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さらに水中適応の程度の差に応じて、以下の3つのグループに分けられました。
1つ目はカモノハシやミズオポッサム、ミズトガリネズミのような半水生の哺乳類で、チームはこれを「A1」と表記しています。
2つ目はアザラシやアシカのようにほとんど水生に適応しながら時々陸にも上がる哺乳類で、「A2」と表記されています。
そして3つ目がイルカやクジラ、ジュゴンのような完全に水中適応した哺乳類で、「A3」と表記されています。
ちなみに、完全な陸上哺乳類は「A0」です。
さらに、A0〜A3の間の進化がどのように起こっているか調べたところ、陸生(A0)と半水生(A1)の間の進化はかなり双方向に生じており、半水生になったとしても再び完全な陸生に戻れることが示されました。
一方で、水中適応が進むほど進化は不可逆になっており、A2やA3から逆方向に進化する例は起きていなかったのです。
よって、完全に水中適応したイルカやクジラが陸生方向に進化する確率は限りなく0%に近いと考えられます。
では、水中への完全適応が陸生への回帰的な進化を妨げる原因とは何なのでしょうか?
最大の理由は、水中適応が深まるにつれて生態がガラリと変わってしまうことです。
本調査では、種が水生化するに従って体重が増加する傾向にあり、半水性種では100万年あたり5%増加し、完全な水性種では100万年あたり最大12%増加していました。
これについてチームは「生態地理学のルールの観点からも理にかなっている」と指摘します。
というのも大型の体は、体積(中身)に対する表面積(皮膚)の比率を最小にすることで熱の保存率を高められるため、水中のように体温をすばやく奪う環境に適しているのです。
これを「ベルクマンの法則」といい、北極圏のような寒い地域に生息する動物は大型化する傾向が見られます。
また、陸上では体が重いほど移動に不利になりますが、水中では浮力のおかげで体を大きくしても支障ありません。
さらに水中生活では、スムーズな遊泳のために、水の抵抗を生む四肢をなくして、流線形のボディを進化させる必要がありました。
イルカやクジラのように完全に水中適応した種ほど、この傾向は強くなります。
進化生物学者で研究主任のブルーナ・ファリーナ(Bruna Farina)氏は「手足のような複雑な形質を失うことは、何百万年もの選択圧と遺伝子の突然変異によって形成されたものであり、簡単に元に戻るようなプロセスではない」と説明します。
こうした体格や生態の大幅な変化が、海洋哺乳類たちの進化を不可逆なものにしているのでしょう。
ただし研究者らは、陸生への進化が絶対に起きないと断定しているわけではありません。
そもそも生命はすべて母なる海で誕生し、その中の勇気ある冒険者たちが陸へと進出して、四肢を進化させました。
もし今後、水中での生活が困難になれば、陸生へと方向転換をする可能性もありうるでしょう。
しかし現在は、最初に生命が陸上進出したときとは状況が異なり、地上にはすでに狩りを得意とする4つ足のハンターがごまんといます。
そんな中で海洋哺乳類が陸に上がろうとすれば、身軽なハンターたちによって簡単に妨害ないし捕食されてしまうはずです。
そうなるとよほどの環境激変が起きない限り、イルカやクジラが地上へ戻ることは難しいでしょう。
そしてそうした環境激変に対して、イルカやクジラのように進化的な方向性に強い制約を受けている種が絶滅を免れることもかなり難しいだろうと予想できます。
彼らが再び地上を歩くことは二度と無いのかもしれません。
参考文献
Sea Mammals May Never Be Able to Return From The Ocean https://www.sciencealert.com/sea-mammals-may-never-be-able-to-return-from-the-ocean元論文
Dollo meets Bergmann: morphological evolution in secondary aquatic mammals https://royalsocietypublishing.org/doi/10.1098/rspb.2023.1099