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これまでの研究により、現在100種類以上の共感覚能力が存在することが知られています。
共感覚とは視覚や聴覚など特定の刺激に対して別の感覚が同時に浮かび上がって感じる現象であり、一部のアーティストは「色を聞いたり、音を見たり、音色を味わったり」することが可能です。
「ティッカーテープ共感覚」はそんな共感覚の一種であり、言葉や動物の鳴き声などの聴覚刺激を受けると、脳内で該当する文字が自動的に生成され視覚的に感じることができるとされています。
そのためしばしばこの能力を持っている人々は「字幕付き」世界に住んでいると表現されます。
(※より専門的には、音素から書記素への自動変換が行われる現象と言えます)
しかし他の共感覚に比べてティッカーテープ共感覚の理解は遅れており、具体的にどのような字幕がどんな形式で現れるのかは詳しく解っていませんでした。
そこで今回、ソルボンヌ大学の研究者たちは26人のティッカーテープ共感覚能力者に対して詳細なアンケート調査を行い、この特殊共感覚能力の実態を解明することにしました。
結果、73%の被験者たちが小児期の読書練習中に共感覚能力が現われたことが判明。
70%の被験者はティッカーテープ共感覚は自分では制御できない現象であると答えていました。
また被験者の半数は、この共感覚能力には長所と短所の両方が存在していると解答。
(※被験者の23%は長所しか感じておらず15%は短所しかないと解答)
主な長所は単語のスペルを覚えるのに役立つことであり、短所は多くの人々が同時に会話をしているような場所では複数の字幕が次々に目の前に現れて集中力が低下してしまうことでした。
特に周りが会話をしているなかでの読書は困難であり、被験者の88%は周囲の会話から変換された字幕が本に書かれている文字の上に覆いかぶさり読みにくくなると述べました。
また最も共感覚を呼び覚ましやすい言葉として被験者のほとんどが「新しい言葉」や「奇抜な言葉」をあげました。
他にも、一部の共感覚者は、感情的な言葉を聞いた時に字幕文字が「にじんだり、揺れたり」、大きな声が大きな文字となって認識されるなど、音声に付随する他のパラメーターによって文字の外観が変化すると報告しました。
さらに驚くべきことに、一部の共感覚者は外国映画をみているとき、本物の字幕の上に、共感覚能力によってうみだされた第2の字幕が現れたと報告していました。
具体的には外国語の音声が「母国語の空耳」や「母国語の新しい単語」として認識されて自動的に字幕に変換されて出現していました。
そしてこの能力を持つ被験者の一部は、天然のバーチャル空間である「夢(悪夢も含む)」にも字幕が表示され、まるでフルダイブ型の映画のように感じていることが明らかになりました。
以前の研究ではティッカーテープ共感覚者が言葉を聞くと、脳の左半球の特定の領域が普通の人々よりも強く活性化していることが示されています。
これらの領域は読書を行っているときに活性化していることが知られています。
そのため研究者たちはティッカーテープ共感覚は「裏返された読書能力」と表現しました。
私たちの多くは読書を行うとき、文字を声に自動的に変換しますがティッカーテープ共感覚を持つ人々はその逆を無意識的に行っているからです。
しかし文字は自然に存在するものではなく、人類の文明が発明したものです。もしかしたら古代エジプト文字など象形文字を最初に発明したひとは、言葉を形に変換してしまう共感覚能力者だったのかもしれませんね。
参考文献
A Subtitled World: Uncovering the Secrets of Tickertape Synesthesia https://neurosciencenews.com/subtitles-tickertape-synesthesia-22419/元論文
Subtitled speech: Phenomenology of tickertape synesthesia https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0010945222003203?via%3Dihub