期待の新型ヴェゼルを公道で試すチャンスを得た。試乗したのは売れ筋のe:HEVのZとその4WD、そしてリーズナブルな価格が魅力のガソリン車、G(FF)である。受注好調の新型ヴェゼル、その実力は?
TEXT &PHOTO◎世良耕太(SERA Kota)PHOTO◎Motor-Fan
実物を見ると「なんだよ、いいじゃないかよ」となる
「なんだよ、いいじゃないかよ」というのが、新型ホンダ・ヴェゼルの“実物”を見たときの第一印象だった。2月にワールドプレミアされた際、ディスプレイ上で新型の姿を見たときは、当時SNS界隈で騒がれたように、既存の国産SUVの前と後ろを足したような、没個性的なルックスに感じられた。「ホンダよ、一体どうしたんだ?」と。
先代と新型でデザインの手法が異なることもネガティブな方向に作用してしまったようだ。先代ヴェゼルは、当時のホンダ車の多くがそうだったように、キャラクターラインが明確で、二次元でも表現したいことをおおよそ理解することができた。新型ヴェゼルはホンダの新しいデザインの方向性を示しており、三次元(立体)で確認して初めて、デザインの意図を汲み取ることができる。
「(新型ヴェゼルは)クリーンでシンプルなデザインとしています。しかし、ただシンプルだと素っ気なくなってしまうので、シーンごとにいろんな表情を感じてもらえるような面のコントロールをしています。アグレッシブなデザインにすると存在感は増しますが、生活のシーンのなかでクルマが浮いてしまうきらいがある。新型ヴェゼルはそういう方向ではなく、生活のなかでより身近に感じていただけるパートナーのような存在にしたい。そういう思いでデザインしました」
二次元で見るより、実物は上品で、上質だ。スタイリッシュでもある。写真では大きく見えたし、実物も存在感はあるが、実際は先代と同等で、4330mmの全長に変化はない。車両サイズで分類すればヴェゼルはBセグメントに属する。しかし実物はひとクラス上のクルマに見える。その印象は、乗り込んでも変わらない。
先代ヴェゼルの後席は2段階のリクライニング機構がついていた。角度は25度と27度だ。ユーザー調査をしてみると、一度角度を決めたら動かさないユーザーが多いことがわかった。そこで、新型ヴェゼルでは2段階リクライニングをやめ、27度の固定にした。シートバックを寝かせると荷室スペースが犠牲になるが、「載せたい物はしっかり載る配慮はした」という。後席の着座位置は先代比で30mm後ろにずらしたことにより、膝まわりの余裕を生み出している。18mm低くしたのは、低くなった全高に応じてヘッドクリアランスを確保するためだ。
「長時間乗っても快適に過ごしていただける空間を作りたい」という思いから、新型ヴェゼルでは前席のパッケージングも変えた。SUVはアップライトに座らせることが多いが、新型ヴェゼルでは乗用車ライクな座らせ方になっている。実際に腰を下ろしてみところ、シートの出来の良さに感心した。腰回りの押さえがしっかりしているため、体の軸がぶれにくい。だから、肩や腕は自由に動く。(長時間は運転していないので断言できないが)疲れにくく、リラックスした状態で過ごせる印象だ。
気になったのは視界だ。立ったAピラーが手前にあって左右の視認性が高いのはとてもいい。ワイパーが視界の邪魔をしないのも好印象だ。いっぽうで、視界に入り込んだサンバイザーがわずらわしく感じる。人一倍座高が高い筆者に固有の問題かと思いきや、意見を求めてみるとそうでもないらしい。開発エンジニアは「そこは意志が入っています」と答えた。
「新型ヴェゼルのコンセプトを一番表現できているのは、ガラスルーフを装備したPLaYです。ガラスルーフを装備しても空を感じられなければ、価値はありません。運転姿勢をとったときの人間の視野角は(上下方向に)50度ほどです。その50度の範囲に空が見える位置にガラスルーフをもってきました」
実物の新型ヴェゼルは上品で上質で、ひとクラス上に感じると前述したが、それは乗り味についてもいえる。ステアリングの操作(軽すぎず、しっかりとした手応えがある)に対するクルマの動きはおだやかだ。といって、動きが鈍いわけではない。イメージしたとおりに反応し、動いてくれる。クルマを操る行為が気持ち良く感じられるクルマだ。では、走りに振ったキャラクターかというとそんなことはなく、ザラザラした路面であっても、うねりであっても、突起であっても穏やかにいなして乗員に不安や不快感を抱かせない。後席は空間的な心地良さだけでなく、乗心地も好印象だった。
AWDモデル、ノンe:HEVのガソリンモデルは?
