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誰もが知る通り宇宙はビッグバンという爆発によってまるで風船のように大きく膨張して始まりました。
そうなると、ある疑問が浮かんできます。今後宇宙は膨張に向かうのでしょうか? それとも収縮に向かうのでしょうか?
収縮する場合、その主要な源は重力であると考えられます。
重力が十分に大きい場合、宇宙はやがて「ビッグクランチ」を起こし、全てが1点に収縮され押し潰されて終焉を迎えると考えられます。
宇宙には当然数多くの天体が存在し、そのすべてが重力をもっています。ならば宇宙は収縮に向かうと考えるのが自然でしょう。
ところが観測の結果によると、宇宙は収縮に向かうどころか、加速して膨張しているというのです。
では数多の天体の重力を押しのけて、宇宙を加速膨張させている力とは一体なんなのでしょう?
それが暗黒エネルギー(ダークエネルギー)と呼ばれる力です。ここでいう暗黒というのは、未知のエネルギーという意味を指しています。
この暗黒エネルギーが強すぎれば、宇宙はやがて星も原子も何もかもがバラバラに裂けてしまう「ビッグリップ」と呼ばれる終焉を迎えると考えられています。
宇宙の終焉がどのような形で訪れるかは現時点では不明です。
ですが観測事実と照らし合わせると、現在宇宙には重力に反して宇宙を膨張させる斥力「暗黒エネルギー」がかなりの量存在していると考えられるのです。
ただ、この暗黒エネルギーが実際なんであるのか? どこから発生しているのか? は全くの謎に包まれています。
しかし今月になって発表された2つの研究が、巨大な重力発生源であるブラックホールの内部に、暗黒エネルギーが溜まっている可能性を示したのです。
新たな研究では、ブラックホールと暗黒エネルギーをどのように結びつけたのでしょうか?
研究の基礎となる概念は、量子力学において「真空のエネルギー」と呼ばれる存在です。
私たちの住む宇宙には、物質が極めて少ない真空にも莫大なエネルギー(真空のエネルギー)が含まれており、このエネルギーが重力に逆らう圧力を発揮することが知られています。
実際、2020年に行われた研究では、この真空の力(カシミール効果)を利用して、物体を移動・変形させることに成功しています。
そのため現在、真空のエネルギーは暗黒エネルギーの正体の最有力候補と考えられています。
新たな研究では、この「真空のエネルギーが暗黒エネルギーの正体である」とする説をアインシュタインの方程式に組み込んで計算しました。
1966年、ソ連の物理学者エラスト・グライナーは、アインシュタインの方程式によって、真空のエネルギーが凝縮することで、一見するとブラックホールのようにみえる「真空エネルギーの球体」を作り出せることを示しました。
そのため、もし「暗黒エネルギー」=「真空のエネルギー」という公式が成り立つ場合、ブラックホールが持つ質量は、内部の暗黒エネルギー(真空のエネルギー)の量と相関している可能性があります。
そこで今回、1つ目の研究では、楕円銀河の中心に存在する超大質量ブラックホールに着目しました。
楕円銀河は一般に、複数の銀河が合体してできた古くて巨大な銀河のことです。私たちの天の川銀河やアンドロメダ銀河なども最終的には、この楕円銀河に行き着くと考えられています。
このタイプの銀河は概して非常に不活発であり、新しい星の形成がストップして、星々の間にはほとんどガスが含まれていません。
つまり、ブラックホールにとって新たなエサが存在しない銀河なのです。
研究者たちは複数の楕円銀河を観察することで、中心部の超大質量ブラックホールが過去90億年にわたり、どのように質量が変化してきたかを調べました。
もしブラックホールの成長が物質やエネルギーの吸収に依存している場合、中心部のブラックホールはほとんど質量が変化しないはずです。
しかし分析の結果、中心部のブラックホールは予測されるよりも7倍から20倍の大きさであることが判明します。
つまり、エサがないにもかかわらずブラックホールが成長するという、奇妙な現象が起きていたのです。
そこで研究者たちは次に、この現象の説明を行うための新たな理論の構築を行いました。
なぜエサがないにもかかわらずブラックホールが成長したのか?
