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想像するだけで身の毛がよだちますが、この恐怖の事例が本当に起こってしまったようです。
米ウィルス眼科病院(Wills Eye Hospital)はこのほど、右目を蜂に刺された55歳のアメリカ人男性の症例を新たに報告しました。
男性は救急病院に駆けつけたものの、適切な処置がなされず、蜂の針が眼球の中に残ってしまったという。
一時は失明寸前まで陥ったそうですが、果たして男性は無事だったのでしょうか?
報告の詳細は2024年6月22日付で医学雑誌『The New England Journal of Medicine』に掲載されています。
※ 以下、蜂の針に刺された眼球の画像が出てきます。苦手な方は閲覧にご注意ください。
目次
今回の症例はアメリカ北東部ペンシルベニア州の都市フィラデルフィアで報告されました。
匿名の男性(55)は当時、養蜂家ではないものの、蜂の巣がある敷地の中で働いていたといいます。
何が蜂を挑発してしまったのかは不明ですが、男性によると「敷地内を歩いていたら、数匹の蜂が飛んできて、そのうちの1匹に右目を刺された」のだという。
突発的な激しい痛みに襲われた男性はすぐさま地元の救急外来に駆け込みました。
そこで眼球の外に出ていた蜂の針を除去する応急処置を受けました。
ところが救急外来の医療スタッフは眼科の専門医ではなかったため、完全な処置がなされておらず、針の先端の部分が眼球の中に折れて残ってしまったようなのです。
ウィルス眼科病院のタリア・ショシャニー(Talia Shoshany)氏は「救急外来が針の断片を見逃したことは仕方のないことでした」と言及。
「彼らは針の大部分を抜くことには成功していましたが、眼球の内部に残った断片は専用の細隙灯(さいげきとう※)でしか見ることができなかったからです」と続けています。
(※ 細隙灯とは、眼科で必ず見る、あのアゴを乗せる検査器具のこと。患者の目に光の切片(スリット光)を当てることで、眼球を拡大して観察することができます)
加えて、蜂の針を抜くことは手に刺さった画鋲を抜くような簡単な作業ではありません。
その理由は蜂の針の特殊なしくみにあります。
そもそも蜂の針は画鋲や縫い針のように、まっすぐな一本の針にはなっていません。
実は針が2本に分かれていて、それを交互にピストン運動させることで、ドリルのように刺した皮膚を掘り進めていくのです。
しかもそれぞれの針の先端にはトゲトゲの返しがついていて、簡単には抜けないようになっています。
無理に引き抜こうとすると針が折れて、先端が中に残ってしまうのです。
男性に見られたのはまさにこの現象でした。
さらに驚くべきは、蜂の刺した針が根元に付着している筋肉ごと引き離されて、自動で動くことです。
当の蜂はもういないのに、切り離された筋肉がピストン運動を続けることで刺した皮膚を掘り進めていきます。
それから針のピストン運動に合わせて、腹部に貯蔵された毒を注入していくのです。
ではその後、男性の目にはどんな異変が生じたのでしょうか?
応急処置の2日後、男性の右目の痛みと視力は劇的に悪化し始めました。
虹彩(瞳孔を囲んでいる部分)の周りの血管が出血し、気づいたら男性は右目の視力をほとんど失っていたのです。
左目を閉じると、かろうじて自分の指を数えることができるくらいだったといいます。
そこでようやく男性は専門のウィルス眼科病院で診察を受けました。
ショシャニー氏らは男性の目で何が起こっているかをよく見るために、蛍光染料を使って患部を染色することに。
その状態で眼球を10〜16倍に拡大した結果、虹彩と白眼の境界のあたりに蜂の針の先端が埋まっていたことが判明したのです。
こちらが実際の画像ですが、苦手な方は閲覧をお控えください。(※ 音声はありません)
埋め込まれた針のせいで、眼球全体を覆う薄い粘膜が炎症を起こしており、さらに瞳孔と虹彩を覆う角膜も腫れ上がっていました。
こうした異常のせいで右目の視力が大幅に落ちていたと見られます。
そこで医療チームは眼科専用のマイクロ鉗子(かんし)を用いて、男性の右目から残りの針を除去することに成功しました。
その後、抗菌薬とステロイドを含む点眼薬を処方して様子を見ることに。
すると5カ月後、男性の右目の視力は大きく改善し、生活に支障のないレベルまで回復したとのことです。
今回の症例のように、眼球を蜂に刺されるケースは極めて稀であり、ショシャニー氏も自身の眼科医のキャリアの中では初めてだったといいます。
しかしもし眼球を刺されることがあれば、慎重な処置が必要になることは確かです。
自分で無理に抜こうとすれば、男性のように針が折れて目の中に残ってしまうリスクがあります。
ショシャニー氏らは「ハチに目を刺された場合は、眼の中に針が残って重度の炎症を起こす危険性があるため、ただちに専門の眼科で診察を受けてください」と呼びかけました。
同じ目に遭いたくなければ、とにかくハチには近づかないことですね。
参考文献
Horrific Bee Sting Leaves Barbed Stinger Hiding in a Man’s Eyeball
https://www.sciencealert.com/horrific-bee-sting-leaves-barbed-stinger-hiding-in-a-mans-eyeball
Man suffers rare bee sting directly to the eyeball—it didn’t go well
https://arstechnica.com/science/2024/06/doctors-pull-bee-stinger-out-of-mans-bloody-eyeball-after-days-of-pain/
元論文
Ocular Bee Sting
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMicm2400652
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。
他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。
趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
ナゾロジー 編集部