- 週間ランキング
近視の発症には遺伝が関係しますが、それだけではこの爆発的な増加を説明できません。
そのため多くの科学者たちは、近視の原因が環境にあることを認めています。
勉強や娯楽、日常生活のほとんどでスマホやタブレット、パソコンなどを使用し、近くを見続けていることが原因なのです。
そしてこれらの悪影響を強く受けるのは子供たちです。
なぜなら近視は子供時代に始まることが多く、一旦近視になると、その後視力が回復することはほとんどないからです。
子供のころに目が悪くなりやすいのは、眼球の成長と関係があると考えられています。
特に12歳までの眼球の成長は著しく、その期間で近くばかり見ていると、眼球が前後に長くなって戻らなくなります。
これによりピントがずれて、近視を発症するのです。
では、どうすれば子供時代の近視発症を防げるのでしょうか?
最近の眼科医療では「アトロピン点眼薬が近視の進行を抑える」と言われています。
アトロピン点眼薬とは、副交感神経に働いて緊張を緩和したり、ピントを調節する筋肉を休ませたりする効果がある薬で、もともとは小児の屈折検査(遠視・近視・乱視の検査)に用いられていたものです。
しかし、これらの効果が近視の進行を遅らせるのに役立つようなのです。
ところが一般的な「アトロピン1%の点眼薬」では、「瞳孔がひらき続けて、強いまぶしさや痛みを感じる」「遠近調節機能が低下して、近くがぼやけて見える」などの副作用が報告されてきました。
そのため現代では、アトロピンが0.01%や0.05%の「低濃度アトロピン点眼薬」が利用されています。
低濃度アトロピン点眼薬であれば、副作用を受けるおそれは大幅に減少します。
ただ、低濃度アトロピン点眼薬の有効性はまだ完全に評価しきれていません。そもそもアトロピン点眼薬が近視の進行を抑制するメカニズムは、現在医学的に説明できていません。
現状アトロピンの効果は経験的に指摘されているだけなのです。
そこでヤム氏ら研究チームは、実際に低濃度アトロピン点眼薬が子供たちの近視発症を防止できるのか評価実験を行いました。
対象となったのは、香港に住む近視ではない4~9歳の子供353人です。
彼らは①アトロピン0.05%点眼薬、②アトロピン0.01%点眼薬、③プラセボ(薬効成分が含まれていない)点眼薬 の3グループに分けられました。
そして2年間、毎晩1回の点眼を続けてもらいました。
その結果、2年間の累積近眼発症率は、①28.4%、②45.9%、③53%となりました。
またこの2年で急速に視力が悪化した参加者の割合は、①25%、②45.1%、③53.9% でした。
0.05%アトロピン群は、プラセボ群と比較して、近眼発症率が有意に低かったのです。
また0.01%アトロピン群とプラセボ群では有意差がなく、濃度が低すぎると効果が現れないことも分かります。
そして副作用は報告されませんでした。
今回の結果を見ると、0.05%の低濃度アトロピン点眼薬は1日1回寝る前に使用すれば、近視の発症を遅らせるために十分有望と考えられそうです。
この近視抑制治療は眼球が成長する時期を考慮すると、一生点眼を続ける必要はなく、特に視力が悪化しやすい子供時代の使用だけで十分と考えられます。
数年間点眼を続けるのは煩わしいですが、これによって一生涯続く近視を防げるのであればメリットの方が大きいでしょう。
とはいえ、完全に予防できるわけでもなく、またアトロピン点眼薬が近視の進行を抑制するメカニズムについては依然不明のままです。
ヤム氏はこの薬が目の血液循環を改善するためかもしれないと話しますが、それは仮説の一つに過ぎません。
また今回の実験は香港のみで行われたため、より正確な結論を出すには、多様な集団と環境で研究を続ける必要があります。
アトロピン点眼薬を用いた近視抑制治療は、すでに多くの病院で受けることが可能ですが、学術的にはまだ評価中の段階です。子供の近視を防ぎたい親たちは、慎重に決断すべきかもしれません。
参考文献
Medicated eye drops may delay nearsightedness in children https://www.sciencenews.org/article/eye-drops-delay-nearsightedness-child Study: Could atropine delay or prevent myopia in children? https://www.aoa.org/news/clinical-eye-care/public-health/myopia-drops?sso=y元論文
Effect of Low-Concentration Atropine Eyedrops vs Placebo on Myopia Incidence in Children https://jamanetwork.com/journals/jama/article-abstract/2801319