知らなければ、対策もできません。

東京大学で行われた研究によって、日本が他国に比べて性行為の未経験者が多く、性的にも不活発であるにもかかわらず、商業的性サービスを活発に消費している様子が明らかになりました。

日本では性に関する研究が立ち遅れており、全国規模の性交渉の実態に迫った研究は、なんと今回がはじめてとなります。

また今回の研究では異性間に限らず、あらゆる性的指向を有する人々も研究対象とされている点でも、初の試みになっています。

成人男女の性交渉の実態を調べることで日本固有の性の問題や少子化解決の糸口になるかもしれません。

研究内容の詳細は2023年2月26日に『Journal of Sex Research』にて公開されています。

目次

  • 日本の性の実態が最新データで明らかに!
  • 日本人のポルノ使用率は他国と同程度であり風俗利用率は圧倒的に高い

日本の性の実態が最新データで明らかに!

Credit:Canva . ナゾロジー編集部

性と生殖は、世界中のあらゆる国や地域と同じく、日本でも重要な問題のはずでした。

自国民が性に対してどのような態度を持っているかを把握できなければ、少子化問題など人間の生殖(human reproduction)に介入するような政策を立てることもできません。

そのため米国では1990年代から、英国でも2000年代から、自国の人々の性や生殖にかかわる全国規模の調査が行われるようになりました。

一方、日本を含む東アジア諸国では性と生殖の研究が立ち遅れていました。

これまで行われてきた研究はほとんどが小規模のものであり、省庁によるデータ収集の対象も異性愛者に限られていました。

そこで今回、東京大学の研究者たちは日本人成人を対象にした、初の全国規模の調査を行うことにしました。

調査にあたっては20歳~49歳の8000人の成人男女がオンライン上で募集され、性と生殖にかかわるさまざまな質問に答えてもらいました。

なお回答者たちの性的指向にかんしては女性の82.9%、男性の87.4%が異性愛者であり、女性のバイセクシャルは5.5%、女性のホモセクシャルが0.9%、男性のバイセクシャルは3.4%、男性のホモセクシャルは2.0%でした。

性交渉の経験について

研究で最初に着目されたのが、人々の性にかんする経験についてでした。

人々の性にたいする態度は国や文化によってさまざまであり、性交渉の経験パターンにも違いとなって現れます。

調査ではまず、生涯で性交渉相手がいなかった割合が調べられました。

ここで言う性交渉とは「膣・肛門・口腔」を使った行為が含まれます。

すると全体で女性15.3%、男性19.8%がうまれてから1度も性交渉を行ったことがないと回答。

Credit:Canva . ナゾロジー編集部

年齢別の未経験割合を調べると、上のグラフのような傾向が明らかになりました。

グラフからは20代や30代での未経験率は女性のほうが低いものの、40代になると同じくらいの値になることが示されています。

この数値は他の先進諸国と比べて大きくなっており、たとえば英国の25~34歳の未経験率を調べたところずっと低く、女性では10%、男性では7%のみが未経験であると答えました。

2015年に行われた研究では、30代での未経験率が男女ともに10%前後であることが示されており、2015年から2022年の間に未経験率が男女ともに上昇していることが示されました。

これらの結果は、日本人は性交渉の体験について、かなり消極的であることを示します。

また風俗を含む経験人数の中央値(平均値ではない)を調べたところ、女性で3人、男性で4人と、経験率の低い男性のほうが多くなっていました。

初体験時の年齢の中央値は男女ともに20歳となっており、16歳未満で初体験を迎えた比率は、女性で8.0%、男性で8.4%となっていました。

性交渉の不活発さ

Credit:Canva . ナゾロジー編集部

次に過去1年間に性交渉の頻度を調べたところ、女性の45.3%、男性の44.5%が風俗を含めて1年間誰とも性行為をしなかったと答えました。

この数値は他の先進各国と比べて際立って低い数値となっています。

たとえばドイツで行われた研究では、過去1年で性交渉をしていないと答えたのは男女とも20%前後(30代の場合)となっていました。

この結果は、日本の人々は他の国々に比べてかなり、性的に不活発であることを示しています。

また性的指向の一種であり、他人に対して恋愛感情や性的欲求を全く感じない「アセクシャル」の人々の割合も調べられました。

(※LGBT QIAのうちAにあたるのがアセクシャルとなっています。アセクシャルは意図的に恋愛を避けている人ではなく、「他人に性的欲求を抱かないという性的指向を持つ人々」となっています)

