人工知能が法廷で裁かれます。

米国のカリフォルニア州高等裁判所のサイトで公開された情報から、世界初のAI弁護士と言われている「DoNotPay」が、弁護士の資格を持たずに弁護士業を営んでいるとして集団訴訟を起こされていることが明らかになりました。

DoNotPayは弁護士に依頼料を支払えない貧しい人々が、自らの立場を法的な言葉や文章で主張するためのツールとして開発されました。

しかし、その後あらゆる訴訟に対応できるように進化。

最近では、法的に弱く貧しい移民や難民の立場を助けたり、マイノリティーの人々の権利を主張する手段として活用が進んでいました。

DoNotPayがこれまで介入した法的案件は数百万件に上り、多くの弁護士に流れるはずだった依頼料の節約に貢献していました。

弁護料で生活している人間弁護士にとっては、自らの職を奪いかねない存在です。

しかし今回の案件には単なる「AIと人間の職争い」という単純な構図以外にも、別の側面が潜んでいました。

目次

  • AI弁護士が人間弁護士から「無資格で働いた」と訴えられる事案発生!

AI弁護士が人間弁護士から「無資格で働いた」と訴えられる事案発生!

DoNotPayの目的と理念そして大きな成果

Credit:Canva . ナゾロジー編集部

DoNotPayはもともと、駐車違反の罰金を払いたくないというある英国人、ジョシュア・ブラウダー氏の欲求からうまれました。

法律に違反したのなら罰金を払うのが当然です。

しかしブラウダー氏は英国において罰金を払っている人々の多くは、移民など社会で最も弱い立場にあると考えていました。

罰金は地方自治体の有力な財源となっており、彼らにとっては追加の人頭税のように機能していたのです。

そこでブラウダ―氏は独学でプログラムを学び、罰金に抗議して取り下げさせさせるための、文章作成に役立つAI「DoNotPay」を開発しました。

罰金の取り下げに必要なプロセスは比較的簡単で定型文を記入し、サインをするだけです。

そのため法的な知識をアドバイスしてくれるAIがいれば、誰でも罰金請求に抗議することが可能になります。

そして効果も抜群でした。

ブラウダ―氏がDoNotPayを英国と米国で公開すると、わずか21カ月の間にDoNotPayは25万件のケースに利用され、そのうち64%にあたる16万件で罰金を取り下げさせることに成功します。

DoNotPayの進化と野心的計画

Credit:Canva . ナゾロジー編集部

法律アシスタントAIの需要を確信したブラウダ―氏は、openAI社から公開されていたGPT3を組み込み、DoNotPayをさらに進化させました。

言語モデルを組み込まれたDoNotPayはこれまでの判例や法的文章の書き方を学習することで、駐車違反だけでなく、飛行機の遅延補償の請求、マイノリティーの人々の権利主張、さらに外国の法制度に不慣れな難民や移民たちに、法律を武器に自らの利益を守る方法を教えられるようになりました。

ブラウダー氏自身もDoNotPayの機能を利用することで銀行のカスタマーサービスに談判し、いくつかの銀行手数料を取り消させることに成功しました。

一般的な市民が、妙に詳しい法的知識にもとづいた言葉で、訴訟も辞さないといった態度で談判してくれば、銀行や企業は少額の請求ならば諦めるしかありません。

手ごたえを感じたブラウダー氏は野心的とも言える次の段階に進みました。

本物の法廷でDoNotPayを人間の弁護士の代りに使う計画です。

ほとんどの国では法廷において、スマートホンやコンピューターをイヤホンに接続して使用することは禁止されています。

また英国の法廷では裁判を録音することは法廷侮辱罪とされていました。

しかしブラウダ―氏は「DoNotPayが補聴器に分類される」とごり押しを行い、「AIが法廷の音声を聴くのは録音ではない」と主張しました。

ブラウダ―氏もこの点については、技術的には法律の範囲内ですが、法律の精神からは大きく外れる判断だと認めています。

もっとも直ぐに、検察官から「そんなことをしたら6カ月間服役することになる」と警告を受け、ブラウダー氏はDoNotPayを弁護士として法廷で使う計画は諦めました。

ですが話はここで終わりませんでした。

DoNotPay潰しとAI弁護士の未来

Credit:Canva . ナゾロジー編集部

調子よく成果を上げ進化を遂げてきたDoNotPayですが、その過程で敵を作り過ぎていました。

具体的には、罰金をあてにしてきた地方自治体・移民を管理していた当局・遅延金を支払わされた飛行機会社・手数料を踏み倒された銀行、そして法の精神に反する手段を目の前で使われそうになった裁判官や検察官・仕事を横取りされそうになっている弁護士、などが相当します。

このなかでも裁判官、検察官、弁護士をまとめて敵にまわしたのは痛手と言えるでしょう。

また弱者といえる移民を支援するのは立派ですが、移民への手助けを快く思わない政治家も大勢います。

そして膨大な数に及ぶ法的文章を送付された企業も無視できない勢力です。

そして今回3月3日にDoNotPayは集団訴訟を受けることになりました。

訴えではDoNotPayは弁護士資格がないにもかかわらず弁護士業を行ったと主張されています。

この訴訟において原告側は、手の込んだシナリオを用意してDoNotPayを訴えています。

訴訟の原告(訴えている側)名義はジョナサン・ファリディアンとなっています。

この人物は、DoNotPayを使って企業や自治体に少額訴訟や雇用差別の訴えなどさまざまな法的文章を作成し要求を行っていたとされ、DoNotPay利用者という立場を取っています。

なぜ利用者がDoNotPayを訴えるのかというと、ファリディアン氏は法律の相談を「人間の弁護士にやってもらったと信じていた」と主張しており、弁護士資格のない者に騙されたと訴えているのです。

またファリディアン氏の弁護には、非常に強力な弁護士事務所「Edelson(エデルソン)」が味方についています。

Edelsonの創業者ジェイ・エデルソンはシリコンバレーで最も敵にしたくない弁護士として知られており、これまでGoogle、Amazon、Apple、Facebookなどに対して数千億円規模の訴訟を起こしたことで知られています。

またエデルソン氏は「アメリカで最も裕福な弁護士」として知られており、訴訟を通して膨大な利益を上げていることが知られています。

つまり全方位に敵を作って急成長を遂げたDoNotPay社が、エデルソンの次の「仕事対象」というわけです。

DoNotPayの創設者でありCEOであるブラウダー氏は「アメリカで最も裕福な弁護士にいじめられるつもりはない」と述べて受けて立つ姿勢です。

一方、エデルソンは「こうしている間にもDoNotPayは世界初のロボット弁護士を自称しており、資格を持つ弁護士になりすますのをやめようとしていない」と攻めの姿勢を強めています。

優れた技術、利権、政治的思惑、さまざまなものを混ぜ込んだ裁判がはじまろうとしています。

法廷で是非が問われている対象が人間ではなく人工知能という点でも極めて斬新と言えるでしょう。

もし陪審員に選ばれることがあれば、歴史の転換点を目撃することになるかもしれません。

全ての画像を見る

参考文献

‘Robot lawyer’DoNotPay is being sued by a law firm because it ‘does not have a law degree’https://www.businessinsider.com/robot-lawyer-ai-donotpay-sued-practicing-law-without-a-license-2023-3?r=US&IR=T
情報提供元: ナゾロジー
記事名:「 「AIが無資格で弁護士業を行った!」とうとうAIと人間が法廷で争う事態に!