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さらに同じ研究成果は英オックスフォード大学(University of Oxford)によっても報告されています(The British Journal of Psychiatry, 2018)。
同チームは前提として、囚人が栄養価を欠いた食事を提供されており、これが日常における暴力性に繋がっているのではないかと仮説を立てていました。
そこで18歳以上の囚人231名を対象に必須栄養素を含んだサプリメントを与えて、プラセボ対照群と比較。
その結果、サプリメント摂取したグループはわずか2週間で、プラセボ対照群に比べて暴力行為が約35.1%も減少したのです。
では、なぜバランスの良い食事が暴力性を緩和してくれるのでしょうか?
ウィルソン氏はこれらの報告について「私にとってはまさに驚くべきことでした。このアプローチは囚人の暴力行為を安全かつ低リスク、低コストで改善できることを示していたからです」と話します。
またこの方法は問題を解決する上で理にかなってもいました。
というのも、必須栄養素には気分に影響を及ぼすことが知られている神経伝達物質の「セロトニン」や「ドーパミン」を生成するプロセスに不可欠な成分が入っているからです。
つまり、栄養価の高い食事は脳内の神経伝達物質の分泌を促し、メンタルヘルスの安定につながると考えられるのです。
「私たち人間は身体的存在であると同時に精神的存在であり、脳への不十分な栄養補給は精神面に悪影響を及ぼし、社会的行動を不安定にさせるでしょう」とウィルソン氏は指摘しました。
ウィルソン氏はこのアプローチをホロウェイ刑務所にも適用できないかと刑務所長にかけ合ったそうですが、残念ながらこれが実現されることはなかったといいます。
しかし、その後も「栄養状態を改善すると暴力が減る」ことを示した研究報告はアメリカやシンガポールでも報告されました。
より確信を深めたウィルソン氏は刑務所のセラピストを辞めて、ロンドン中心部で個人開業をしています。
現在はクライアントの心理療法に食事改善を取り入れたアプローチをとっているとのことです。
以上の話は何も暴力性向の強い囚人や犯罪者だけの問題ではありません。
食事とメンタルヘルスの関係性はすべての人に当てはまることであり、例えば、超加工食品ばかりを食べている人は認知機能が低下し、うつ病や不安症の発症率が高くなることがわかっています。
バランスの良い食習慣によって、心の平穏を保てるようになるかもしれません。
参考文献
‘When you improve nutrition, you reduce violence’: Psychologist Kimberley Wilson on working in Europe’s largest women’s prison
https://www.livescience.com/health/mind/when-you-improve-nutrition-you-reduce-violence-psychologist-kimberley-wilson-on-working-in-europes-largest-womens-prison
Healthy eating may prevent crime
https://www.theguardian.com/uk/2002/jun/25/ukcrime.society
元論文
Influence of supplementary vitamins, minerals and essential fatty acids on the antisocial behaviour of young adult prisoners
https://doi.org/10.1192/bjp.181.1.22
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
ナゾロジー 編集部