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犬は遊びとして甘噛しがちですが、自分を守るためや怒りの衝動で攻撃的に噛みつくこともあります。
後者の場合、噛みつかれたほうは指や皮膚がちぎれ、骨が損傷するほどの大きな怪我を負うというケースも少なくありません。
なぜ犬がそこまで強力に噛んでしまうのか、その理由はさまざまです。
性別、避妊手術の有無、品種、生育歴などの犬側の要因と、犬への扱い方、行動、年齢や性別など被害者側の要因の相互作用によるもので、状況と場所によっても原因は大きく変わるでしょう。
動物において、自分や仲間を守るため、エサや資源を得るために、激しい攻撃に出ることは必要なことです。
しかし、「気温が高くなると人間、アカゲザル、ラット、マウスにおいて、種別間の攻撃性が高まる」という研究結果も出ています。
攻撃的になる原因にはさまざまなものがあるものの、気温によりヒトを含むさまざまな動物において攻撃性が高まることがあることは判明しています。
このように、動物の攻撃性と気温の高さは相関があるとされていますが、果たして犬ではどうなのでしょうか。
研究チームは、10年間にわたり日々の犬の咬傷事故を記録している、米国のヒューストン、ボルチモア、バトンルージュ、シカゴ、ルイビル、ケンタッキー、ニューヨーク8都市のデータを集めました。
また、該当する地域のPM2.5、降水量、最高気温、UV量、オゾン量のデータも集めています。
両者を統計的に分析し、相関関係があるのかどうか調査したところ、犬の咬傷事故の発生率は高気温になるほど増加したことが分かりました。
しかし、犬の咬傷事故のほとんどは被害者と犬が交流しているときに起きているものです。
つまり、気温が高く、紫外線量が多い日(晴れている日)には犬と交流する機会があり、おのずと咬傷事故が起きやすくなっているという要因も考えられます。
ところが、週末や休日に起きる咬傷事故率がわずかに減少することから、犬と人間の交流時間が増えても咬傷事故リスクは高まらないと示唆されています。
また、冬季に増えやすい大気中のオゾン量が多い日も咬傷事故リスクは向上しました。
オゾンというと、地球の成層圏に存在するものというイメージがあるかもしれません。
たしかにオゾンの生成場所は成層圏ですが、大気の流れにより地球の中高緯度に運ばれながら下降し、下部成層圏で圧縮されます。
そのため、オゾンは地上付近にも存在するのです。
このオゾンの移動が活発になるのは冬季であることから、アメリカや日本などの中高緯度の地域では冬から春にかけてオゾン量は増加します(気象庁)。
オゾンには強い臭気があるほか、脳を興奮させるドーパミン作動性機能に影響を与えるとされています。
実際、オゾンにより細胞に酸化ストレスが与えられると間欠性爆発性障害(前触れなく怒りなどの感情が爆発してしまう障害)のレベルが上昇するなど、オゾンと攻撃性行動と相関があるという研究も行われてます。
そのため犬も人間と同じく、オゾン量が増えると攻撃性行動が増えるのではないかと予測されるのです。
一方、オゾンと同じく大気汚染要因の1つであるPM2.5は咬傷事故リスクとの関連は見られませんでした。
このため、大気汚染はイヌの凶暴性とは現在のところ関係しないようです。
今回の調査では、暑い日、紫外線が多い日、オゾン量が多い日(大気が汚染されている日ではない)には犬の咬傷事故リスクが高まることが示されています。
ただし、まだ研究には課題が残されています。
まずは、犬の咬傷事故に関する記録として、犬の品種や性別、去勢の有無などの個人的データがないことです。
冒頭でも説明しましたが、犬が攻撃的に噛みつくにはさまざまな要因があり、気温や紫外線要因ではないところで噛みつく原因があるかもしれません。
また、今回の研究には含まれていなかった、新型コロナウイルス感染症のロックダウン時のデータによると、被害者が小児である咬傷事故が増加していることが分かりました。
犬や子どもが家にずっといなければならないときはおのずと子どもが犬にちょっかいを出す機会も増え、咬傷事故リスクは上がるとされています。
本当に気温により犬の攻撃性が上がるのか今後より確実な検証結果を出すためには、同じ犬に対して観察する、2群に分け両者を比較する、といった実験も必要になるでしょう。
元論文
The risk of being bitten by a dog is higher on hot, sunny, and smoggy days https://www.nature.com/articles/s41598-023-35115-6