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【7本目】食品に始まり、雑貨、クルマ......。相次いで身の回りのモノが値上がりし、気づくとステルス値上げしていることも珍しくない。
説明するまでもなく急速に進んでいるインフレによるものだが、改めてこれがインフレかと身に染みる思いだ。足元の米長期金利の推移をみると、複数回の利上げによるインフレ抑制のシナリオが織り込まれている水準といえるが、金利差のみならず逆資源国通貨としての側面もあわさり、当面「米国金利高+ドル高円安+コモディティ高」は日本に直撃し、その影響は計り知れない。
近所のガソリンスタンドの価格も見るたびに上がり、7年ぶりの高値という異常事態になっている。日銀の「2%の物価上昇」目標に向けて動き出したと手放しに喜べるはずもなく、ディマンドプルインフレよりも、明らかにコストプッシュインフレの側面が強く出ている。
石炭・エネルギーを中心に住宅資材や衣類などを傘下に抱え、東証第1部に上場する三井松島ホールディングス(HD、福岡市)に、注目した。
直近で急騰しているのは、天然ガス・原油をはじめとする燃料資源だ。急激な経済活動の動きと異常気象にともなう冷暖房使用の増加に対して、供給が追い付かない。大型ハリケーン「アイダ」の上陸、物流停滞など様々な要因が挙げられるも、「グリーンインフレーション」すなわち、脱炭素に向けたグリーンとインフレを重ねた造語ができるほど、脱炭素の副作用だともいわれている。
脱炭素は燃料資源の使用を抑えるのだから、需要減による価格低下というシナリオとも一見思えるが、皮肉にもむしろ脱炭素の流れ加速によるコスト負担を強いられることになった。
従来からコロナによる需要減を見込み、化石燃料開発への投資を控えてきたが、その後の経済活動の回復を受けても脱炭素の世界的潮流を踏まえて、その投資控えが継続している。供給が大幅減となったまま、需要が大幅増となったため、エネルギーの高騰を招いた構図だ。名だたる機関投資家も環境負荷の大きい企業へのダイベストメントを打ち出しており、この潮流は変化しないだろう。
個別にみると、原油はOPEC(石油輸出国機構)が増産に消極的、天然ガスは一時的な生産障害や気候問題、パイプライン「Nord Stream 2」問題などを除いても、環境負荷が小さい代替エネルギーとして存在感が高まっており、原油・天然ガスともに引き合いが強い。
加えて、石炭価格までもが急騰しているのが、直近の動きだ。安価で安定供給できるも環境負荷も大きく、旧来型エネルギーとして敬遠されてきた石炭の市況が歴史的な高値圏で推移している。
背景にあるのが中国の電力不足問題で停電や工場の操業停止が相次ぐなど深刻な事態となっている。中国では石炭火力発電が依然として主力であり、世界の石炭使用の多くを同国が占めているが、中国政府も他国同様、環境対策強化に乗り出したことで、石炭で発電しづらいという事情がある。
さらに炭鉱の水没や炭鉱事故続発による規制強化などで石炭採掘が鈍り、石炭価格が上昇したことで収益悪化を嫌う電力会社が発電所の稼働率低下を招いたことも一因だ。石炭の輸入も豪中関係の対立深刻化という、外交上の理由で滞っており、代替輸入先の他国も気候・輸送の問題で十分な量の確保に至らず、輸入石炭価格の上昇も招いている。
中国の石炭爆買いに加えて、高騰している原油・天然ガスに代わり、一時的に相対的に安価な石炭へのシフトも相まって、国際的にも価格が急騰している石炭市況だ。尚、足元では中国政府が価格抑制に乗り出しおり、価格の急落もあるが、引き続き値動きの荒い展開となっている。
参考リンク FRED ECONOMIC DATAより
このようなエネルギー危機という状況下でも、堅調な動きを見せるのが「三井松島HD」だ。同社の株は、元お笑い芸人で著名個人投資家の井村俊哉氏が5%超保有したことが話題となったことも記憶に新しい(参照:『著名個人投資家の井村氏 市況産業に注目』日本経済新聞2021年10月22日付)。
井村氏の「目をこらせば、シクリカル(景気循環)で得たキャッシュを元手に持続的に成長する割安な重厚長大型の企業もある。そういった銘柄を探して長く保有したい」の真意と併せて考えたい。
同社は創業以来、100年以上にわたって、製鉄原料やエネルギー資源として重要な石炭の生産・販売事業を展開している。大島炭鉱や池島炭鉱を軸に成長してきたが、閉山後の現在はオーストラリアの炭鉱の権益が収益柱だ。かねてから進む石炭消費縮小、近年急速に進む脱炭素化の流れに対応すべく、企業買収などを通じて収益の安定化・多様化を図っている。
現在の主な事業は以下のとおり
(以下の業績寄与は会社公表ない場合、官報決算データベースより参考値として記載している)
<エネルギー事業>
・石炭販売分野(業績寄与:第3期決算/当期利益105百万円 ※官報決算データベースより)
三井松島産業株式会社にて、取扱数量に応じたコミッションを収益としていることから、石炭価格の変動による利益への影響は限定的。
・石炭生産分野
