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米国のグローバルシステム研究所(GSL)の研究により、花粉はアレルギー症状を引き起こすだけでなく、その粒子が飛散することで、太陽光の散乱パターンを変化させたり、雲形成の核となって天候に影響を与えることが示されたのです。
さらに花粉を空気中から除去すると考えられていた雷雨が、花粉症を悪化させる要因になり得ることも示されました。
研究内容の詳細は『Global Systems Laboratory』のホームページにて公開されています。
目次
木、草、雑草から放出される花粉は、春から夏にかけての量が特に多く、この時期には多くの人がアレルギーの症状に苦しんでいます。
症状はくしゃみや鼻水、目のかゆみなどが一般的で、中には処方薬を必要とするほど重いアレルギー反応を示す人もいます。
日本の厚生労働省によると、日本人の花粉症は全体39%にも及び、国民病と言われる状況になっています。
花粉症は、個人の日常生活に影響を与え、仕事の効率低下や学校での集中力の低下にもつながり、広範囲にわたる影響を及ぼしています。
そのため今や花粉の飛散量予報はかなり重要性が高まっています。
花粉を予測するためには、花粉と天候との関係を理解することが重要です。
そこで役立つのが、アメリカ国立海洋大気庁(NOAA)のグローバルシステム研究所(GSL)が開発したRAP-Chem(Rapid-Refresh Chemistry)と呼ばれる気象・大気化学予測システムです。
このシステムは、高度な気象データと化学的分析を組み合わせて、地域ごとの大気汚染状況を予測することができ、これには花粉レベルをリアルタイムで提供することもできるという。
そして面白いことに、この新たに開発されたモデルからは、天候によって花粉の量がどのように増加するかだけでなく、空気中の花粉が気候に与える影響についても示されているのです。
研究によると、花粉はただアレルギー症状を引き起こすだけでなく、その粒子が空中に飛散することで、太陽光を散乱し、地球のエネルギーバランスに影響を及ぼす可能性があるのだという。
また空気中に浮遊する花粉粒子は雲の核としても機能する可能性も示されました。
花粉は気候にも間接的な影響を及ぼしており、雲形成プロセスにおいても重要な役割を担っているというのです。
具体的には、花粉粒子が大気中に存在すると、その表面で水蒸気が凝結しやすくなります。
この水蒸気の凝結は、雲を形成する過程の初期段階であり、花粉粒子がこの過程に介入することで、雲の量や性質、さらには降水量に影響を与えることが考えられます。
花粉粒子が持つこのような性質は、それが他の浮遊粒子と同様に、気候変動の一因となり得ることを示唆しています。
また新しい気象予測モデルによると、雷雨が花粉症の症状を悪化させる要因となることが示唆されています。
通常、雨は大気中の花粉を洗い流し、花粉の濃度を低下させるため、花粉症に苦しむ人々にとっては一時的な救済となります。
しかし、激しい雷雨が発生するとこの状況は逆転します。
雷雨では、強い冷たい下降気流が地表近くの花粉を一時的に集め、次に湿度が高く温暖な上昇気流によってこれらの花粉が大気中に効率的に再分散されます。
この急激な花粉の移動は、地上にいる人々が大量の花粉に曝される原因となります。さらに、雷雨に伴う強風や湿度の変化は、花粉粒子を細かく砕き、人が吸い込みやすい形状に変えることがあります。
これにより、花粉粒子がより深く呼吸器系に侵入しやすくなり、アレルギー反応を引き起こす可能性が高まります。
天候によって影響される花粉の飛散量が、逆に天候へも影響している点を示したこのモデルは今後の花粉飛散量の予測技術を、さらに向上させる可能性があります。
天気予報では精度の向上により、自分のいる場所で1時間後に雨がふるかどうかも知ることができるようになりました。
もし花粉にかんしても「1時間後に花粉濃度が急上昇します」といった警告が得られるようになれば、花粉症の人々にとって大きな助けになるでしょう。
参考文献
Spring is in the air–and in your nose, eyes, and lungs!
https://gsl.noaa.gov/news-media/news/spring-is-in-the-air-and-in-your-nose-eyes
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。
大学で研究生活を送ること10年と少し。
小説家としての活動履歴あり。
専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。
日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。
夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。
編集者
ナゾロジー 編集部