毎年8月に陸上自衛隊が行う実弾演習「総合火力演習(総火演)」。そこには例年、“0.1秒にかける男たち(と少数の女子)”が集まります。
人々を魅了するマズルフラッシュ
例年8月に行われる陸上自衛隊の実弾演習「総合火力演習(総火演)」には、“0.1秒にかける男たち(と少数の女子)”が集まります。そして今年2015年も、応募総数に対し29倍というプレミアチケットを手にした幸運なチャレンジャーたちが、ここ東富士演習場(静岡県)にやってきました。
彼ら、彼女らの最大の目的は、まずひとつに集約されます。それは「マズルフラッシュ」を写真におさめることです。銃や大砲は火薬を燃焼させて生じた高圧ガスを利用し、弾丸を高速で射出する武器ですが、砲口(マズル)からは弾丸と同時にガスも噴出し、強烈な閃光を発します。これを「マズルフラッシュ(発砲炎)」と呼びます。
マズルフラッシュは特に74式戦車、90式戦車、10式戦車の主力戦車3車種の主砲において強烈に生じ、巨大な火球となって現れます。マズルフラッシュは戦車を美しくかつ力強く引き立て、多くの人々を魅了します。熱心なファンらは、なんとかその瞬間の写真を自分のものにしようと、日本中から自慢のカメラを持ち総火演へとやってくるのです。
総火演当日未明。真夏とはいえ富士の麓は肌寒さを感じさせるなか、彼らは早くも現地に到着し並び始めます。総火演会場はゆるやかな斜面に着席して見学するという事情から、どうしても人の頭が障害物になってしまい、後列では撮影しにくいという問題を抱えます。彼らは会場へ一番乗りすることによって最前列確保をし、撮影に専念できる環境を狙います。
しかし、徹夜した甲斐あって念願の最前列に並ぶことができたとしても、最高にカッコイイ10式戦車のマズルフラッシュを撮影できると決まったわけではありません。というのも、砲口から生じた火球が大きくなって次第に薄くなり消えてゆくまでの時間は、およそ0.1秒。それを捉えることは、非常に難度が高いのです。
見えてからでは絶対間に合わないマズルフラッシュ
発砲の衝撃波を感じて、反射的にシャッターボタンを押しても無駄です(ついやってしまいますが)。たかだか秒速340mに過ぎない衝撃波が客席に到達するころには、とっくにマズルフラッシュは消えてしまっています。また、マズルフラッシュを見た瞬間にシャッターボタンを押しても間に合いません。視神経が感じとった光の情報が脳に伝達され、右手人差し指にボタンを押せという命令を筋肉へ伝達するまでに、0.2秒のタイムラグがあるからです。つまり発砲の0.1秒の瞬間を予測し、事前にシャッターボタンを押すという動作を行わないと、マズルフラッシュは絶対に撮影できません。
「そんなことが可能なのか?」と思われるかもしれませんが、そこが経験とテクニックの活かしどころです。そしてコツさえ掴めば、誰にでも撮影できるチャンスはあります。
0.1秒を捉えるコツは「耳」
まず発砲の瞬間にシャッターを切るのは不可能に近いので、高速連写が可能なカメラが必要となります。
連写を活用し、ずっと撮影しっぱなしにしてしまえば、0.1秒のマズルフラッシュを捉えられる確率は、秒間3連写のカメラでは33%、秒間5連写ならば50%、秒間10連写以上では100%となります。
とはいえ、記録メディアの容量やカメラのバッファが有限である以上、連写しっぱなしは不可能なので「発射の少し前」から連写をし始めます。発砲のタイミングは場内のアナウンスで分かります。例えば90式戦車の場合、
「6の台左戦車 徹甲 小隊集中行進射 撃て! 小隊左へ! 5の台装甲車 弾種変更対榴 小隊集中 止まれ 撃て! 前へ!」
という号令が掛けられるので、「撃て」と言う前の「小隊集中行進射」ないし「止まれ」の時点で連写を開始すれば、理論上は先述の確率で成功するはずです。
しかしかなり難しいのは確かなので、過去の総火演の様子をYoutube等で鑑賞し、予習しておくと良いでしょう。また、巨大な望遠レンズを持つ年季がはいったおじさんが近くにいた場合はチャンスです。おじさんが連写を始めたら、自分もそれに倣いましょう。
携帯のカメラの場合はいっそ動画で撮影し、マズルフラッシュのコマを切り取ってしまったほうが良いかもしれません。
マズルフラッシュの撮影は、やり方さえ知っていれば誰でも可能です。皆さんもカッコイイ戦車のシーンを思い出に残すために、ぜひチャレンジしてみてください。