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【社外製マフラーとカワサキ Ninja ZX-25Rの相性】SP忠男のパワーボックス|ZX-25R連載3/3


今どきのバイクは、マフラーを替えたくらいじゃエンジン特性は変わらない。世の中にはそう感じているライダーがいるらしい。とはいえ、SP忠男のパワーボックスを体感したら、ノーマルとのキャラクターの違いに誰もが驚くはずだ。




REPORT●中村友彦(NAKAMURA Tomohiko)


PHOTO●富樫秀明(TOGASHI Hideaki)


取材協力●SP忠男 ☎03-3845-2009 https://www.sptadao.co.jp/

■サブコンチューン+マフラー交換の効能

他のアフターマーケットメーカーが手がけるZX-25R用マフラーは、全長を長めに設定している製品が多いものの、SP忠男のパワーボックスはノーマルと同等。

ラピッドバイクの輸入代理店を務めるJAMの協力を得て、サブコンチューンを体感した僕は、試乗後にふと思った。“今回はスロットル開度と燃料噴射マップの変更だったけれど、この状態でマフラーを交換したら、Ninja ZX-25Rはさらに面白くなるんじゃないか”と。そしてその話をJAMの成毛浄行さんにしたところ、“だったら、当店と協力関係にあるSP忠男さんに相談するのがいいと思いますよ。今現在のSP忠男さんのデモ車は、オリジナルマフラーのパワーボックス+ラピッドバイクEVO仕様が味わえる状態ですから”という答えが返って来た。

ZX-25R用パワーボックスの素材はオールステンレスで、重量はノーマルの約半分。価格は15万2000円(税別)。今後はさらに軽量なチタン製を開発する予定もあるそうだ。

もちろんその話を聞いた僕は、即座にSP忠男に打診。嬉しいことに、パワーボックス+ラピッドバイクEVOだけではなく、パワーボックス+ノーマル開度/マップ、フルノーマルの3種類を試乗させてもらえることになった。

■“回してナンボ”というイメージが消失

排気口の手前に巨大な膨張室を備えるZX-25Rの純正マフラーは溶接による一体構造で、重量は約9kg。言うまでもなく、各パイプのサイズや集合部/バイパスの位置などは、パワーボックスとは完全な別物である。

第1/2回目に記したように、日本仕様のZX-25Rは、厳しい排気ガス・騒音規制に対応するため、低中回転域の空燃比が理想値より薄目で、12000rpm以上ではスロットルバルブが75~80%しか開かない設定になっている。その事実を把握していた僕は、正直言ってパワーボックス+ノーマル開度/マップ、いわゆるマフラー交換のみの状態にあまり期待はしていなかった。でも今は、SP忠男の開発力を侮っていたことを心から反省している。

SP忠男のZX-25Rで、僕が最初に感心したのは常用回転域、具体的には3000~6000rpm前後のトルクフィーリングだ。ノーマルの場合、この領域はただ回っているだけという印象なのだが、パワーボックス装着車はむっちりとしたトルクがノッて来るし、しかもその際の排気音が重厚にして爽快なものだから、高回転域を使いづらい市街地やタイトな峠道でも、ストレスはほとんど皆無。




サクッと書いてしまったものの、それってスゴいことなのだ。僕を含めた世間のライダーの多くは、250cc並列4気筒というエンジンに対して、“回してナンボ”というイメージを抱いているはずだが、パワーボックスはその概念を否定するかのような特性を備えているのだから。逆に言うならパワーボックス装着車に乗っていると、“回さなきゃ”という強迫観念が薄れ、状況に応じてライディングを楽しもうという気分になってくるのである。

隣り合うエキパイを連結するバイパスパイプは、さまざまな位置でテストを実施。集合方式は4into1を選択。

さて、第一印象の話が長くなったけれど、6000rpm以上の領域でも、パワーボックス装着車はノーマルとは一線を画する資質を披露してくれた。まず3000~6000rpm前後のトルクのノリが良好だからか、それ以降も回転上昇が早くなっているし、10000rpmからは充填効率の急速な高まりを感じるレーシーな排気音、クゥアーッ!という叫び声のようなエキゾーストノートが堪能できる。




もっともフィーリングが劇的に変化しても、パワーボックス装着車の馬力と最高速は、おそらく、劇的には向上していないだろう。とはいえ、第1/2回目で紹介したJAMとは異なるアプローチで、ZX-25Rの潜在能力を引き出したSP忠男の手腕に、僕は大いに感心。エンジンの入口に加えて、出口の重要性を認識することとなった。

■ZX-4Rと言われたら、あっさり信じそう

SP忠男のZX-25Rが搭載するラピッドバイクEVOは、パワーボックスに合わせたセッティングが行われている。同店でのキット価格は10万円前後になる予定。

続いては入口と出口の両方に手を入れたパワーボックス+ラピッドバイクEVOの話で、これはもう往年のジャイアント馬場&ジャンボ鶴田、ドリー・ファンクJr&テリー・ファンクを彷彿とさせる、最強タッグという印象である。端的に言うなら、全域でパワフルかつ速い。現実的にはあり得ない話だけれど、例えば僕がカワサキ本社に呼ばれてこの仕様に乗って、“これが開発中のZX-4Rです”と言われたら、あっさり信じてしまいそうだ。




