はじめに
亜熱帯地方の森林には、神秘的な樹木や花々、希少動物や色鮮やかな虫など、非日常感あふれる出合いがたくさん。台湾には、そうした生態観察が可能な国家公園やレクリエーションエリアが多数。台湾最南端に位置する屏東県の「雙流國家森林遊樂區」は、美しい滝と珍しい動植物との出合いが魅力。北東部の宜蘭県にある「太平山國家森林遊樂區」は、森林鉄道や温泉など、林業の歴史と自然の融合が特徴。次の旅で目指すべき2つの森林遊樂區を紹介します。
親子で楽しめるコースから上級者向けまで。亜熱帯地方の山を歩こう。
屏東県の「雙流國家森林遊樂區」は、恒春半島最大の滝である雙流瀑布を目指すハイキングコースが人気のレクリエーション地区。滝までの歩道は全長3190mで、片道の所要時間は60〜120分。滝付近の約1kmは多少のアップダウンがありますが、全体的には歩きやすいコースで、3歳から80歳まで誰もが楽しめると好評です。動植物との出合いも多く、キッズは大興奮必至です。
散策用の水路は、ザブザブと大胆に歩くべし!?
コースの途中にはいくつかの休憩ポイントがあり、入口から500mほどの地点には、ピクニックや日光浴ができる芝生の広場、そこから1km進んだところには散策用水路があり、ほとんどの人は水路に入り、涼を取りながら進みます。この水路は、毎年12月から梅雨入り前までは水位が下がってくぼみが出来るため、南部特有のコンジンテナガエビ、スズキなどが観察できるそう。
付近には、センザンコウなどの珍しい哺乳類が生息。
滝までの道中は、生態観察の宝庫。タイワンザル、ハクビシン、クリハラリス、キョン、カニクイマングース、シナイタチアナグマ、センザンコウなどなど、珍しい哺乳類を観察することができます。ほかにも、黒い頭部と青い体の対比が美しいヤマムスメ、鮮やかな緑のオダマキヘビ、首から胸元の黄色い毛並みが特徴のキリエテンなど、希少動物の生息が確認されています。
その数、なんと200種類。色とりどりの蝶が舞う楽園。
この環境汚染や破壊のない森林はまた“蝶の楽園”でもあります。鑑賞の手引書『雙流蝶影–雙流森林遊樂區賞蝶手冊』には、200種もの蝶が記載されていて、最も多いのがアゲハ、マダラチョウ、シロチョウ科です。水の流れが穏やかな水路には、イトトンボの舞などが見られ、精霊に囲まれているような幸福感が体験できます。谷川を覗けば、タイワンアカハラ、タイワンハナマガリ、サワガニ、カジカガエルなどを見つけることもあるでしょう。
滝壺の美しさにうっとり、マイナスイオンですっきり。
さあ、待望の雙流瀑布に到着です。年間を通して水が枯れない滝は南部では珍しく、エメラルドグリーンの滝壺はとても神秘的。マイナスイオンに満たされた空間はリフレッシュ効果も抜群です。
何層にも連なる木々のグラデーションが見られる吊り橋へ。
滝のマイナスイオンで癒された後の復路は、登山道を通るのがオススメ。滝歩道とほぼ平行に作られていて、全長2160m、片道の所要時間は60〜90分です。入口からほど近い場所には吊り橋があり、歩道から見るのとは違った景色が望めます。中層部に茂るシマサルスベリは、先住民が建材として多用しているなど、地元の人々の生活とも密接な植物なのだそう。
目指すはガジュマルの巨木。上級者コースに挑戦しても。
他にも旅客サービスセンターを起点とした「白榕歩道」と「帽子山歩道」の2つのコースがあり、こちらはやや上級者向け。「白榕歩道」は、標高差180m、全長1910mのコースで、巨大なガジュマルとパイワン族の石造りの低い壁の遺跡が見どころ。「帽子山歩道」は、全長2850mの険しい道が続く、チャレンジャー向けコース。歩道に散見される丸い洞穴は、センザンコウの“傑作”。夜行性ゆえ、なかなかお目にかかれない動物ですが、山頂の手前100mあたりの原生林では、幻とも言われるオダマキヘビに遭遇する機会があるそう。
解説つきの生態観測は、夏の自由研究にぴったり!
また、人と自然の橋渡し役となることを使命とする雙流自然教育センターでは、野外教育、テーマ別活動、専門課程などの多元自然体育体験コースを企画。自由に散策するもよし、解説を聞いて理解を深めるもよし。屏東を訪れる機会があるなら、ぜひ一泊プラスして、南国ならではの自然を存分に楽しんで。
◆雙流國家森林遊樂區
住所:屏東縣獅子鄉丹路村丹路二巷23號
人気の宜蘭地方、神秘的な森林散策はいかが?