石炭市場縮小はあるものの、豪州リデル炭鉱における燃焼効率がよく良質な石炭の需要は底堅いとされる。2023年の既存鉱区終掘に伴う鉱区延長の準備を着実に進めつつも、鉱区延長には莫大な投資が必要なため採算次第では早期撤退も視野に入れ、創業事業の再編も躊躇しない姿勢。なお、2021年3月期に会計上も豪州のリデル既存鉱区の固定資産減損など、インドネシアのGDMに対する貸倒引当金計上等を行っており、筋肉質な体制となる。
・再生可能エネルギー分野(業績寄与:第9期決算/当期利益61百万円 ※官報決算データベースより)
MMエナジー株式会社の「メガソーラーつやざき発電所(6MW)」の年間発電量は、一般家庭約2000世帯分の年間消費電力に相当。
<生活関連事業>
・飲食用資材分野(業績寄与: 2022年3月期予想EBITDA 8億円)
日本ストロー株式会社は、国内伸縮ストロー市場において圧倒的なシェア(約65%・同社調べ)を誇る。他社に先駆けてバイオマスプラスチックや海洋生分解性素材などを原料とする各種ストローの開発・量産化を進める。
・衣料品分野(業績寄与: 2022年3月期予想EBITDA 1億円)
花菱縫製株式会社は1935年の創業で、「オーダースーツ」の先駆者として国内で初めて重衣料の工業システム化に成功。商品開発から生産・販売までの全工程を国内で一貫対応。オフィスウェアのカジュアル化や感染症拡大の影響は大きいものの、生産体制の抜本的な見直しにより、19年度比6割の市場規模でも黒字化できる体制へ転換し、21年度営業利益は黒字化見通し。
・電子部品分野
(業績寄与: 2022年3月期予想EBITDA 7億円)
クリーンサアフェイス技術株式会社は、1977年に国内初のマスクブランクス専業メーカーとして創業以来、液晶パネル・有機EL・電子部品等の製造に用いられるフォトマスクの材料であるマスクブランクスの成膜加工を手掛け、国内外の有力フォトマスクメーカーに販売。今後は次世代通信規格5Gや人工知能(AI)などの分野で成長が期待。
(業績寄与:2022年3月期予想EBITDA 5億円)
三生電子株式会社は、あらゆる電子機器に搭載され、特にスマートフォンなどの無線接続機器に必要不可欠な電子部品である「水晶デバイス」の製造装置および計測機器を製造・構築。水晶デバイスの製造工程のうち組立から検査まで幅広くカバーしたインラインシステムを製造できる国内唯一の装置メーカー。5Gの更なる普及や、自動車のEV化・自動運転支援機能の拡大に期待。
・事務機器分野(業績寄与:2022年3月期予想EBITDA 10億円)
株式会社明光商会は1960年に日本で初めてシュレッダーの製造販売を開始し、創業以来の実績と独自の技術・ノウハウにより国内オフィス用シュレッダー市場で揺るぎない地位を確立。現在では主力のシュレッダーや受付自動案内システムを中心に、リサイクル・環境ソリューションのご提案まで「紙」の枠を超えた事業を展開。今後、実質的な製販一貫体制を構築する。
・ペット分野(業績寄与:2022年3月期予想EBITDA 4億円)
株式会社ケイエムテイは、予防医学に基づいた高品質プレミアムペットフードの企画・販売。同社は、ヒューマングレードの原材料を使用、添加物・着色料・副産物を不使用とするなど、ペットの健康に配慮した商品を展開していることから、全国のペットブリーダー・動物病院からも高い支持を獲得しており、高品質プレミアムペットフードの市場において強いブランド力と高いシェアを有す。
・住宅関連部材分野(業績寄与:2022年3月期予想EBITDA 5億円)
株式会社システックキョーワは、ドアストッパーや耐震ラッチなどの住宅関連部材の企画・製造・販売。企画から金型・成形・組立まで、一貫生産を行う。明光商会への軽量筐体やキャスターの提供など、グループ会社との協業によるシナジーも期待。
・介護分野(業績寄与:第8期決算/当期利益12百万円 ※官報決算データベースより)
MMライフサポート株式会社は、福岡市において2棟のサービス付き高齢者向け住宅の運営と通所介護等など介護事業を行う。立地利便性に優れた住宅は高い入居率を維持。
三井松島HD(1518)
年初来高値(2021年10月18日) 1785円
年初来安値(2021年 1月 4日) 700円
直近の株価(2021年11月 8日) 1389円
◆企業分析バトル カブ大学対抗戦のルール学生投資連合USIC
・月額200万円を投資金額の上限とするバーチャル投資です。
・投資対象は新興市場を含む、国内の上場企業の現物取引です。
・運用期限は最長で6か月。銘柄選定の最終月は10月になります。
・順位は11月末時点で、投資した銘柄(企業)の売買や配当で得た収益の騰落率で決めます。
「学生の金融リテラシー向上」を理念に全国26大学1000人以上で構成。企業団体・官公庁との勉強会の開催、IRコンテストの運営、金融情報誌「SPOCK」を発行する。
http://usic2008.com/
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