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米カリフォルニア工科大学(Caltech)を中心とする研究チームはこのほど、目の前の空間を認識し、最も適切な移動モードに変形できる自律走行ロボ「M4(Multi-Modal Mobility Morphobotの略)」を開発したと発表。
4つの車輪で走行したり、車輪をローター(回転翼)に変えて空を飛んだり、2輪で垂直に立って前進するなどが可能です。
M4は将来的に、被災地での捜索やケガ人の救助、荷物や物資の運搬から惑星探査まで、さまざまな用途が期待されています。
研究の詳細は、2023年6月27日付で科学雑誌『Nature Communications』に掲載されました。
目次
M4を開発した目的は、一台のロボットの内に多彩な移動モードを組み込んで、移動ロボットの限界を押し広げることです。
M4にはAI(人工知能)が搭載されており、目の前の地形や障害物を認識して、その環境に合った最も効果的な移動モードに自動で変形できます。
まさにトランスフォーマーと同じ仕組みです。
例えば、M4が見知らぬ土地を探索するところをイメージしてみましょう。
初めは最もエネルギー効率がよく安定した4輪で進みますが、岩や縁石のような障害物に出くわして前方が見えなくなると、2輪で垂直に立ち上がって、障害物の向こうの状態を確認できます(Tumbling)。
ギリギリで頭がぶつかってしまいそうな隙間には、車輪を前後に伸ばして車高を低くすることで対処(Crouching)。
さらに4輪走行ではバランスの取れないデコボコの地面では、4輪をバラバラに動かし、まるで四足歩行で歩くように移動します(Walking)。
そして目の前に崖や川が現れ、これ以上進めない状況に直面すると、今度は4つの車輪を折り畳んでローター(回転翼)にし、空を飛んで向こう側に移動することが可能です。
それぞれの車輪はプロペラになっています。
こうしたM4の機能は、自然界の動物からインスピレーションを得たとのことです。
例えば、4輪を交互に動かす歩行には陸に上がったアシカのヒレを動かし方を参考にしたり、2輪での直立には普段は四足のミーアキャットが立ち上がるときの動きをヒントにしています。
それから2輪での前身移動には、キジ科の一種であるイワシャコを参考にしました。
イワシャコは急勾配を二足で駆け上がる際、翼を同時に動かしてバランスや推進力を得ながら前進します。
そこでM4も下側の2輪はそのままタイヤとして使いながら、上側の2輪をローター(回転翼)にすることで前方への推進力を生み出したり、バランサーとして活用したのです。
ではM4は差し当たって、どんな現場で活躍できるのでしょうか?
M4はあらゆるシーンに適応できますが、主な活動場所は事故現場や災害地となるでしょう。
チームは想定として、地震に見舞われた高層ビルを想定しました(下図)。
M4であれば、地上からわざわざ階段を上らずとも、飛行モードで一気に屋上まで飛び、割れた窓や隙間から内部に入ることができます。
そしてケガ人を見つけると地上の救助隊に居場所を伝えたり、救助隊からの指示を人々に伝えたり、あるいは医薬品や食料物資を届けることも可能でしょう。
M4の多機能性は、人間が立ち入ることのできない危険な空間や、単一の移動モードのみに依存する従来のロボットやドローンでは困難な場所を移動するのに理想的です。
M4はすでに驚くべき能力の数々を持っていますが、研究チームはまだまだ改良の余地があると考えています。
例えば、車輪をロボットアームのように変形させれば、物をつかんで除けたり、サンプルとして採取することができます。
加えて、水中での遊泳モードも追加できれば、陸海空すべてに対処できるでしょう。
そうすれば、人類未踏の地に足を踏み入れたり、他にも月面や火星での探査に用いることも決して夢ではありません。
実際にチームは将来的な宇宙探査のために、NASAのジェット推進研究所(JPL)と協力して研究を進めていく予定と発表しています。
また、もしこの技術が大型化できれば、映画に見るような本物のトランスフォーマーが誕生する日もそう遠くないかもしれませんね。
こちらはM4をカリフォルニア工科大学の構内で自走させた様子です。
参考文献
New Bioinspired Robot Flies, Rolls, Walks, and More元論文
Multi-Modal Mobility Morphobot (M4) with appendage repurposing for locomotion plasticity enhancement