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五ツ星お米マイスター・小池さんに聞く、足を運んで食べたいお米の産地と「めしのとも」




はじめに


新米の季節がやって来ました。普段何気なく食べているお米ですが、産地は全国各地にあり、品種やブランドも数多く存在します。そこで、五ツ星お米マイスターの資格を持ち、都内で精米店を営む小池理雄さんに、おすすめのお米の産地と、合わせて食べたい“めしのとも”を教えていただきました。お米のプロが、現地に足を運んでまで食べたいお米とはどんなものなのでしょうか?

Text:小池理雄
都内のお米屋さんが産地を巡る理由とは?

都内のお米屋さんが産地を巡る理由とは?


私は米屋という仕事柄、初夏から初秋にかけて全国の産地を巡ります。その時期はちょうど生産者さんが田植えを終えており、稲刈り時期まで一息つけるタイミングだからです。産地見学の目的は、田んぼの様子を確認したり、産地周辺の風景を感じたり、現地で生産者と意見交換をしたりして、お米の味だけではなくお米回りの情報を「仕入れる」ことにあります。そういった情報を「おいしいお米」と一緒に消費者にお届けすることにより、お客さんにお米の産地を身近に感じてもらうことを心掛けています。私は「お米をツールにして産地と消費者の懸け橋になること」、それこそが都内の米屋の存在意義だと思っているからです。
――ただ、実は個人的には旅行が好きということもあり、仕事にかこつけて……という側面も否めません(笑)。学生時代は旅行サークルに入っていました。また、米屋を継ぐ前のサラリーマン時代は出張が多かったということもあり、旅行もとい出張自体、今でもフットワーク軽くあちこちに行きます。この辺り、実は他のお米屋さんと比べるとやや異色かもしれません。
そして素敵な産地に行くと、「これは自分だけではもったいない!」ということで家族旅行で再訪することも間々あります。今回はそういった「産地見学の後に思わず家族旅行でも行ってしまった」お米の産地をご紹介します。そして少しでもその産地に関心を持っていただき、皆さんが実際に足を延ばして現地でおいしいお米に触れてもらえれば、これ以上のことはありません。

水と「めしのとも」がお米をさらにおいしくする


お米は生鮮食品ですが、日持ちするため収穫場所と消費地との遠近が味に影響を与えることはありません。それでも現地で食べて欲しいのは……、一つには水です。産地の水は本当においしい地域が多く、その水で炊飯するとおいしさはさらにランクアップします。そしてもう一つは現地で出合える「めしのとも」。この二つこそ、現地に行ってお米を食べる意義にほかなりません。今回紹介するのは、①福島県会津、②新潟県佐渡島、③沖縄県石垣島、の三産地です。 ①魚沼に引けを取らない産地「福島県会津」

①魚沼に引けを取らない産地「福島県会津」



お米の産地と言えば東北地方です。「日本の穀倉地帯」と呼ばれるこの地域では、日本全体のお米の生産量の約4分の1を占めます。そしてその東北地方でもさらに有名な産地と言えば福島県会津地方。この地で収穫されるコシヒカリは、新潟県魚沼産と並んで高評価を得ています。稲作の観点から言うと、周囲を山に囲まれた会津盆地は一日の寒暖の差が大きく、山からは豊かな水流が流れ込む、まさに稲作に適した地域です。特に夏場、一日の寒暖の差が大きいと稲に好影響を与えます。またその水のきれいなことは、この地域が日本有数の日本酒の産地であることからも分かります。ちなみに喜多方を中心としたラーメン文化があるのも、この水がきれいなことに由来します。

会津地方は昔から交通の要所として栄えており、江戸時代には譜代大名が治めていた地域です。また戊辰戦争で戦場になったこともあり、鶴ヶ城をはじめ歴史的な見どころが多い地域であるため、観光地として十分に楽しめる地域です。会津地方は昔から稲作が盛んで、またそのレベルも高く「會津農書」という今でいう「稲作マニュアル書」が江戸時代に刊行されたほどです。この書籍のおかげで会津地方の農業技術は体系化され今に至っているのです。

おすすめのお米と「めしのとも」は……


いま会津若松市では「會津農書」で紹介された「酒粕を肥料に使った農法」を活用し、より丁寧に栽培されたコシヒカリを「AiZ’S-RiCE」としてブランディングしています。会津のコシヒカリ自体は歴史もあり、都内に十分浸透しているにも関わらずさらにその上を行くお米として都内米屋からは高評価を得ています。会津産のコシヒカリは弾力のある食感と舌の深いところに届くうま味が特徴です。「AiZ’S-RiCE」はそれらの特徴に加えて口の中にいつまでも残る甘みの余韻が特筆ものなのです。

