2005年に2GR-FSE(3.5ℓ-V6)に搭載されたD-4Sは、世界で初めてポート噴射(PFI)と筒内噴射(DI)を併用したシステムである。
TEXT:牧野茂雄(MAKINO Shigeo)
直噴エンジンはその性質上、良好な混合気生成のため気流の渦をつくる必要がある。トヨタのストイキ直噴・D-4は、吸気ポートにスワールコントロールバルブ:SCVを設け、横渦を発生させることでこれに対処していたが、いっぽうでバルブが圧力損失を招き、直噴のメリットを削ぐ結果にもつながっていた。
そのネガを打ち消すため、トヨタはSCVを廃止することで空気流入量を増大。燃焼性の悪化に対してはPFIを追加するD-4S(Direct injection 4 stroke gasoline engine Superior version)によって全負荷性能の向上を図った。渦流の生成は、DI噴孔に2カ所の扇状の「縦ダブルスリット」を設けることで、最適な噴霧を行なう。これらにより、4.5ℓ-V8クラスの動力性能と3ℓ以上の燃費を可能としている。
▶︎ 膨張〜吸入行程
吸気バルブが開く前に、ポート噴射用インジェクターから吸気ポートへ燃料噴射。
▶︎ 吸入行程
吸気バルブが開き、均質な混合気が燃焼室へ吸入される。
▶︎ 圧縮行程
圧縮行程後半に、筒内噴射用インジェクターから燃焼室へ燃料噴射。
▶︎ 膨張行程
スパークプラグ周辺の成層化した混合気に点火される。
エアフローメーターの流入量から、中低回転域ではPFIとDIの併用、高回転域ではDIのみと切り替えるのが基本動作。また、エミッション低減にも大きく寄与する。
DIの冷間時の触媒暖機性は、点火時期を限界まで遅角させられることからPFIに比べて優勢だが、半面、始動時のHC排出量はPFIの低さに及ばない。そこでD-4Sは冷間始動直後、膨張〜吸入行程にPFI噴射、圧縮行程後半にDI噴射を行なうことで成層燃焼とし、点火時期を遅角化。触媒暖機性とHC低減の両立を可能とした。これにより、北米SULEVレベル以下を実現している。