- 週間ランキング
「動物親子の再会」「人間とペットの再会」など、感動的な場面をニュースや動画で見たことがある人も多いでしょう。
互いに姿が大きく変化しているのに、出会った瞬間に思い出し、喜びを爆発させるのです。
では、本人が不在でも、「関連するもの」の匂いから記憶を呼び起こすことは可能でしょうか?
最近、ドイツ・ベルク大学ヴッパータール(BUW)動物学科に所属するフランツィスカ・ホーナー氏ら研究チームは、ゾウは親族の糞の匂いを12年間覚えていると報告しました。
研究の詳細は、2323年2月15日付の学術誌『Animals』に掲載されています。
目次
匂いで昔を思い出すことはよくあるものです。
例えば、「数年ぶりの帰省で、実家の匂いを嗅いだ瞬間に昔の記憶が蘇った」という経験を持つ人も多いでしょう。
これは私たち人間の脳が何年も前の情報を記憶していること、そしてその匂いが記憶を呼び起こすことを意味しています。
同様の現象は、人間だけでなく動物でも生じることが分かっています。
例えば、過去の研究ではゴールデンハムスターやハタネズミが匂いで親族を判別できると報告されました。
またニュースで取り上げられる動物の「感動の再会シーン」からも、長期記憶と匂いの関連性を知ることができます。
とはいえこれらは、「本人の匂い」を直接嗅いだ時の反応です。
本人が不在だったとしても、「本人と関連のあるもの」であれば、その匂いから昔の記憶を呼び起こすことはできるのでしょうか?
研究チームはこの疑問について、長年離れ離れで生活してきたアフリカゾウの母娘で調査したいと考えました。
アフリカゾウは長期記憶に優れていることでよく知られていますが、科学的には、最大1年間の嗅覚記憶しか証明されていません。
そこでチームは、アフリカゾウの糞の匂いだけで、どれだけ昔の記憶を呼び起こせるか実験しました。
実験に参加したのは、ドイツの動物園のアフリカゾウ母娘2組です。
このゾウの母娘については1組が2年間、もう1組は12年間も離れ離れで暮らしてきました。
この長期間離れ離れになっていた母娘の再会前に、研究チームはそれぞれの糞便サンプルを収集。
実験では、関係ないゾウの糞と親族の糞の匂いを嗅いだときのゾウの反応を比較しました。
4頭のゾウそれぞれに、①一緒に生活していない親族の糞、②同じ動物園で一緒に生活している非親族の糞、③一緒に生活していない非親族の糞を嗅がせて、反応の違いを調べたのです。
その結果、ゾウたちは、②や③の「非親族の糞」を嗅いでも無反応のまますぐに立ち去りました。
対照的に、①の離れ離れになっていた「親族の糞」では、繰り返しその糞を嗅ぎ、耳をパタパタと動かしたり、鳴き声を上げたりしました。
親族の糞だけに、明らかな興奮や精神的な作用が認められたのです。
動画のはしゃぐ様子からは、ゾウの単なる記憶力の良さだけでなく母娘の絆の深さも感じ取れます。
研究チームによると、これらの反応は「ポジティブな感情に関係している」ようです。
そしてアフリカゾウが親族の糞の匂いを覚えている証拠だと考えています。
アフリカゾウは最長12年間も親族の糞の嗅覚記憶を保持しており、匂いの違いを嗅ぎ分け、興奮したのです。
また実験では、母娘の両方で反応が見られましたが、母親の方がより強い反応を示しました。
「母親が抱く子供に対する思い」は、「子供が母親に抱く思い」よりも強いのかもしれませんね。
こうしたゾウの優れた記憶力は、群れが分裂したり、ときに再集合したりする独特の生態にも役立つと言えます。
そして私たち人間と同じように、ゾウたちは懐かしい匂いを嗅ぐことで、はるか昔の家族の記憶を思い出しており、再会の時を待ち遠しく感じているのです。
元論文
Long-Term Olfactory Memory in African Elephants