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研究グループは、今回の研究に取り組むにあたり、タンパク質の摂取タイミングが筋肥大に及ぼす影響に関する先行研究をまとめています。
それによると、このテーマに関する2つのメタ分析は、いずれも摂取タイミングの違いによる筋肥大効果を認めていないものの、同じ種類や量、頻度のプロテインを摂取した対照群を用いた比較実験が少ないため、本当に摂取タイミングが効果に影響を及ぼさないのか、さらなる研究が必要だと指摘しています。
それを踏まえ、今回の研究では、1年以上の筋トレ経験を持つ男性筋トレ愛好家たちを対象にトレーニング実験を行っています。
トレーニング実験では、筋トレ愛好家たちを2つのグループに分けて、8週間にわたりトレーニング実験を行いました。
1つは筋トレの直前・直後にプロテインを摂取する群(Immediate群)、もう1つは筋トレの3時間前・3時間後にプロテインを摂取する群(3h群)です。
Immediate群はトレーニングの直前と直後にプロテイン飲料を各25g飲み、一方の3h群ではトレーニングの3時間前と3時間後に同じ量のプロテインを飲んでいます。
また、両グループともにプロテインを含めて体重1kg当たり2gのタンパク質を毎日摂取するように求められました(トレーニングをしない日は食事のみで摂取)。
この際、筋トレ愛好家たちは公認栄養士との面談を通し、20~40gのタンパク質を4〜7回に分けて摂るよう指導を受けるとともに、スマホアプリによって、日々の食事状況が記録されました。
この実験方法によって、両グループの1日を通したタンパク質とプロテインの摂取量には差がなく、トレーニングの直前・直後にプロテインを飲むことの有効性の評価が可能になります。
早速、今回の実験で得られた結果を見ていきます。
8週間後の筋肉量は両グループで同じくらい増えていました(Immediate群:平均1.18kg、3h群:平均1.07kg)。
また、筋力も両グループともに向上が認められました。
これらの結果は、筋肥大や筋力アップのためにトレーニングをしている筋トレ愛好家の場合、1日のタンパク質摂取量が十分で(体重1kg当たり2g)、かつ1回当たり20~40gの量を、1日を通して摂取すれば、必ずしもトレーニングの直前・直後にプロテインを飲まなくても良いことを示しています。
得られた結果をもとに、この研究グループは、プロテインをとるタイミングが筋肥大に影響を及ぼすとしても、それは比較的小さいものだと記しています。
また、仮にアナボリックウィンドウ(ゴールデンタイム)の概念が現実に存在するとしても、従来から思われている時間軸よりも広い可能性があり、筋肉を成長させる上で、1日を通したタンパク質の摂取量の確保の方が、優先度が高いとも指摘しています。
総じて、今回得られた結果は、先行研究の見解をさらに裏付けるもので、トレーニング後に欠かさずプロテインを飲んできた筋トレ愛好家の中には残念に思う人もいるかもしれません。
ただ、必要なタンパク質を確保するために、トレーニングの直前・直後にプロテインを飲むことがプラスに働く場合もあります。
その理由は、この研究でも言われているとおり、タンパク質は1回当たり20~40g(体重1kg当たり0.25~0.40g)の量を3~4時間おきに摂取することが大切なことが関係しています。
つまり、トレーニングと食事の間に時間が空くようなケースでは、筋トレの直前や直後にプロテインを摂取する習慣は、結果的に筋肉を成長させるために悪くないタイミングになっていると言えるのです。
その上で、今回の結果を踏まえると、いつもはカバンに忍ばせているプロテインシェイカーを忘れてしまった日は、慌てずに、1日を通したタンパク質が不足しないようにその後の食事を工夫すれば十分でしょう。
また、トレーニング直後にプロテインを飲み、その後すぐに夕食をとっている人は、例えば、昼食と夕食のちょうど間といったように、タンパク質が摂れていない隙間の時間帯を見つけてプロテインを飲むのもオススメです。
参考文献
What to Eat Before and After Your Workout
https://time.com/6978506/what-to-eat-before-and-after-workout/
元論文
Timing matters? The effects of two different timing of high protein diets on body composition, muscular performance, and biochemical markers in resistance-trained males
https://doi.org/10.3389/fnut.2024.1397090
ライター
髙山史徳: 大学では健康行動科学、大学院では体育学・体育科学を専攻。持久系スポーツの研究者として約10年間活動。 ナゾロジーでは、スポーツや健康に関係する記事を執筆していきます。 価値観の多様性を重視し、多くの人が前向きになれる文章を目指しています。
編集者
海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。