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星空に目を向けると、その星の過去を見ることができます。
例えば、おおいぬ座のシリウスは地球から光の速度で7年かかる場所に存在しています。
そのため現在私たちが見ているシリウスは、「7年前のシリウスの姿」なのです。
これはつまり、「より遠くの天体を観測できれば、それだけ過去の宇宙を観測できる」ことを意味しています。
高性能な宇宙望遠鏡を使用すれば、宇宙の誕生に迫るほどの過去を観測できるでしょう、
実際、2021年12月に打ち上げられたジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)は、従来の望遠鏡よりも100~1000倍強力だと言われており、これを使えば、100億年以上前の宇宙を詳細に観測することができます。
JWSTは地球から150万km離れた宇宙空間に設置されているため、地球からの熱の影響を受けず、はるか遠方宇宙から届くわずかな赤外線もキャッチすることができるのです。
遠い天体から届く光は、宇宙の膨張とともに赤外線波長に引き伸ばされています。これを検出するのがJWSTの仕事なのです。
そして今回、JWSTは地球から130億光年以上離れた複数の銀河の画像を取得することに成功しました。
宇宙は約138億年前に起きたビッグバンから誕生したと考えられているため、これらの天体はそのわずか5億~8億年後に出現したことを意味します。
これは我々が宇宙の年齢が5億~8億年だった時代の様子を見ることに成功したということです。
今回の研究者イヴォ・ラベ―氏(Ivo Labbe)は、同僚のエリカ・ネルソン氏(Erica Nelson)と共に、JWSTの検出したデータの中から、ハッブル宇宙望遠鏡が見逃していた可能性のある新しいタイプの銀河を探す研究をしていました。
あるとき同僚のエリカ氏が、「これを見て」と銀河の写真が送ってきたという。
イヴォ氏はUFOのように映る赤い円盤のような銀河写真を見た後、その分析結果に目を向けて思わずコーヒーを吹き出しそうになったと語ります。
そこには、銀河の距離が131億光年、質量が太陽質量の1000億倍という2つの数字が並んでいたのです。
多くの人は、彼がこの2つの数字にコーヒーを吹くほど驚いた理由がすぐには理解できないかもしれません。
しかしこの数値は、現在の宇宙論では説明することができない銀河の存在を指し示していました。
広く受け入れられている宇宙論からすると、JWSTが130億光年以上の距離から発見するのは「とても小さな赤ちゃん銀河」のはずでした。
なぜなら、巨大な銀河の形成と成長には膨大な時間がかかると考えられているからです。
現在の宇宙論(ビッグバン理論)は、宇宙がビッグバンという大爆発から始まり、高温高密度の「火の玉」状態から膨張とともに冷却され、ごく初期の宇宙に水素とヘリウムという元素をもたらしたと考えられています。
これらが徐々に星を形成していき、それが銀河を形成していきます。
最初の銀河がいつ生まれたかについては現在わかっていません。しかしおおよそビッグバンから10億~20億年後には初期の銀河が十分に成熟し、互いに合併などを繰り返して矮小銀河を形成したと考えられています。
銀河はこのプロセスを繰り返すことで徐々に巨大化していったと考えられるのです。
例えば、天の川銀河の形成が始まったのは約130億年前(ビッグバンから約8億年後)とされています。
それが毎年約1~2個の新しい星を形成し、他の矮小銀河を取り込むことで、現在の太陽質量の1000億倍というサイズ(暗黒物質を除いた質量)までゆっくり成長したと考えられているのです。
そのため、ビッグバン後わずか数億年の段階で巨大な銀河が存在するはずはないのです。
ところが、今回発見された銀河は、131億光年という距離にありながら、その質量が天の川銀河と同等の太陽質量の1000億倍に達していました。
しかもこのような大質量銀河を、イヴォ氏らはその後、計6つも発見したのです。
観測された6つの大質量銀河は、ビッグバン後に誕生したはずです。
しかしそうだとすると、この銀河は誕生後から急速成長し、毎年何百もの新しい星を形成し続けたことになります。
現在の宇宙論では星を形成するために利用できるガスの量について複雑な予測があります。
この予測に従って、今回の銀河の生成を計算した場合、宇宙のほぼすべてのガスが100%近い効率で星に変わる必要がありました。
これはつまり、現在の理論に従って今回の大質量銀河を形成することは不可能ということです。
そのため研究者たちは今回の発見について「現在の宇宙論のモデルと99%矛盾している」と述べました。
これは現在のモデルを変更するか、銀河形成の理解を根本的に再考する必要があることを示唆しています。
それゆえ彼らは、今回発見された6つの大質量銀河を「ユニバース・ブレイカー」と非公式に呼んでいます。
「現在の宇宙論ではありえない大質量銀河」の存在が、その名の通り、宇宙論を崩してしまうかもしれないのです。
もちろん、今回取得されたデータに何らかの不備がある可能性はあります。
しかし多くの試みにも関わらず、今のところミスは発見できていません。
またこれらユニバース・ブレイカーが、実際には銀河でなく、別のものである可能性もあります。
例えば、これまでに発見されたことのない種類の大質量ブラックホールなのかもしれません。
そのためチームは、今後ユニバース・ブレイカーのスペクトル画像を撮影する予定です。
これにより、対象の性質、距離、サイズがより詳しく明らかになり、「本物かどうか見分けられる」でしょう。
ただ注意しなければならないのは、宇宙論が崩壊すると言っても、それはいくつかの修正を必要とするというニュアンスに留まる点です。
現在JWSTは現行の理論に対立する多くの発見を報告しているため、一部の人達は「ビッグバン自体が起こらなかったのでは?」など大胆な予測を述べています。
しかしビッグバンが起きたという事実自体は宇宙マイクロ波背景放射などを含め確かな証拠が存在しているため、揺らぐことはないでしょう。
私たちは初期の宇宙における、重要なステップのいくつかを見落としている可能性は濃厚となってきましたが、宇宙の全体像に関する認識が変わるわけではないでしょう。
いずれにせよ、今回の発見が単なるミスだったのか? それとも宇宙論に修正を求める新たな事実が見つかったのか?
今後の報告が今から待ち遠しく感じます。
参考文献
‘We just discovered the impossible’: how giant baby galaxies are shaking up our understanding of the early Universe https://www.swinburne.edu.au/news/2023/02/how-giant-baby-galaxies-are-shaking-up-our-understanding-of-the-early-universe/ James Webb Telescope spots galaxies from the dawn of time that are so massive they ‘shouldn’t exist’https://www.livescience.com/james-webb-telescope-spots-galaxies-from-the-dawn-of-time-that-are-so-massive-they-shouldnt-exist NASA’s James Webb Space Telescope spots six massive galaxies that are so old they shouldn’t EXIST – in discovery that ‘pushes the limits of our understanding of cosmology’https://www.dailymail.co.uk/sciencetech/article-11780001/James-Webb-spots-six-massive-galaxies-old-shouldnt-exist.html Webb Telescope &The Big Bang https://webb.nasa.gov/content/features/bigBangQandA.html元論文
A population of red candidate massive galaxies ~600 Myr after the Big Bang https://www.nature.com/articles/s41586-023-05786-2