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アメリカ在住の63歳の男性はその日、妻と地元のダイナーで朝食を楽しんでいました。
男性は遡ること9年前、前立腺がん発症のために前立腺の切除術を受けた病歴があります。
さらに男性はこの日の15日前に、膀胱炎と血尿の症状が続いたことで、膀胱の切除術を新たに受けたばかりでした。
膀胱の切除術はとても複雑な外科的手術です。
それは膀胱全体を切り取ってしまうので、腎臓で作られた尿を体外に排出する尿路がなくなってしまうことを意味します。
そこで男性は尿路のルートを変更するという再建手術も同時に受けていました。
しかし手術は無事に成功し、術後経過もきわめて良好なものでした。
男性は泌尿器科クリニックで診察を受け、傷が十分に治癒していると判断され、傷口を塞いでいたステープル(医療用のホッチキス)を取り外しました。
そのお祝いも兼ねて、彼と奥さんはダイナーで朝食を取っていたのです。
男性はダイナーでの食事中に、大きなくしゃみと咳をしました。
その瞬間です。
男性は腹部に生温かく湿った違和感を覚えました。
そして腹部をのぞいたところ、手術を受けた場所から小腸が文字通り「飛び出している」ことがわかったのです。
男性によると「お腹からピンク色の腸のループがいくつも突き出ているのが見えた」と話します。
男性は飛び出した腸をどうすればいいかわからなかったため、咄嗟にシャツで自らの腸を覆い隠しました。
その後、男性は自分で車を運転して病院に行こうとしましたが、彼の奥さんが「体の向きを無理に変えると腸を傷つけるかもしれない」と心配し、救急車を呼んだといいます。
しかし、くしゃみで傷口から脱腸するケースはあまりに異例だったため、救急隊員も正しい処置の方法を知りませんでした。
果たして、どのような処置が行われたのでしょうか?
救急車は電話での要請から4分後にダイナーに到着しました。
救急隊員によると、液体に濡れたシャツを脱がしたとき、縦に伸びる腹部の傷口から「大量の腸」が飛び出ているのに気づいたと話します。
ただ出血自体はごくわずかなものでした。
その際のイメージ画がこちらだという。
これは体内の臓器の透過図とかではなく、実際に目で見た状態を描き起こしたものだというので、どれだけすごい状態だったのかが想像できます。
救急隊員らは、傷口から脱腸を起こした際の応急処置に関する具体的なガイドラインを持っていなかったため、最善の処置の仕方がわかりませんでした。
一時的に腸を腹部内に戻すことも考えたそうですが、腸を傷つける恐れがあったため断念。
そこで彼らは生理食塩水に浸したパッドで腸を覆い、ガーゼロールで男性の腹部全体を固定しました。
病院に到着後、男性はすぐさま全身麻酔による外科手術を受けます。
泌尿器科の外科医3名が腸の損傷をチェックし、腹部内を洗浄した後、慎重に腸を元の場所に戻しました。
縫合糸で確実に傷口を閉鎖し、病院内で経過を見ることに。
最初のうちは手術による痛みが続いたため、静脈内鎮痛薬を投与していましたが、幸運にも男性の術後経過は良好で、腸損傷や細菌感染の兆候も見られませんでした。
徐々に通常食に戻していき、手術から6日目には健康な状態で退院することができました。
症例を報告した医師チームは「手術後の合併症として創傷離開(傷口が開いてしまうこと)はよく知られていますが、くしゃみが原因で傷口から脱腸を起こした例はほとんどない」と述べています。
またこの症例が起きた際の適切な応急処置のガイドラインもなかったため、今回の症例を貴重な事例として、今後のためのガイドラインを設定する必要があると話しました。
くしゃみは誰もが毎日のようにするものですが、実は体への負担は予想以上に大きなものです。
最近では、英国在住の男性がくしゃみを我慢したことで喉が裂けてしまう事例も報告されていました。
くしゃみをする際は予想外の事故にご注意ください。
参考文献
Man sneezes so hard his guts come out. Baffled doctors manage to save him
https://www.zmescience.com/science/news-science/man-sneezes-so-hard-his-guts-come-out-baffled-doctors-manage-to-save-him/
元論文
An Unusual Case of Bowel Evisceration after Sneezing
https://pubs.sciepub.com/ajmcr/12/6/1/index.html
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
ナゾロジー 編集部