MotoGPクラスにおいて、スズキのマシンコンセプトは「迷走」を重ねて来た。しかし2006年は明確なポリシーの新設計エンジンで、復調を強く印象付けた。
TEXT:松田勇治(MATSUDA Yuji)
*本記事は2007年1月に執筆したものです
2002年シーズン、最もコンパクトに仕上がっていたマシンがスズキGSV-Rだ。開発コンセプトは明瞭で、「2000年にケニー・ロバーツ・ジュニアがチャンピオンに輝いたGP500マシン「RGV-γ」のフレームに、4サイクル990ccエンジンを搭載したい」だ。そのため、Vバンク角60度という狭角の180度クランクエンジンを開発したが、いざ幕を開けてみると、「出力を含め2サイクル500ccエンジンとはすべてが違い、コンセプト自体を見直さなければならなかった(スズキ二輪大型第五課・内藤勝博氏:取材当時)」。
翌2003年シーズン以降はVバンクを65度に変更。新型フレームや電子制御技術を積極的に投入し続け、「MotoGPマシン」のあり方を探ってきた。
2006年シーズン用エンジンは、「2007年からの800cc化も見越して(スズキ二輪大型第五課・荒瀬国男氏:取材当時)」低重心・コンパクト化をテーマに、バンク角を75度に変更。さらに吸排気バルブ駆動にニューマチック・スプリングを採用した。「狙いは高回転化です。動弁系が大幅に軽量化でき、リフト量も高く取れ、フリクションロスも減らせるでしょう(荒瀬氏)」。レブリミットは1万6500rpm程度とのこと。
クランク軸位相は2004年シーズン途中から360度となった。右後シリンダーを1、右前を2、左後を3、左前を4とした場合、1-2-3-4の点火間隔は、おそらく360度-435度-0度-75度ではないかと推測できる。
「65度や75度のV4で360度クランクですから、ウチのエンジンはもともと不等間隔点火です。直4勢が不等間隔点火化してきたのも、トラクションを稼ぐ、バンク中のスロットルによるスライドコントロール性の向上といったメリットに気付いたからでしょう(荒瀬氏)」とのこと。
コツコツと積み重ねて来た開発が実を結び、2006年シーズンは予選で悪くても2列目までに収まり、アメリカGPでは厳しい暑さによるトラブルさえなければ優勝も見えるなど、復調を強く印象付けるシーズンとなった。