謎を解明するため研究者たちが着目したのは、宇宙サイズとブラックホール質量の関係でした。
これまでの研究により、私たちが住む宇宙は時間経過とともに加速度的に膨張していることが示唆されています。
そのため宇宙空間に存在するブラックホールも膨張に連動する形で「ゴムのように伸ばされる」ことになります。
身の回りの例で例えるならば、風船の上に張られた黒いゴムシールが、風船が膨らむのにあわせて大きくなっていく様子と似ているでしょう。
またこのとき、黒いゴムシールには風船を膨らませた力の一部が溜まっていると見なすことができます。
研究者たちは宇宙とブラックホールの関係も似ており、宇宙が膨張すると伸びていくブラックホールにもある種のエネルギーが加わって「質量も」増大すると考えました。
アインシュタインの方程式「E=mc²」ではエネルギーと質量が等価であることが示されており、宇宙の膨張と共にブラックホールに加わった力はブラックホールの質量へと変換されると考えることが可能だからです。
そこで研究では実際に宇宙の膨張速度とブラックホールの成長速度を比べてみることにしました。
すると両者が上手く連動していることが判明したのです。
つまりエサがなくてもブラックホールが成長したのは、宇宙の膨張に引っ張られる形でブラックホールが内部にエネルギーを抱え込んだからだと言えるのです。
研究者の一人は「宇宙の体積が2倍になると、ブラックホールの質量も2倍になる」と述べています。
また研究では宇宙の膨張に対してブラックホールの質量がどれだけ増加するかは「k」と呼ばれる、宇宙とブラックホールの結合強度に依存することが示されています。
空間である宇宙と天体であるブラックホールの「結合強度」というと、なんだか哲学的なイメージを持つかもしれません。
なので再び風船で例えるならば「k(結合強度)」の強さは、表面に張られた黒いゴムシールが風船の膨張にどれだけ連動して(結合して)大きくなるかを表す数値であると言えるでしょう。
(※伸びにくいシールほど伸びたときにより大きなエネルギーを蓄えます)
また観測データから値を割り出したところ、私たちの宇宙では「k(結合強度)」の値がほぼ正の3であることが明かになりました。
なぜ「3」になったのかその根本的な理由は誰にもわかりませんが、宇宙とブラックホールの結合強度kは私たちの宇宙に存在する最も基本的な定数の1つなのかもしれません。
実際にこの報告が事実である場合、宇宙を膨張させている暗黒エネルギーはブラックホールの質量増加という形でブラックホール内部の真空エネルギーと結合していることになります。
これはシンプルに考えれば宇宙を膨張させた力がブラックホール内部に溜まっていくという見ることができるでしょう。
しかし研究者はブラックホール自体が暗黒エネルギーの源である可能性を示唆しています。
その場合、宇宙の膨張がブラックホールを引き伸ばし質量を増加させたのではなく、ブラックホール内部から暗黒エネルギーが発生し、ブラックホールの質量増加と共に宇宙を膨張させているという解釈になります。
ただ今回の研究は非常に先進的なため、結論に対して懐疑的な理論家も多く、他の多くの人々も「興味深い」と述べつつ様子見の姿勢を保っています。
この研究はブラックホールを再定義し、宇宙の理解に革命を起こす理論となるのでしょうか?
超大質量ブラックホールのいくつかが既存の宇宙論では説明できない「重すぎる」質量を持つことは他の研究でも示されている事実です。
しかしその理由の検証には多くの時間がかかるでしょう。
参考文献
Scientists find first evidence that black holes are the source of dark energy https://www.imperial.ac.uk/news/243114/scientists-find-first-evidence-that-black/ 1st observational evidence linking black holes to dark energy https://www.hawaii.edu/news/2023/02/15/evidence-linking-black-holes-to-dark-energy/元論文
A Preferential Growth Channel for Supermassive Black Holes in Elliptical Galaxies at z ≲ 2 https://iopscience.iop.org/article/10.3847/1538-4357/acac2e Observational Evidence for Cosmological Coupling of Black Holes and its Implications for an Astrophysical Source of Dark Energy https://iopscience.iop.org/article/10.3847/2041-8213/acb704