はじめに
7月15日に第4弾が放送された『ウルトラハイパーハードボイルドグルメリポート ~ヤバい世界のヤバい奴らのヤバい飯~』(テレビ東京系)。「食うことすなわち生きること」をコンセプトに、アメリカのギャングやロシアのカルト教団など、日本で暮らす私たちの生活とは程遠い人々の生活や食事風景から、“生きる”ということを伝えている。番組を立ち上げ、自ら取材に赴きカメラを回すテレビ東京・上出遼平プロデューサーが語る旅とは。
前編では、どんな旅先でも受け入れられる、そのコミュニケーション術について伺いました。
Text:横前さやか

“飯”というものが相手の懐に入るコミュニケーションの要
――――そもそも、上出さんが『ハイパーハードボイルドグルメリポート』を作ったきっかけはなんだったのでしょうか?
『世界ナゼそこに?日本人~知られざる波瀾万丈伝~』という番組をやっていた時に、普通の人が行けない(行こうとは思わない)場所によく行っていました。観光客が立ち入らないような場所でカメラを回し、ほとんどの人が見ることのできないものを届けるのがテレビの役目だなと感じていて。貧困街、スラム街、辺境の山岳地帯など、時に危険と言われる場所によく行きました。そこで大きな発見があったんです。それは、そういう“ヤバい”場所で暮らしている人は、僕ら日本人からすれば経済的にすごく貧しい。けれど彼らは彼らの幸せな日々を過ごしているということ。多くの日本人が思う“幸せ”と、彼らが遠く海の向こうで手にしている“幸せ”とは違う。そしてその幸せに優劣はつけられない。それを、「あれこそが幸せだ!(ああじゃなきゃ幸せじゃない)」と思い込みがちな日本の人にも伝えたいなと思ったんです。
――――ではなぜ“食べる”ということにフォーカスしたのですか?
いろいろな国に行けば行くほど、その国の食べ物って面白いなぁと思っていて。「こんな風に火を通すんだ」とか「豚ってこんな方法で丸焼きにすると美味しいんだ」という驚きもあるし、飯にはその土地で生きる人たちのクリエイティビティが凝縮されているなと。さらに、いわゆる極限で生活している地域の人のほうが、ほかと比べてより食への“圧”が強いんです。暮らしの一挙手一投足がその日の“飯”に向かっている感覚。“食う”ために生きて、生きるために“食う”という循環を肌で感じます。さらに、我々日本人にとっては、一緒に飯を食うということは当たり前のコミュニケーションツールじゃないですか。だから、“ヤバイ”場所へ行ってそこに暮らす人たちの飯を見に行けば、同時にその人の暮らし、生き様、その地域の有様も伝えられるんじゃないかと思ってこんな番組になりました。
――――日本にも“同じ釜の飯を食う”という言葉があるくらい、食は人をつなぐものなのかもしれませんね。
最初は憶測でしたが、実際に現地に赴いて彼らと一緒にご飯を食べることで、この言葉は本当なんだなと思いました。彼らの空間に入っていって「生活の様子を取材させてください」と言うと構えられてしまうんですけど、「一緒に飯を食ってくれませんか」って言うと、「あぁいいよ!」となる。結果論ではあるんですけど、飯というものが取材のハードルを下げて相手の懐に入りやすいコミュニケーションツールになっているなと思います。言ってみれば『突撃!隣の晩ごはん』的なことですよね。行く場所や撮るものなど、違う部分が多いですけど(笑)。
――――“ヤバイ”場所に行っているのに、現地の人からの受け入れられ方がすごいですよね。食以外に、気をつけていることはありますか?
まず、握手をすることですね。取材したい人、取材したい組織の窓口の人、街で会った警察官、必ず握手をするようにしています。一度相手に触れた方が良いと経験上思っていたのですが、この話をしたら、ドキュメンタリーを撮っているベテランの方から「それは実は菌を交換してるんだ」と言われて、なるほどなと感じました。あとは、当たり前だけど礼儀もめちゃくちゃ大事。感謝もたくさんするし、日本より礼儀を重んじる国っていっぱいありますからね。襟付きでないと入れない場所もあったりするので、ロケで着ている服にも一応襟がついてます。

ニュージーランドのアウトドアブランド『macpac(マックパック)』のウェア。ほとんどのロケはこれを着用しているという

同じくロケに持ち歩いている、濡れてはいけないもの入れる『HYPERLITE MOUNTAIN GEAR(ハイパーライト マウンテンギア)』という登山ブランドの防水袋。番組の名前はここからとったのだとか
――――通訳を介さずに英語で話す場面も多いですよね。
文法もめちゃくちゃだし、ひどい英語ですけどね(笑)。でも気持ちが伝わるんじゃないかなと思います。通訳を介すのと自分で直接話すのとはまったく違うんですよね。通訳を挟んだ瞬間に、その人(通訳者)の言葉になってしまいます。僕は直接話したいので、なるべく英語圏しか行かないようにしています。
――――先日、ゴールデン放送がありましたね。いつもロケ地はどのように決めているのですか?
実は、放送が決まったのが3ヶ月前で。撮り溜めている番組ではないので、そこから慌てて取材先を探しました。海外のニュースサイトを見て、それでケニア・ナイロビのゴミ山のことを知って現地に赴きました。もちろん、行ったところで、取材対象者に行き合えるという保証もないので、とにかく行ってみるという手段しかないんですよね。
――――そこが番組のリアルさにつながっているんでしょうね。放送後の反響はいかがでしたか?
ゴールデンということで、今まで番組を知らなかった幅広い世代の人たちに知ってもらえたようです。今回は小籔さんだけでなく有吉さんにも出てもらって、さらに面白くしてくれて。ただ、21時という時間帯はやっぱりちょっと早かったかな…ご飯を食べながら見るような番組ではないので(笑)。
――――たしかに、映像もそうですが、流し見はできない番組だなと(笑)。
ナレーションや状況説明をあえて入れていないので、流し見してたら一瞬で置いていかれると思いますね(笑)。今のテレビ番組の多くは、すべて解説があるし答えも用意されていて、それを一方的に発信しているものが多いんですが、僕の理想としては「どういうことだ?」と視聴者の方に脳みそを使って考えてほしい。考えることで周りが見えなくなって、初めて映像に没頭していくと思うんです。どうやったらその体験に行き着くかを、今後はさらに突き詰めたいですね。まぁ、それは観る人にとってはストレスでしかないんですけど(笑)

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◆上出遼平
テレビ東京プロデューサー・ディレクター。2017年に第1弾を放送した『ハイパーハードボイルドグルメリポート』の演出・プロデュースを手がける。
後編では、これまで50カ国以上を訪れた上出Pがおすすめする、“ディープな旅先”について教えてもらいます。