AWDはフロントのエンジン、もしくはハイブリッドシステムの動力を分配し、プロペラシャフトを通じて機械的にリヤに伝える仕組みだ。発進時からしっかり後輪にトルクを伝えるため、2WD(FF)仕様と乗り比べると発進後すぐ、後輪でも路面に駆動力を伝えているからこその安心感を味わえる。揺れの大きな電車のなかで片足だけでバランスをとるのと、両足でしっかり踏ん張るのでは安定感と安心感が違う。2WDとAWDはそれくらい決定的な差がある。
バッテリー残量が少なくなったり、大きな力を要求したりした際はエンジンが始動して発電用モーターを動かし、バッテリーからの電力を合わせて要求に合致した力を出す。エンジンがかかっていない状態からかかった状態の変動感は「抑えた」との説明だが、最新の国産ハイブリッド車と比べてもエンジンがかかった際のがっかり感は強く、もう少し存在感を抑えてほしいと感じた。ただ、それが新ヴェゼルの魅力をすべて台無しにしてしまうほどではない。欲を言えば、というレベルで、欲を言いたくなるくらい新型ヴェゼルはいい出来である。
ホンダ・ヴェゼル e:HEV Z(FF)
ホンダ・ヴェゼル e:HEV Z(FF)
全長×全幅×全高:4330mm×1790mm×1590mm
ホイールベース:2610mm
車重:1380kg
サスペンション:Fマクファーソン式 Rトーションビーム式
駆動方式:FF
エンジン形式:直列4気筒DOHC+e:HEV(i-MMD)
エンジン型式:LEC
排気量:1496cc
ボア×ストローク:73.0mm×89.4mm
圧縮比:13.5
最高出力:98ps(72kW)/5600-6400rpm
最大トルク:127Nm/4500-5000rpm
過給機:×
燃料供給:PFI
使用燃料:レギュラー
フロントモーター:H5型交流同期モーター
最高出力:131ps(96kW)/4000-8000rpm
最大トルク:253Nm/0-3500rpm
バッテリー:リチウムイオン電池(60セル)
燃料タンク容量:40ℓ
WLTCモード燃費:24.8km/ℓ
市街地モード24.5km/ℓ
郊外モード26.7km/ℓ
高速道路モード23.8km/ℓ
車両価格○295万9000円
ホンダ・ヴェゼル e:HEV Z(4WD)
ホンダ・ヴェゼル e:HEV Z(4WD)
全長×全幅×全高:4330mm×1790mm×1590mm
ホイールベース:2610mm
車重:1450kg
サスペンション:Fマクファーソン式 Rド・ディオン式
駆動方式:4WD
エンジン形式:直列4気筒DOHC+e:HEV(i-MMD)
エンジン型式:LEC
排気量:1496cc
ボア×ストローク:73.0mm×89.4mm
圧縮比:13.5
最高出力:98ps(72kW)/5600-6400rpm
最大トルク:127Nm/4500-5000rpm
過給機:×
燃料供給:PFI
使用燃料:レギュラー
フロントモーター:H5型交流同期モーター
最高出力:131ps(96kW)/4000-8000rpm
最大トルク:253Nm/0-3500rpm
バッテリー:リチウムイオン電池(60セル)
燃料タンク容量:40ℓ
WLTCモード燃費:22.0km/ℓ
市街地モード21.8km/ℓ
郊外モード23.7km/ℓ
高速道路モード21.1km/ℓ
車両価格○311万8500円
ホンダ・ヴェゼル G(FF)
ホンダ・ヴェゼル G(FF)
全長×全幅×全高:4330mm×1790mm×1580mm
ホイールベース:2610mm
車重:1250kg
サスペンション:Fマクファーソン式 Rトーションビーム式
駆動方式:FF
エンジン形式:直列4気筒DOHC
エンジン型式:L15Z
排気量:1496cc
ボア×ストローク:73.0mm×89.4mm
圧縮比:10.6
最高出力:118ps(87kW)/6600rpm
最大トルク:142Nm/4300rpm
過給機:×
燃料供給:PFI
使用燃料:レギュラー
燃料タンク容量:40ℓ
WLTCモード燃費:17.0km/ℓ
市街地モード21.8km/ℓ
郊外モード12.8km/ℓ
高速道路モード17.7km/ℓ
車両価格○311万8500円