BMWバルブトロニックが世界を瞠目させた頃、日本勢も次々と連続可変バルブリフト機構を世に送り出した。プレイヤーのひとり、日産のとった手段はリンクによる連続可変の実現である。
日産のVVELは、リンクを多用した回転カムフォロア移動方式であり、元をたどればアツギユニシアが'90年代後半から開発を行なっていた機構である。2001年のSAEでは同社が日産と共同で論文発表している。ダイレクト駆動のDOHC4弁機構でカムシャフトの位置を変えることなく、エンジンのヘッドに組み込むことができるあたりは、サプライヤーならではの配慮と言える。ただし、これは同時に揺動カムの駆動に複雑なリンク機構を必要とする原因でもある。
各シリンダー間の構成部品はすべて共通。VVELのシャフトをシリンダーヘッドに取り付けるラダーカムブラケット以外はすべて共通化できる。この点が大きなメリットである。そしてDLCを使っている。「慴動部分の信頼性確保が開発のキーポイントであり、すべての慴動部において動的な挙動を考慮した詳細な面圧、慴動速度、油膜厚さ、油量配分のシミュレーション解析および実機評価を徹底した」とは日産の弁。ちなみに、日産はDLCという技術を持っていることでバルブ駆動のローラーフォロア化には乗り遅れた。トヨタはローラーフォロア化するに当たり、可変動弁機構を組み込めるヘッド構造に切り替えておいて、今回、これを搭載してきた。世界の流れはローラーフォロア化にあるが、日産はどのような決断を下すのだろうか。
VVELの特徴は、回転カムに偏心カムを使っている点にある。押し/引きともに偏心シャフトで行なうためリターンスプリングがない(バルブ側にはある)。この点について日産は「戻しばねの分の駆動フリクションがなくなるため損失が少なく、小型モーターの使用が可能になったことで消費電力も少ない(つまり燃費に効く)」ことをメリットに挙げている。たしかに、ベースのカム山を急峻な形状にしてマイナスの加速度を大きく取れるため、低開角でのバルブリフト量を大きく取ることができる。部分負荷時のポンプ損失低減効果は、わずかながら大きくなる。
ただし、これほどリンクを多用すると剛性の確保が難しくなる。リンクのねじれによる摩耗への対策も大変だったと思われるし、高回転には不向きのようにも思える。BMWのような非対称リフトへの発展性にも疑問が残る。ただし、日産は「回転限界は現状で8000rpm以上」「揺動カムの駆動を強制駆動にしているため高回転化対応素質が高い」「1リンクによる2バルブ駆動で部品点数も抑えられる」としている。アイドリング(微小リフト)から全開(最大リフト)へは230msec、その逆は180msと、レスポンスは良好だ。「中間加速時で通常のスロットルエンジン比で30%向上」とのことだ。
通常使う最小リフトは0.721mm。「選択組み付けには頼らず、調整ネジ式構造による生産ライン内での自動調節で気筒間のリフトばらつきをなくしている」という。また、エンジンのパッケージングにおいては「車両運動性能を考慮し、BMWと異なるRr側へのアクチュエーター搭載による車両重心近傍への配置」を行なった。