はじめに
さまざまな歴史を持つ建物が残る台湾。取り壊しよりも、その活用を求める声のほうが多く、各地でリノベーションが進んでいます。古い物と新しいものが交錯する空間は、新しい価値を生み出し、人々に潤いを、街に活気をもたらしています。ぐっと過ごしやすくなった秋は、そうした歴史的建造物を探訪する好機。そこで、著名な建築士の林彥穎氏が台北、宜蘭、台東にあるリノベーション施設を前編・後編の2回にわたって案内します。いにしえの姿を残しながら、新風を吹き込む。リノベーションの肝はそのさじ加減に。
今回ご紹介するリノベーション施設は、中韻國際文化展演有限公司が手掛けた特徴ある6軒。建物の再生と運営にあたっては、歴史ある建物の真の姿を極力残すことと、そこで活かす新しいアイデアのバランスを重視。歴史的建造物の文化的価値を高めることに成功しています。その魅力を伝えてくれるのは、国内外のデザインアワードで数々の受賞歴がある建築士・林彥穎氏。淡江大学の建築科を卒業後、建築士としての初仕事は、国立台湾博物館でした。その際、古い窓のデザインに触れ、先人の知恵に深く魅了されたといいます。「古い建物は歴史の断片のようなもの。そしてまた、現代のあらゆる断片をも示しています。歴史的建造物を訪ね、時代の異なる断片を眺めて新旧の違いを知ることは、旅行中の最大の楽しみでもあります」。そう語る林彥穎氏の解説のもと、歴史ある6軒を前編と後編に分けて見ていきましょう。裕仁天皇を接待、蒋介石総統の官邸にもなった「草山行館」で、ゆかりの食を味わう。
まずは台北市から。四季折々の景観が美しい陽明山にある「草山行館」は、日本統治時代の1912年に台湾製糖会社の迎賓館として建てられた日本式建築。のちの昭和天皇をお迎えするため、建材には台湾で最も良質なヒノキが使われたそう。1949年には、蒋介石と夫人が住まう台湾初の総統官邸となりました。2003年からは一般開放され、本館はさまざまな展覧会場として活用。4つの別棟はアート・レジデンス・ビレッジに。2007年に火災で多くを焼失したものの、建設当時の設計書に基づき修復され、今に至ります。 『いくつかの洋館、日本式の扉や窓、石垣などの技術が融合する様は、良質な建材、明るい光、豊かな緑…と、隅々まで見どころがいっぱいです』。館内の飲食施設では、美齢夫人のお気に入りのスイーツが並ぶアフタヌーンティーが楽しめるほか、蒋介石総統の好物であった東坡肉やシェフの特製料理が味わえます。
◆草山行館 GRASS MOUNTAIN CHATEAU
住所:台湾台北市北投區湖底路89號
電話:+886-2-2862-2404
日本統治時代の樟脳加工場は「1915荷造り場」なる文化交流スペースに。
かつて、世界最大の樟脳の生産地であった台湾。現在の台湾博物館南門園区は、日本統治時代は東アジア最大規模の樟脳加工工場だった場所。1998年に国定古蹟となり、製品の包装が行われていたスペースは「1915荷造り場」と名付けられ、飲食もできる文化交流スペースとして活用されています。こちらでいただけるのは、地元の調味料と厳選食材を使った日本&イタリア料理。ハンバーグやパスタ、ステーキが人気です。また不定期に開催される読書会も好評。 『日本統治時代のレンガ造りの産業建築様式が見られます。保存状態が良く、樟脳を運ぶ台車の跡も残っているんですよ』。冷却水を貯め、消防用水として活用した貯水池“四百石貯水槽”の噴水のリズミカルな動きは、不思議と引き込まれ、癒されること請け合いです。◆1915荷造り場 1915 Nizukuriba
住所:台湾台北市中正區南昌路一段1號
電話:+886-2-2397-9078
白亜の殿堂「台中市役所」。館内のレストランやカフェで、その魅力を堪能。
「台中市役所」は、1911年に完成した日本統治時代の官庁建築の傑作。元々は「台中廳公共埤圳聯合會」の事務所として建てられ、1920年からは台中市役所として、国民党政府となってからは資料館などとして活用されてきました。1999年の地震で大きな損傷を受けたものの、2002年に歴史建造物に認定され、修復されることが決定。2016年からは、カフェやレストランでの飲食とアートが楽しめる文創園区として生まれ変わっています。『台中地区で最も早い時期に作られたコンクリート建築ですが、バロック様式の装飾は荘厳で精巧。ホール上部のドームも印象的で、昼夜を問わず、どの角度から見ても美しく映える建物です』。
◆台中市役所 Taichung Shiyakusho
住所:台湾台中市西區民權路95號
電話:+886-4-3507-9006