピラニアを興奮させ襲われる可能性を高めます。

さらにピラニアたちは死肉をターゲットにするので、人が負傷したり溺れたりして弱った状態で水中を漂っていると襲われるリスクが高まります。

実際、2011年にはボリビアで酒に酔った18歳の男性がカヌーから飛び降り、ピラニアに襲われて死亡するという事件が生じました。

また2015年にも、ブラジルで6歳の少女がカヌーの転覆により川の中に落ち、亡くなりました。

彼女はピラニアに襲われており、腰から下の骨が露出した状態で発見されたという。

とはいえ、ピラニアに襲われたことが直接の死因となることは稀です。

ピラニアに襲われる事件はこれまで多く生じていますが、大抵の場合は手や足に軽傷を負うだけで済んでいます。

致命傷になることはほとんどありません。

むしろ、人が川に落ちて溺死し、その遺体をピラニアが食べるケースの方が多いのです。

では、このような動画をどう説明できるでしょうか。

動画を見る限り、ピラニアは非常に凶暴で、人間すらあっという間に食べてしまいそうです。

しかし実は、このような光景の多くは、人々が作り出したショーです。

例えば、元アメリカ大統領セオドア・ルーズベルト氏は、1913年にブラジルのアマゾンを訪問した際、「1頭の牛が川に突き落とされ、ピラニアの群れによって食い尽くされ、あっという間に骨になる」という光景を目撃しました。

ただしこれは、地元の漁師たちによって仕組まれたものでした。

彼らはルーズベルト氏に忘れがたい体験をしてもらうため、あらかじめ川の一部を網で封鎖し、その中に大量のピラニアを集め、数日間飢えさせていたのです。

同様に水族館でも、ピラニアを大量に集め、空腹状態にし、興奮させるなら、獲物を食い尽くす光景を作り出すことができます。

この記事で引用した動画の真実は不明ですが、私たちが見かける「ピラニアに食い尽くされる光景」の多くは、自然界そのままの映像ではないのです。

もちろん、だからといってピラニアに危険がないわけではなく、ピラニアが生息している水域には安易に近づくべきではありません。

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参考文献

Are Piranhas Dangerous? The Truth About Piranhas
https://www.visitsealife.com/manchester/information/news/are-piranhas-dangerous-the-truth-about-piranhas/#what-do-piranhas-eat

元論文

Mega-Bites: Extreme jaw forces of living and extinct piranhas (Serrasalmidae)
https://doi.org/10.1038/srep01009

ライター

大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。

編集者

ナゾロジー 編集部

情報提供元: ナゾロジー
記事名:「 【真実か誇張か】ピラニアが人間を食い尽くすことはあるのか