火星に住むのは危なそうです。

スイス連邦工科大学チューリッヒ校(ETH Zurich)らはこのほど、火星で収集された地震計のデータから、火星上にはほぼ毎日バスケットボール大の隕石が直撃していることを明らかにしました。

この衝突頻度はこれまでの推定値の約5倍に相当するとのこと。

火星に移住する際は”隕石”に注意しなければならいかもしれません。

研究の詳細は2024年6月28日付で科学雑誌『Nature Astronomy』に掲載されています。

目次

  • 地球より火星で隕石が直撃しやすい理由とは?
  • バスケットボール大の隕石が毎日直撃していた!

地球より火星で隕石が直撃しやすい理由とは?

隕石の落下と聞くと、地球上ではすごく珍しい現象のように思えますが、まったくそんなことはありません。

実際に私たちが暮らす地球にも毎日のように隕石が飛来してきており、年間で数千〜数万個の隕石が地上に降り注いでいるとされています。

地球には毎年5200トンの「宇宙のチリ」が降り注いでいた

ただし地球の防護シールドである大気圏がほとんどの隕石を燃やし尽くしてくれるため、そこを通過した隕石はたいてい数センチ程度の小さなものであり、落下した隕石に私たちが気づくことはほぼありません。

まして、地上の人々や建物にダメージを与えるほどの隕石が落ちてくることは極めて稀です。

ところが火星では少し事情が違います。

火星は大気が薄いから隕石が落下しやすい / Credit: canva / ナゾロジー編集部

というのも火星の大気は地球より100倍以上も薄いため、シールドの役割をあまり果たさないからです。

つまり、火星は地球と同じようには保護されておらず、飛来した隕石も大気で燃え尽きることなく、地上に落下してきます。

これに加えて、火星の位置も大きな問題です。

火星は中心部の太陽から数えて地球の外側を公転していますが、その次の木星との間に「小惑星帯(アステロイドベルト)」を挟んでいるのです。

小惑星帯はその名の通り、無数の小惑星が寄り集まっている領域であり、太陽系惑星に飛来する隕石の多くはここからやってきます。

火星はこの小惑星帯に最も近い惑星なので、隕石が飛来するリスクも高くなっているのです。

火星と木星の間にある「小惑星帯」 / Credit: ja.wikipedia

では具体的に、火星の地上にはどれくらいの頻度で隕石が衝突しているのでしょうか?

その推定方法はこれまで、火星の公転軌道上にある探査機が撮影した衛星データに頼っていました。

この探査機が火星表面の継続的な写真を撮影し、新しいクレーターの出現を記録して、そこから隕石の衝突頻度を推定していたのです。

しかし、ご想像の通り、この方法では隕石の落下を見逃すことも多く、不完全な推定値しか得られていませんでした。

そこで研究チームは今回、火星の地上にセットされた「地震計」を使うことにしたのです。

バスケットボール大の隕石が毎日直撃していた!

本調査でチームが用いたのは、アメリカ航空宇宙局(NASA)が開発した火星探査機「インサイト(InSight)」に搭載されている地震計です。

インサイトは2018年5月5日に打ち上げられ、2018年11月26日に火星の地上に着陸しました。

その後、火星の地震データや風の音を捉えるなどの成果をあげましたが、電力不足による通信途絶のため、2022年12月21日に運用を終了しています。

火星探査機インサイト / Credit: ja.wikipedia

しかしその調査期間のうちに、インサイトの地震計は十分な観測データを記録してくれました。

チームはこの振動のデータを分析することで、火星にどれくらいの頻度で隕石が落下しているかを算出することに。

問題は隕石の落下による「揺れ」と、火星の地殻運動による「揺れ」を区別することですが、これはまったく難しくありません。

なぜなら同じ大きさの揺れであっても、隕石の落下による「揺れ」の方がはるかに速く起こるからです。

例えば、火星でのマグニチュード3の地震を観測するには数秒ほどかかりますが、隕石の落下だと同じ揺れを観測するのに0.2秒もかかりません。

こうしてチームは2021年12月からの1年間にインサイトの周辺で隕石の落下が何回起きたかを記録し、それを惑星規模に換算することで隕石の衝突頻度を割り出しました。

黒射線:インサイトの把捉範囲、ピンク菱形:大きな隕石、ピンク星:小さな隕石、白星:画像で撮影された落下地点、白丸:地震 / Credit: Géraldine Zenhäusern et al., Nature Astronomy(2024)

その結果、火星に隕石が直撃する頻度はこれまで考えられていたよりも遥かに多いことが判明しています。

具体的には、直径8メートル以上のクレーターを作る隕石が年間に280〜360回、1日に約1回の割合で落下していたのです。

このサイズのクレーターを作るとなると、隕石の大きさなバスケットボール大になるといいます。

さらに直径30メートルを超える大型のクレーターは月に一度の頻度で出現していると推定されました。

研究主任の一人で、惑星科学者のジェラルディン・ゼンハウザーン(Géraldine Zenhäusern)氏は「この数字は従来の画像データだけから推定された数字の約5倍に匹敵する」と述べています。

火星上で撮影された隕石落下によるクレーター(マークは落下地点) / Credit: NASA –InSight Detects an Impact for the First Time

以上の結果は、火星にあるクレーター生成の歴史をひもとくヒントとなるだけでなく、人類が火星探査をする際の貴重な情報源ともなります。

実際にこれだけ隕石が盛んに降り注ぐのであれば、有人での火星探査をする際の要注意事項となるでしょう。

研究者によると、隕石の衝撃はたとえ隕石自体に当たらなくとも、クレーターの直径の100倍もの爆風域を引き起こすため、非常に危険であるといいます。

もし将来的に火星に移住できたとしたら、最も警戒すべき自然災害は”隕石の雨”となるかもしれません。

全ての画像を見る

参考文献

New class of Mars quakes reveals daily meteorite strikes
https://ethz.ch/en/news-and-events/eth-news/news/2024/06/new-class-of-mars-quakes-reveals-daily-meteorite-strikes.html

Quakes on Mars Reveal Red Planet Is Constantly Bombarded by Meteorites
https://www.sciencealert.com/quakes-on-mars-reveal-red-planet-is-constantly-bombarded-by-meteorites

元論文

An estimate of the impact rate on Mars from statistics of very-high-frequency marsquakes
https://doi.org/10.1038/s41550-024-02301-z

ライター

大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。

編集者

ナゾロジー 編集部

情報提供元: ナゾロジー
記事名:「 火星にはほぼ毎日「バスケットボール大の隕石」が直撃していた!