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しかし蚊の針(口器)の長さは約2mmと大抵の生地の厚みを超えており、直径は約25μmと髪の毛(50~100μm)よりもはるかに細いです。
服は繊維を編んだものなので小さな隙間があり、細長い蚊の針は、この隙間から簡単に肌へ到達してしまいます。
ジーンズを含む市販の衣服のほとんどを貫通してしまうため、服を着ただけでは、蚊から完全に身を守ることはできないのです。
もちろん、蚊の針よりも分厚い服を着たり重ね着したりすれば刺されにくいですが、そのような対処法は蚊が繁殖する温暖な気候には適していません。
現状、暑さを我慢して厚着するか、蚊に刺されるのを許容して薄着するか、選ばなければいけないのです。
しかも近年登場した「汗や体温を発散し、ドライで快適な状態を保つ」体にフィットする特定の機能性衣類は、蚊が寄ってきやすく「全裸よりも蚊に刺されやすい」といった報告も上がっています。
そこでベックマン氏ら研究チームは、薄くても蚊の針を貫通しない衣類を開発することにしました。
研究チームはまず、どんな種類の生地が蚊の針を防ぎやすいか調査しました。
いくつかの人気ブランドの衣服を身に着けた参加者の腕を、蚊が20匹いるケースの中に15分間入れ、刺された回数を数えたのです。
その結果、ほとんどの衣服(生地)には防護機能がありませんでしたが、特定のニット生地の衣服だけは蚊に刺されにくいことが分かりました。
織物は経糸と緯糸を交差させて作る生地ですが、ニットは結び目を作る要領で、1本の糸でループを作りながら編まれた生地です。
また、ニット生地の中でも二重に重なるように編む「インターロックニット」が、蚊から身を守る上で特に効果的だと分かりました。
そして研究チームは試行錯誤の末、インターロックニットにおける防護機能を強化するための3つのポイントも発見しました。
インターロックニットの、①繊維の直径を大きくし、②ポリウレタン弾性繊維である「スパンデックス」の含有量を増やし、③縫い目を短くすることで、より蚊に刺されにくい生地を作ったのです。
上記の写真で分かる通り、改良されたインターロックニットには、蚊の針が通るような隙間がほとんどありません。
しかもベックマン氏によると、「蚊が布地に触れたり探ったりすると、ループ構造が閉じて針が皮膚に到達するのを防ぐ」とのこと。
改良されたインターロックニットでは、蚊の針が皮膚にスムーズに到達しないため、蚊は血を飲む前に諦めて飛び去るのです。
しかもこの新しい生地は、蚊の針の長さより薄くても十分に効果を発揮するため、暑い環境でも利用できます。
また衣服の快適さ(肌ざわり、厚さ、伸び、摩擦、剛性など)を評価するテストでは、「快適さが売り」の人気ブランド製品と同等か、それ以上の快適さが得られたと報告されています。
近年、着心地のよい服は数多く誕生しているため、それらすべてに快適さで勝つことは難しいでしょうが、少なくとも「我慢が必要な服」ではなさそうです。
さらにこの新しい生地はマシンによって大量生産することも可能であり、他の衣類と同等の価格で販売できる可能性があるようです。
「薄くて着心地がよく、しかも蚊に刺されない服」が流通するのは、それほど遠くないのかもしれません。
元論文
CNC Knitting Micro-Resolution Mosquito Bite Blocking Textiles https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2023.04.21.537869v2.full