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クレジットカードは「今ここ」にお金がなくても、買い物ができてしまう非常に便利なカードです。
そのためしばしば、自分の支払い能力を超過するような衝動的な買い物に走ってしまう人も現れます。
これまでの研究では、クレジットカードの借金に苦しむのは主に「病的な自制心の欠如」が原因であることが示されています。
自分の支払い能力を超える買い物を「したい」と思う心が「してはいけない」と自制する心を上回ってしまえば、借金大王にならざるを得ません。
一方で、クレジットカードの借金に苦しむ本人が、自らの自制心をどう評価しているか(本人の主観)については、ほとんど研究されていませんでした。
既に数々の研究で、借金地獄に陥ってしまう人たちは自制心が欠如していることが判明しているため、本人の自己評価についてはあまり重要視されてこなかったのです。
しかし、本人が自らの自制心のなさを自覚した状態と自覚していない状態では、大きな違いがあります。
そこで今回、シンガポール国立大学の研究者たちは、月収の12倍を超えるクレジットカードの借金を抱える「極度の債務者」を対象に、自制心の主観的評価と客観的評価を行うために3種類のテストを行ってもらいました。
1つ目のテストは自らの自制心に対する主観的評価を尋ねるもの、2つ目のテストは自制心を客観的に測定するテスト、3つ目は注意力と抑制能力を客観的に測定する認知機能テストです。
結果、極度の債務者たちは自らの自制心について、比較対象となった一般市民やエリート大学の大学生に比べて、遥かに高い自信を持っていることが判明しました。
つまり、極度の債務者たちは衝動買いの末に借金地獄に陥っている現状にかかわらず、自分は自制心の塊のような人間であると考えていたのです。
しかし自制心を客観的に測定した2つ目のテスト、および注意力と抑制能力を客観的に測定する3つ目のテストでは、極度の債務者たちの成績は非常に低い数値となりました。
この結果は、極度の債務者たちは客観的にみて自制心や抑制力が欠如しているだけでなく、自らの自制心が低いことを主観的にも理解していないことを示します。
極度の債務者たちは、実際はできないのに、衝動的な買い物を抑えられると思いこんでいたのです。
研究者たちは低い自制力と低い自己認知の組み合わせは非常に危険だと述べています。
債務者が自分の自制力を高いと思い込むことは、誘惑に立ち向かう自信を不当に高めてしまい、オンラインショッピングを封印するなど効果が高い方法に取り込む可能性を低くしてしまう二重苦に陥る可能性があるからです。
しかし、借金地獄に陥っている現状にありながら、なぜ極度の債務者たちは自らの自制心を過大評価しているのでしょうか?
なぜ極度の債務者は自らの自制心を高いと判断しているのか?
研究者たちは、歪んだ認識の裏には、自制心を適用する範囲や方法を誤認していたり、自分と他人との比較に異常な偏りがあるなど、精神的な歪みが発生している可能性があると述べています。
つまり、極度の債務者の自制心に対する過剰な自信は、単に「いいかげん」「だらしない」「かんがえなし」といった単純なものではなく、根の深い心の問題である可能性があるのです。
ただ現在のところ、自制心に対する自己評価の不正確さが、いつどのようにして発生するか、生まれつきのものなのか経験によるものなのかは不明とのこと。
研究者たちは、極度の債務者たちにはカウンセリングなど、自制心にかんする心理ケアを行っていく必要があると結論しています。
また今回の研究では、極端な債務者たちに対する自己報告型の心理テストが、信頼できない場合があることが示されました。
「借金地獄に陥っているならば既に自分の自制心の弱さに気付いているハズ」と考えてしまいがちですが、結果は全く異なっていました。
研究者たちは今後、極端な状態にある人々に対しては既存のものに加えて追加の調査を行う必要があると述べています。
もし今現在、多くの借金を抱えているにもかかわらず、自分の自制心に疑問を感じていないのならば、注意したほうがいいでしょう。
参考文献
Extreme debtors may accumulate debt due to inflated sense of self-control
https://techandsciencepost.com/news/other-sciences/extreme-debtors-may-accumulate-debt-due-to-inflated-sense-of-self-control/
元論文
Pitfalls of self-reported measures of self-control: Surprising insights from extreme debtors
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/jopy.12733
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。
編集者
ナゾロジー 編集部