「太平山國家森林遊樂區」は、宜蘭の林業地区を中心としたレクリエーション区。森林浴、生態観察、雲海、滝、森林鉄道、湖畔の滞在、温泉……12930ヘクタールもの広大なエリア内は見どころがいっぱいです。訪れるならエリア内の特等席にある「太平山莊」に宿泊して、ゆったり回るのがオススメです。
ひとつめに紹介するのは、翠峰湖。尾ビレを揺らす金魚のような形をしていて、腫れた日は青空を写す鏡のごとく、霧が立ちこむ日には山水画のごとく幽玄な表情を見せる湖です。時間に限りがある旅なら、環湖歩道にある3つの展望台へ。西、北、東側からの趣きの異なる景色を楽しみ、写真に収めることができます。余裕がある旅程なら、約2時間半の「翠峰湖環山歩道」の散策を。
映画『アバター』を彷彿とさせる、静寂と神秘を感じる森へ。
2018年には、湖の東側に「寂靜山徑」なる新しい歩道が完成。心を無にして五感を解放すると、静寂のなかに鳥の囁きや虫の鳴き声を感じる……そんな山道が続きます。クライマックスは、中間地点にある「奧陶紀苔原」。約4億4000〜4億9000万年前の古生代前期・オルドビス紀の“ツンドラ”という名の苔生した場所で、そこに広がっているのは映画『アバター』の世界。ヒノキにまで生えた苔には消音効果があり、この森にさらなる静寂をもたらしているといいます。くれぐれも苔を踏まないよう、細心の注意を払って歩いてください。
“世界で最も美しい小径”には、フィトンチッドの癒し効果も。
ここには、もう1つ特徴的な森があります。それは一万年前の氷河期から生き残っている希少植物・台湾ブナの森。翠峰湖の東南側に位置し、かつての資材運搬路が歩道となっています。苔、板岩の壁、紅ヒノキ、柳スギ、山桜などの木々をはじめ、距離標、宿舎、転轍機などの文化遺跡が点在しています。この台湾最大のブナ林、四季それぞれの表情の違いを楽しめるだけでなく、フィトンチッドによる“天然スパ”効果も期待できることでも人気です。
雪山から大覇尖山まで続く稜線・聖稜線を望める「見晴懷古步道」もまた、林業で栄えた時代の名残がある歩道。苔生した線路、木馬、台車輪軸、転轍機などが横たわる歩道には、人の営みがあった時代を想起させるノスタルジックな雰囲気が。CNNの世界で最も美しい小径に選ばれたのも納得です。
観光列車に揺られ、林業で栄えた時代に思いを馳せる。
すでに森の一部となっている遺跡もあるなか、いまなお稼働しているディーゼル機関車が「山地運材軌道車」。100年前の木材運搬における代表的路線であった茂興線の一部を1985年に修復し、観光森林鉄道「蹦蹦車」として生まれ変わりました。この列車に乗ることは「太平山國家森林遊樂區」訪問のメインイベント。約3kmの森林鉄道の旅は必須です。
美人の湯をたたえた公衆浴場でリラックス。
もうひとつの必須ポイントは「鳩之澤温泉」地区。屋外公衆浴場と貸し切り風呂が楽しめるほか、迫力満点の吊り橋、温泉卵づくりも人気です。青白いお湯は、アルカリ性炭酸泉。宿泊施設はないので「太平山莊」での滞在を組み合わせるのが良さそう。
山荘に滞在して、刻々と変わる山の景色を堪能しよう。
「太平山莊」は、環保署の“金級”認定を受けたエコロジーホテルで、サービスセンターの役割も担っています。抜群のロケーションに加え、496段の中央階段の両脇に茂る楓も見どころのひとつ。これは“紫葉槭”という楓で、日光によって色づくため、冬場を除く長い期間、美しい紅葉が見られるのが特徴です。長い長い階段は赤い楓のトンネルとなり、忘れ難い景色を演出しています。
森林のチカラを五感で受け止め、日頃の疲れを吹き飛ばそう。
フィトンチッドに癒される森林浴と美人の湯の温泉浴、幻想的な自然美に触れるトレッキングに、レトロなディーゼルの森林鉄道。これ以上ないほどの非日常感、次の台湾旅行であなたも体験してみませんか。
◆太平山國家森林遊樂區
住所:宜蘭縣大同鄉太平巷58之1號