中でも僕が感心したのは、出足のトルクの太さと高回転域の力強さ。もっとも低中回転域のトルクが上乗せされた結果として、パワーボックス+ノーマル開度/マップ以上に、エンジンを回す必然性がなくなっているのだけれど、見通しのいい快走路で思い切って右手に力を込めると、怒涛と言いたくなるレベルの加速が味わえるのだ。

ただし、パワーボックス+ノーマル開度/マップ、ノーマルマフラー+ラピッドバイクEVOと比べると、パワーボックス+ラピッドバイクEVOはややアグレッシブなキャラクターになっているから、乗り手によっては刺激が強すぎる……と感じるかもしれない。もっともその点に関しては、スロットル開度とインジェクションマップの調整でどうとでもなるので(ラピッドバイクEVOを使用すれば、パワフルでありながら、まったり穏やかな特性も構築できる)、現状のキャラクターに異論を述べることにあまり意味はないだろう。




いずれにしても、パワーボックス、そしてパワーボックス+ラピッドバイクEVOの効果は、僕にとっては予想以上だった。過去に当サイトに掲載した1000kmガチ試乗に記したように、僕はノーマルのZX-25Rの環境適応力にそこはかとない不満を抱いていたのだが、SP忠男とJAMの手が入った車両なら、スポーツライディングを楽しみつつ、長距離を飽きることなく走り続けられそうだ。

■右肩上がりのトルクカーブを追求

取材に対応してくれた大泉善稔さんは、アフターマーケットパーツ業界の重鎮。1980年代初頭にSP忠男に入社して以来、数多くのマフラー開発に携わって来た。

ここからはSP忠男の大泉善稔さんに聞く、ZX-25R用パワーボックスに関する話。まずは大前提の質問をすると、このマフラーはどんなコンセプトで開発したのだろうか。




「日本人が日本の公道を走って、気持ちイー!と思えることです(笑)。もっともそれはZX-25R用に限った話ではなく、当社の全製品に共通ですけどね」




逆に言うなら、ノーマルはあまり気持ちよくなかった……ということだろうか。




「いや、初めて乗ったときは素晴らしいエンジンフィーリングだと思いましたよ。ただしある程度の距離を乗り込んでみると、日常的に使用する4000~6000rpm前後がモッサリしていて、いまひとつ面白くないなと。もっとも高回転域をキープできる状況なら、そのあたりは特に気にならないのですが、ゴー・ストップと渋滞が多く、速度レンジが低い日本の道路事情を考えれば、改善の余地はある。結果的に仕上がった製品は、全域でパワーが向上していますが、開発当初は4000~6000rpm前後をいかに楽しめるかが、重要なテーマになりました」

限られたスペースの中で管長を稼ぐため、テールパイプはS字形状。サイレンサーエンドには、MotoGPレーサーを思わせる六角穴のパンチングメタルを設置。

そう語る大泉さんではあるけれど、管長がノーマルと同様に短く、集合方式が4-1のZX-25R用パワーボックスは、どちらかと言うと高回転指向のように思える。低中回転域のトルクを重視するなら、管長は長め、集合方式は4-2-1のほうがよかったのではないだろうか。




「構造については、いろいろな長さと方式をテストしました。長めの管長は確かに、低中回転域のトルクが出しやすいですが、トルクカーブが右肩下がりになってしまって、ライダーの右手とエンジンの理想的な連動感が得られないんですよ。それで右肩上がりのトルクカーブを求めて、徐々に管長を短くした結果、現状の長さになったわけです。集合方式は、4-2-1が必ずしも低中回転向きというわけではありません。4-1と比べるとフラットトルクは得やすいですが、並列4気筒ならではの爽快感を考えると、ZX-25Rでは4-1のほうが好感触でした」

店内には多種多様な機種に対応するマフラーを展示。なおSP忠男浅草店は、タイヤ/オイル交換を筆頭とするメンテナンス、車検のために訪れるお客さんも非常に多い。

取材者としては準備不足なのだが、今回の試乗後に同店のブログでZX-25R用パワーボックスの開発経緯(https://sptadao.com/chu/category/ninja-zx-25r/)を読んだ僕は、大泉さんを筆頭とするSP忠男のスタッフの真摯な姿勢を改めて認識。そして同時に、これだけキメ細かな開発を行っているからこそ、常用域で気持ちイー!特性が作れるのか……と感じたのだった。

日本のバイクシーンを語るうえで欠かせないSP忠男は、60~70年代にトーハツ/ヤマハのワークスライダーとして活躍した鈴木忠男さんが、1976年に創設したパーツメーカー/メンテナンス&カスタムショップ。

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