暇を持て余すことを嫌う人がいる一方で、暇な時間を楽しむ人がいます。

ひとりで「やるべきことがない時間」を楽しめる人は、その時間をどのように過ごしているのでしょうか?

米国アリゾナ大学の最新の研究によれば、創造的な人たちは、ひとりの「何もしない時間」を、アイデアを紡ぎ出すことに使い、考える過程を愉しんでいることが分かりました。

研究の詳細は、2023年6月23日付の『Creativity Research Journal』誌に掲載されました。

目次

  • 人は暇な時間を与えられると創造的になる
  • 創造的な頭脳は暇になると連想を始める

人は暇な時間を与えられると創造的になる

JKローリングが「痩せこけた眼鏡をかけた少年」のアイディアを思いついたのは、1990年、マンチェスターからロンドンに戻る地下鉄の中でした。

ペンを持っていなかった彼女は、進みの遅い地下鉄の中で、心の中だけで思考を深め続けました。

「座っている4時間、ずっと考え続けたおかげで、すべての細部に生命を与えることができたのです」

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人は、特定の作業に集中する必要がなくなると、自分の思考に没頭し、新たなアイデアを追求したり、既存のアイデアをさらに発展させる傾向があります

もしローリングが、頭の中で創造の翼をはためかせる代わりに、ツイッターフィードをスクロールし続けたなら、ハリー・ポッターはこの世に誕生しなかったかもしれません。

私たちは、ローリングのような「創造的な人々」のひらめきの話を、実際に起こったこととして知っています。しかし、現象として知ってはいても、彼らの頭の中で何が起こっているのかについては、ほとんど何も知りません。

本研究を行った米国アリゾナ大学のラファエリ氏は、創造的な人々の内的世界について、以前から興味を持っていました。

「創造性に関心があります。創造的な人の頭の中で何が起こっているのか、特に『やるべきタスクがない』ときに何が起こっているのかを知りたいと思っていました」

創造的な頭脳は暇になると連想を始める

ラファエリ氏らの研究チームは、「創造的な人々」が暇な時間に何を考えるか、どのように思考するのかを、2つの実験で調査しました。

第一の実験では、81名の成人が参加しました。参加者は10分間デジタル機器の使用を禁止され、一人で創造性を測る問題に対して思いついたことを声に出して話すことが求められました。

参加者の創造性の評価には「発散的思考タスク(a divergent thinking task)」というテストが用いられました。

「発散的思考タスク」とは、さまざまな回答が可能な問題に対し、どれだけ多くの独創的な解決策が提案できるかを調査するテストで、解答の多彩さによってその人の創造性の高さを評価します。

本研究においては、「100本の輪ゴムを使ってどのようにお金を稼ぐか?」などの質問がされました。

この実験は、ただ思いついたことをしゃべるというだけなので、人によってはかなり退屈な作業となるでしょう。

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しかし結果を見ると、発散的思考タスクで「新規性や独自性を示すスコア」が高かった参加者、すなわち「創造的な人々」は、携帯電話やインターネットなどが使えない一人の時間を、あまり退屈せずに過ごしていたことがわかりました。

彼らはこの時間を自分の思考に深く没頭するために用いており、またその思考内容を口に出して話す際、多くの言葉を用いて表現する傾向があるとわかりました。

さらに、彼らが思考を言葉にするとき、「これは…を思い起こさせる」や「そう言えば…」といった表現を頻繁に用いており、1つのアイデアからさらに多様なアイデアへと連想している様子が伺えました。

この結果について、研究の筆頭著者であるラファエリ氏は、次のように説明しています。

「一般に、人々の思考はランダムに異なるトピックやアイデア間を飛び回る傾向があります。しかし創造的な人々は、一見すると無関係な思考でも、何らかの関連性を見つけ、思考の流れを作り出す傾向がありました

第二の実験では、COVID-19パンデミックの制約下で、ひとりで「やるべきことがない時間」を過ごす2,612人の成人を対象としました。

この実験では、参加者にオンラインアンケートで「自分が創造的だと思うか」および「COVID-19の拡散に伴い、あなたはどの程度退屈しましたか」などの質問に回答してもらいました

すると、自らが「創造的である」と認識している参加者は、パンデミックで制限が科された期間中も「退屈していなかった」と回答したのです。

本研究は、創造性に富む人々は「やるべきことがない時間」を得たとき、それを創造の時間とする傾向があることを示しました。この結果は、私たちが時間を「埋める」ためにスマホや他のデバイスに頼ることが、実は創造性を妨げている可能性を示しています。

もしあなたが創造性のある人間ならば、何もすることのない「退屈」な時間に、すぐにスマホへ手を伸ばすのはやめましょう。

何もすることがない退屈な時間は、あなたの想像力を最大限に発揮させるチャンスになるかもしれないのです。

「私たちは、家庭、職場、学校などで、深い思考をする時間を尊重し、リラックスした環境を整えるべく努力をするべきだと思います」と、研究に参加したアンドリュース=ハンナ氏はコメントしています。

「人々の思考パターンを理解することで、人々がより健康で、幸せな生活を送るための新たな支援方法が見つかるかもしれません」

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参考文献

Creative people enjoy idle time more than others | University of Arizona News https://news.arizona.edu/story/creative-people-enjoy-idle-time-more-others

元論文

Creative Minds at Rest: Creative Individuals are More Associative and Engaged with Their Idle Thoughts: Creativity Research Journal: Vol 0, No 0 https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/10400419.2023.2227477
情報提供元: ナゾロジー
記事名:「 創造的な頭脳はやることのない時間を「退屈」とは感じない