すると日本人女性の10.0%、男性の6.9%から、自分がアセクシャルであるとの回答が得られました。

性サービスの内訳

日本のアセクシャルの比率も他国に比べて極めて高くなっています。

たとえば英国では自らがアセクシャルであると答えたのは男女とも1%以下でした。

次に研究者たちは、性生活に対する満足度を調べました。

性交渉が不活発でも、本人たちが性生活に満足していないことにはならないからです。

結果、性生活に満足していると答えた女性は27.8%、男性は23.1%であり、満足していないと答えた女性は17.6%、男性は27.1%となっていました。

どうやら日本では女性のほうが性生活に満足している人がおおそうです。

また性交渉を「とても大切だ」「やや大切だ」と回答した人の割合は女性で37.4%、男性で54.2%となっており、「全く重要ではない」「あまり重要ではない」と回答したのは女性で33.8%男性で16.1%となっていました。

こうした性にかんする意識も他の先進諸国で報告されている数値にくらべて低くなっています。

また以前に行われた研究では、日本の独身者の半数が異性間の恋愛関係に関心がないと答えたことが報告されています。

どうやら日本人は性交渉についてあまり重要とは考えておらず恋愛への関心も低いようです。

しかしそれでも「嫌い」なわけではないようです。

日本人のポルノ使用率は他国と同程度であり風俗利用率は圧倒的に高い

Credit:Canva . ナゾロジー編集部

アダルト動画をはじめとしたポルノの利用経験を調べたところ、女性の35.5%と男性の84.1%が利用経験があると答えており、女性の6.5%と男性の34.8%が週3回以上ポルノを利用し、女性で2%、男性の15%が毎日利用していると答えました。

不思議なことにこれらの数値はスウェーデンなど他の国とそれほど変わりがありませんでした。

さらに風俗に代表される商業的性サービスの利用経験を尋ねたところ、女性の4.0%、男性の48.3%が経験したことがあると答えました。

Credit:Canva . ナゾロジー編集部

なお性サービスの内訳はソープランド30.6%、コールヘルス(デリヘルなど)27.1%、ピンクサロン19.5%となっていました。

この風俗利用率は他国と比べると、とても高い数値となっています。

たとえばスウェーデンの場合、16~84歳の女性の1%、男性の10%のみが商業的な性サービスを利用したと答えています。

また英国で過去5年間に性的サービスに金銭を支払ったかを調べたところ、男性の3~5%だけが利用しており、女性に至ってはほぼ0%となっていました。

ドイツ人男性を対象とした調査では27%が性的サービスを利用したと回答しています。

もしかしたら日本人の成人男女は他国に比べて性をあまり重要視せず、恋愛に関心はなくても、性にお金を払って楽しむことには積極的なのかもしれません。

研究者たちは今後、日本における未経験率の高さや不活発さ、およびアセクシャル率の高さなどさまざまな変数がどのように関連しているかを評価していくことで、日本の性に対する理解が進むと述べています。

もしかしたら思ってもみない要因が、少子化に結びついているかもしれません。

今回の研究で得られたデータは、日本社会の性と生殖を理解する基礎となるでしょう。

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参考文献

より加速化する性的活動の不活発化が明らかに ―― 全国調査から明らかになる我が国における性的活動の実態―― https://www.m.u-tokyo.ac.jp/news/PR/2023/release_20230227.pdf

元論文

Sexual Behaviors among Individuals Aged 20-49 in Japan: Initial Findings from a Quasi-Representative National Survey, 2022 https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/00224499.2023.2178614#
情報提供元: ナゾロジー
記事名:「 日本初の性活動の詳細調査!海外と比べ非常に不活発なことが明らかに