さて、この「AiZ’S-RiCE」に合わせるのは……、会津で採れる「山塩」です。日本でも非常に珍しい山塩を使った「塩むすび」がおすすめです。塩味だけではなくややうま味のある山塩を合わせて口の中に運ぶと、よりコシヒカリの甘さが際立ち、恍惚のひと時を味わうことが出来ます。 ②新潟県の三大産地の一つ「新潟県佐渡島」

②新潟県の三大産地の一つ「新潟県佐渡島」


「島でお米が採れるの?」 佐渡島と聞くと、皆さんそのように思われるかもしれません。しかしそこは日本で二番目の大きさを誇る島、佐渡島。東京23区と同じくらいの面積となれば、耕地面積が広いことも容易に想像できると思います。さらに、新潟県には「お米がおいしい三大産地」があり、魚沼、岩船と並ぶ3つ目が佐渡島なのです。単にお米が採れるだけではなく、実は業界的にもおいしいお米が採れることで有名な産地です。

佐渡には有名な佐渡金山があります。そのほか、たらい舟体験、海釣りなどのアクティビティも盛んです。そして何よりも特別天然記念物の朱鷺がいます。現在、佐渡島の皆さんの活動もあり、朱鷺は300羽を超えるまでになりました。その活動の一環として、実はお米が深く関わっているのです。

朱鷺は田んぼが餌場です。そこで佐渡の生産者さんたちは田んぼに餌となる魚や虫を呼び戻すため、農薬をあまり使わない稲作を展開しているのです。おかげで今や島内をドライブすると、必ず朱鷺を見ることができます。こういった生産者さんの圃場で栽培されたお米が「朱鷺と暮らす郷米」というブランド米です。佐渡島はこのように人間の営みである農業と朱鷺をはじめとした生きものたちの共存を図る取り組みをしているのです。その取り組みは世界的にも評価されており、佐渡島の稲作は「世界農業遺産」にも登録されています。 おすすめのお米と「めしのとも」は……

おすすめのお米と「めしのとも」は……


「朱鷺と暮らす郷米」のブランドで販売されているお米の多くはコシヒカリです。炊き上がりのその照り具合から、お米の旨味がたっぷり入った「おねば」が良く出ていることが分かります。佐渡島の天然ブリを使った「ブリカツ丼」は島を挙げての推しメニュー。うま味がたっぷり含まれたコシヒカリであれば、カツの濃いめの味もしっかり受け止めます。

お米の味をより味わいたいのであればもずくを佃煮にした「岩もずくのり」もおすすめです。この岩もずくの佃煮を佐渡コシヒカリと食べて下さい。佃煮のドロリとした形状がお米粒によくまぶさります。そしてその濃厚な味であってもコシヒカリは負けずに舌の上でその味を主張するのです。 ③本州で最も早い新米「沖縄県石垣島」

③本州で最も早い新米「沖縄県石垣島」



さて最後のご紹介するのは……あまりお米のイメージがない沖縄県石垣島です。「え!?沖縄でお米がとれるの?」という反響の大きさは佐渡島の比ではありません。しかし冷静に考えると、お米は南方から渡ってきた作物(その他複数のルートあり)です。本州よりも先に稲作が始まっていた可能性があり、稲作の歴史は実は古いのです。

その沖縄県内でもさらに西。日本で最西端の市である石垣市(石垣島)のお米は、本州で販売される新米のなかでも最も早い時期に店頭に並びます。時期は6月半ばごろになります。実は……手前みそですが、毎年本州で最も早く売り出すのが、弊社小池精米店です。現地の生産者と直接やり取りして仕入れルートを確立し、皆さまにご案内しております。

おすすめのお米と「めしのとも」は……


石垣島で採れるお米は「ひとめぼれ」が多いのですが、おすすめは「ちゅらひかり」。そのきれいなネーミングもおすすめポイントの一つですが、ほくほくした食感とさっぱりした味わい、でもしっかり噛みしめて分かるうま味が特徴のお米です。めしの友は「島豚ごろごろ」。沖縄の油みそと豚肉をあえた逸品です。その濃厚な味がさっぱりとした「島米」を包み込み、より肉のおいしさを楽しむことができます。

なお残念ながら沖縄の水は硬水のため、炊飯には向いていません。冒頭にお伝えした「地元の水を使って下さい」という話は沖縄については例外です。ただ本州とは違ったちょっと硬めのお米を楽しめるのは沖縄ならではと言えましょう。沖縄の郷土料理である「ジューシー」のような炊きこみごはんであれば、「ちゅらひかり」の特徴であるほくほくした食感をより楽しむことができるのです。

おわりに


思い返すと、自分が思っていた以上に日本各地を巡っていることが分かりました。それぞれの土地にそれぞれの風習や文化があり、そしてその土地のお米があります。同じコシヒカリでも地域が違えば味も違います。その多様性を楽しめる懐の深さが日本文化です。皆さんにはぜひ今回ご紹介した産地に足を運んでいただき、「各地のお米の味の違い」を堪能していただければと思います。

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