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「ゾウが感じる時間とネズミが感じる時間は異なる」という話を耳にしたことがあるかもしれません。
生物学者である本川達雄氏の著書『ゾウの時間ネズミの時間』では、動物はサイズ(体重)によって寿命が異なり、時間の感じ方も異なると解説されています。
そして体重と関係しているのが、心周期(収縮と弛緩からなる1回の心拍動にかかる時間)です。
ゾウの心周期は3秒、ヒトでおよそ1秒、普通のネズミなどは0.2秒であり、こうした心拍の違いが時間の感じ方にも影響を与えているというのです。
そのためゾウにとっては一瞬の出来事でも、ネズミにとってはもっと長く感じるのです。
同様に、昔から科学者たちは、「心臓は、脳が時間の経過を感じる上で重要な役割を担っている」と考えてきました。
では、同じ人間でも心拍数の変化によって、時間の感じ方は異なるのでしょうか?
サデギ氏ら研究チームは、この点を明らかにするため、「1秒未満のごく短い時間」の感じ方を調査することにしました。
なぜ「ごく短い時間」でテストするのでしょうか?
時間の感じ方を調べるテストでは、通常、もっと「長い時間」の知覚が対象になります。
例えば「1分をどう感じるか」「1時間の感じ方の違い」などの方が分かりやすいように感じますね。
しかしこれらの条件だと、時間の感じ方に影響を与える他の要因(感情や思考)が入ってくる可能性があります。
例えば、同じ時間でも、仕事をしている時間と遊びに出かけている時間では流れ方がまるで異なるように感じます。
これは実験を行う場合も同様であり、時間の感じ方には、その人の時間に対する精神状態がどうしても反映されてしまうのです。
そのためチームは、こうした様々な要素を排除し、心拍という生理的なリズムだけで感覚が変化するのか調べるために、感情や思考が入る隙間のない「1秒未満のごく短い時間」でテストすることにしたのです。
実験には、18~21歳の心臓病歴のない45人が参加。
彼らの心臓の電気活動は、心電図によりミリ秒単位で測定されました。
そして接続されたコンピュータによって、心臓の鼓動に合わせて80~180ミリ秒(0.08~0.18秒)の短い音を鳴らしました。
さらに参加者には、心拍数の違いで音の時間の感じ方にどんな変化が生じるか答えてもらいました。
その結果、参加者たちは、心拍数が高くなった直後に音を実際よりも長く感じ、心拍数が低くなった直後に音を短く感じました。
時間の感じ方は、心拍のわずかな変化に応じて伸びたり縮んだりしたのです。
研究チームは、「心拍は時間の感じ方に影響を与える」と述べ、こうした感じ方のばらつきを「一時的なしわ」と呼びました。
また実験では、脳が心拍に影響を与えることも示されました。
参加者たちは、音を聞いた後、その音に注意を向ける傾向にありました。
こうした集中が心拍数を変化させ、時間の感覚にも影響を与えていたのです。
結論として、研究チームは「心拍は、時間の経過を感じるために脳が使っているリズムであり、私たちの感じる時間とは直線的なものではなく、常に収縮と拡大を繰り返している」と述べました。
これは、「心拍で時間の感じ方が変わる」という科学者たちの考えを支持するものです。
私たちが思っている以上に、人間は短いスパンで時間の感じ方の変動を経験しているようです。
異なる研究でも、ドキッとした瞬間に人間は周囲をスローモンションに感じていることが事実であるという報告もあります。
今回の結果はこうした報告とも関連しているかもしれません。
参考文献
‘Wrinkles’ in time experience linked to heartbeat https://news.cornell.edu/stories/2023/03/wrinkles-time-experience-linked-heartbeat Our heartbeats cause “wrinkles in time”says new study https://newatlas.com/biology/heartbeats-time-perception/ ゾウの時間ネズミの時間 https://www.chuko.co.jp/shinsho/1992/08/101087.html元論文
Wrinkles in subsecond time perception are synchronized to the heart https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/psyp.14270