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肩の起源に関する主な説は2つあります。
ひとつは、「ギルアーチ仮説(Gill-Arch Hypothesis)」です。これは、魚のヒレが鰓弓(さいきゅう[ギルアーチ]、エラを支える骨の構造)から進化し、これが肩を形成したとする仮説です。
もうひとつが、「フィンフォールド理論(Fin-Fold Theory)」で、これは魚のヒレが体側の筋肉の線(フィンフォールド)から進化したとするものです。
これらの理論は19世紀後半に提唱され、長年多くの支持を得てきましたが、ギルアーチ仮説は化石証拠が限られているため確定的ではなく、フィンフォールド理論は肩帯の進化に関しては不完全な説明とされてきました。
ここで登場するのが、今回ご紹介する研究を行ったインペリアル・カレッジ・ロンドン(Imperial College London)のブラゾウ博士(Dr. Brazeau)らの研究チームです。
彼らは、古代魚の化石を詳しく調べ、人間の肩の進化は魚の鰓を支える骨の構造「鰓弓」から始まったという新たな説を提唱しました。
約5億年前、脊椎動物は尾を持ち、対になった鰓弓(さいきゅう)を持つ顎のない海洋生物でした。
約4億700万年前、強靭な外骨格を持つ板皮類(placoderms)が登場します。彼らは、顎を持つ最初の脊椎動物であり、多くの化石を通じて現代の私たちに進化的洞察を与えてくれます。
ブラゾウ博士らの「肩の起源」問題への取り組みは、板皮類の化石の再検討により行われました。
彼らは、化石を詳細に観察していくうちに、この古代魚の頭蓋骨の中に、肩と頭をつなぐ「関節のようなもの」を発見しました。
板皮類よりもっと前の時代の魚の化石(顎のない魚)と比較したところ、その「関節のようなもの」は、顎のない魚が持つ鰓弓と似ていることがわかりました。
鰓弓について、ちょっと整理をしていきますね。
顎のない魚は、顎のある魚よりも多くの鰓弓を持ちます。顎のない魚には5~20個の鰓弓がありますが、顎のある魚だと鰓弓は5個以下です。
板皮類は顎のある魚ですから、鰓弓は5つ以下です。しかし、頭蓋骨の中には、鰓弓とは異なる「関節のようなもの」が残っていたのです。
この発見と先行研究に基づき、研究チームは、この「関節のようなもの」が、6番目の鰓弓から進化したものであると結論付けました。
つまり、鰓弓が肩に組み込まれて「関節のようなもの」となり、頭と胴体を分ける役割を担うようになったというわけです。
彼らの見解によれば、鰓弓の初期の進化は「魚が口をより大きく開いて様々なものを食べるため」に起こりました。
次に、ヒレを支えたり動きをコントロールするために進化し、最終的に肩帯を形成するようになったとされます。
ブラゾウ博士らの説は、肩が鰓弓から始まった可能性を示唆する点でギルアーチ仮説を支持していますが、他の研究が示す要素も含んでいる点で、新たな視点を提供しています。
すなわち、他の研究が「筋肉を支える特定の骨は徐々に他の骨格に取って代わられる」ことを示すのと同様に、彼らの説は「鰓弓は本来の役割から、首を支える筋肉と骨格などの新たな構成に取って代わられた」と説明します。
今回ご紹介した研究は、私たちの身体が「どこからきたのか」を、さまざまな証拠をパズルのように探求していく点に面白さがありました。
しかし最も興味深いのは、私たちの「肩」が、「さまざまなものを食べるための進化」に起源を持つという見解にあるように思います。食欲は、身体の構造まで変えてしまうのでしょうか。
参考文献
How the fish got its shoulder | Imperial News | Imperial College London
https://www.imperial.ac.uk/news/249099/how-fish-shoulder/
元論文
Fossil evidence for a pharyngeal origin of the vertebrate pectoral girdle | Nature
https://www.nature.com/articles/s41586-023-06702-4