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カナダ・トロント大学(University of Toronto)材料科学工学科に所属するラファエル・ケイ氏ら研究チームは、イカの皮膚に触発された「液体窓」を開発しました。
様々な液体を出し入れできるため、窓の色を自由自在に変化させられます。
また季節や目的に応じて赤外線や可視光線を通過させたりカットしたりできるため、冷暖房や照明の電気使用量を削減できます。
研究の詳細は、2023年1月30日付の科学誌『PANS』に掲載されました。
目次
建物のイメージは、窓の数や形、色によって大きく変化します。
「マイホームの窓をカラフルにしてみたい」という人もいることでしょう。
しかし、一度カラフルな窓を導入してしまうと、簡単には元の透明な窓に戻せません。
同様のポイントは、窓の特性にも当てはまります。
例えば従来の透明な窓は、冬に活躍します。
可視光線と赤外線の両方を通過させるため、部屋の中を明るくして温めるのに役立つのです。
一方夏には、可視光線だけを取り入れ、赤外線による熱は遮断したいもの。
既存の「赤外線をカットする窓」を利用すれば、このニーズも満たすことができます。
しかし、「冬と夏で異なるニーズ」を両方満たせる窓は存在しません。
従来の窓は見た目においても、特性においても、柔軟性に欠けるのです。
そこでケイ氏ら研究チームは、目的に応じて色や特性を変化させられる新しい窓を開発することにしました。
研究チームは、イカの皮膚に着想を得ました。
イカは透明になったり様々な色に変化したりすることでよく知られています。
この変化は、イカがもつ「層状の皮膚」によって生じています。
「光の吸収を制御する器官」や「反射や虹彩に影響を与える器官」などが積み重なっており、互いに連携し、複合的に作用することでユニークな光学的特性を示すのです。
研究チームは、この構造に似せた複数の層からなる「液体窓(Liquid windows)」を開発しました。
これは、厚さ数ミリのプラスチックシートが複数重なったものです。
それぞれの層には、液体を送り込むための経路が内蔵されており、層ごとに別々の光学特性をもった液体を注入したり排出したりできるようになっています。
これにより、「赤外線」「可視光線」のそれぞれを選択的に通過させたりカットしたりできます。
また光を拡散させる液体の出し入れにより、部屋の明るさをコントロールできます。
これらを自由に組み合わせることで、部屋を明るく保ちながら、冬は暖かく、夏は涼しく調整できるのです。
そしてチームは、「壁の一面(南面)全体を液体窓に置き換えた架空の建物」のコンピュータモデルを作成し、エネルギー消費量をシミュレートしました。
その結果、「赤外線を調節するだけで、建物で使用する暖房・冷房・照明の年間エネルギーを約25%削減できる」と述べています。
さらに「赤外線と可視光線の両方を調節するなら、50%以上の節約になる」とも主張しました。
驚異的な数字ですが、現実のほとんどの建物では窓の総面積が小さいため、節電効果も控えめなものとなるでしょう。
ちなみに、液体窓のそれぞれの液体に色を付けるなら、瞬時に変化するカラフル窓になります。
気分に合わせて窓の色を変えたり、いつもの透明な窓に戻したりできるでしょう。
見た目と特性を柔軟に変化させられる液体窓は、まだ試作の段階です。今後の研究と改良で製品化に至ることを期待したいものです。
参考文献
‘Liquid windows’ inspired by squid skin could help buildings react to changing environments, save on energy costs元論文
Multilayered optofluidics for sustainable buildings