- 週間ランキング
定住型の住居の痕跡はほとんど見つかっておらず、多くは遊牧民に特有の野営の跡であり、移動型の生活をしていたことが伺えます。
牧畜が盛んで、地域によって違いはありますが、主に牛や羊、ヤギの放牧をしていたようです。
その一方で、ヤムナ文化圏では死者を埋葬するための竪穴がよく見られ、その中から馬の骨が頻繁に見つかっていました。
(ヤムナとはロシア語で「穴」を意味する)
また、ヤムナ人の歯や土器片から馬乳の痕跡が見つかっていることから、何らかの形で馬を飼っていたことは確かです。
乗馬用具は出土していないものの、馬には道具がなくても乗れることから専門家らは「ヤムナ人は日常的に馬に乗って放牧をしたり、移動をしていたのではないか」と考えていました。
そこで研究チームは今回、ヤムナ人の遺跡から回収された人骨を分析して、乗馬の証拠を見つけることに。
チームはその指標として、乗馬の証拠となる以下の6つの基準を設定しています。
・骨盤と大腿骨の筋肉の付着部位にストレスパターンがある
・股関節ソケットの形状に変形が見られる
・股関節ソケットが大腿骨頭(こっとう:股関節ソケットに結合する大腿骨の先端部)を圧迫している
・大腿骨の軸の形状および直径が通常の人と違う
・繰り返しの衝撃による椎骨の摩耗
・落馬や馬に蹴られたり噛まれたりしたことによる外傷
これをもとに、ヤムナ文化圏で確認されていた約4500〜5000年前の遺跡39カ所から217体の人骨を調査。
このうち、約150体がBC3021〜2501年に生きていたヤムナ人の遺骨と特定されています。
そして分析の結果、24体(15.4%)のヤムナ人の遺骨に、乗馬を習慣としていた骨の変形や摩耗の痕跡が見つかりました。
さらにそのうち5体は他の骨よりも骨の変形や摩耗が著しく、かなりの乗り手だった可能性があるようです。
加えて、今日のハンガリーにあるBC4300年頃のヤムナ人以前の墓から出土した人骨にも、先の6つの指標のうち4つが当てはまり、乗馬をしていたことが示唆されました。
これはヤムナ文化の勃興より約1000年も前のことであり、これまでの研究と照らし合わせて、乗馬技術の発展が馬の家畜化からほとんど間を置かずに始まり、広まっていったことを示しています。
以上の結果は、人類史における「最古の乗馬」の記録となります。
ヘルシンキ大学の人類学者で本研究主任のマーティン・トラウトマン(Martin Trautmann)氏は「これらの骨格記録に見られる(乗馬による骨の変形や摩耗の)かなり高い有病率は、ヤムナ人の多くが日常的に乗馬をしていたことを示している」と述べています。
おそらく、乗馬によって牛や羊の放牧をしたり、遠距離の移動や荷物の運搬に役立てていたのでしょう。
馬術の確立は、人類の移動スピードや距離を劇的に変化させ、土地利用や交易、戦争の在り方をガラリと変えました。
そのため、乗馬の進化と拡散の歴史を理解することは、人類の発展をひもとく上で非常に重要なテーマなのです。
参考文献
Researchers Have Found The Earliest Evidence of Horseback Riding Yet https://www.sciencealert.com/researchers-have-found-the-earliest-evidence-of-horseback-riding-yet The world’s first horse riders found near the Black Sea https://phys.org/news/2023-03-world-horse-riders-black-sea.html元論文
First bioanthropological evidence for Yamnaya horsemanship https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.ade2451