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この結果は、ペシグリオーネ氏らの次の実験によって明らかになりました。
実験には、40人のボランティアが参加。
そのうち24人(第1グループ)には脳を酷使する難しいタスクを、残りの16人(第2グループ)には前者よりもかなり簡単なタスクを行うよう指示しました。
そして両チームともタスクを6時間(10分休憩を2回含む)続け、研究チームはその間、参加者の脳内の変化を「磁気共鳴分光法(MRS):脳内代謝物の濃度を測定する方法」で調べました。
その結果、タスクを終えた第1グループの脳の前頭前皮質では、神経伝達物質「グルタミン酸」の濃度が高く、同時に疲労の指標となるさまざまな物質も検出されました。
一方、タスクを終えた第2グループでは、脳内のグルタミン酸濃度が低く、精神的な疲労も見られませんでした。
このことから、前頭前皮質のグルタミン酸濃度は、ハードな認知作業によって高まり、これが精神的疲労を生み出していると分かります。
グルタミン酸の蓄積は精神的疲労をつくり出しますが、それ自体の存在が問題なのではありません。
そもそもグルタミン酸は脳にとって重要な神経伝達物質であり、気分・記憶・学習能力をコントロールし、脳の機能を最適化する役割を担っています。
また中枢神経系で興奮性の神経伝達物質としても働き、神経細胞を刺激し、情報を受け取りやすくする働きもあります。
そのため疲労を引き起こすのはグルタミン酸の存在ではなく、グルタミン酸の過剰な蓄積です。
ハードな認知作業によってグルタミン酸が過剰に蓄積されると、脳信号の微妙なバランスが崩れ、情報伝達が損なわれます。
重篤な場合には、毒性を引き起こすこともあるといいます。
そのため精神的な疲れを感じているときというのは、判断能力が大きく損なわれた状態でもあり、脳はより負担の少ない意思決定を重視する可能性があります。
つまり研究チームが指摘しているように、「精神的に疲れている時には重要な決定を下してはいけない」のです。
では、過剰蓄積したグルタミン酸をリセットするにはどうすればよいのでしょうか?
研究チームは、グルタミン酸の濃度が、睡眠や何らかのリラックスした活動の後に、正常値に戻ることも教えてくれています。
「疲れには休息と睡眠が必要」という考えは、身体的疲労と精神的疲労の両方に通じるものだったのです。
勉強やデスクワークで脳を働かせたなら、その後に不適切な判断をしないためにも、十分な休息を取りましょう。
今後、研究チームは、「ハードな認知作業によってグルタミン酸が過剰蓄積される理由」についても調査していく予定です。
参考文献
Here is why you feel tired after thinking hard
https://www.zmescience.com/science/news-science/here-is-why-you-feel-tired-after-thinking-hard/
Why thinking hard makes you tired
https://medicalxpress.com/news/2022-08-hard.html
Mental Fatigue May Involve a Potentially Toxic Chemical Buildup in the Brain
https://www.technologynetworks.com/tn/news/mental-fatigue-may-involve-a-toxic-buildup-of-chemicals-in-the-brain-364648
元論文
A neuro-metabolic account of why daylong cognitive work alters the control of economic decisions
https://www.cell.com/current-biology/fulltext/S0960-9822(22)01111-3
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
ナゾロジー 編集部