スズキのフラッグシップモデル「隼(Hayabusa/ハヤブサ)」がフルモデルチェンジされ、2021年2月末頃より欧州、北米、日本などの全世界で順次販売を開始。ここでは新型の隼を徹底解剖。高性能エンジンやシャシーに組み合わせられた、ビギナーや回帰組も安心の電子制御システムの数々を徹底レポートしよう。
REPORT●北 秀昭(KITA Hideaki)
新型(3代目)のコンセプトは、Ultimate Sport(究極のスポーツバイク)
高度なスズキ インテリジェント ライド システム(S.I.R.S)を採用
スズキドライブモードセレクターアルファ(SDMS-α) モード数:プリセット3、ユーザーセット3
SDMS-αとは、各自の好み、経験、技量に合わせ、
・パワーモードセレクター
・モーショントラックトラクションコントロール
・アンチリフトコントロール
・エンジンブレーキコントロール
・双方向クイックシフトシステム
上記のグループとして、あらかじめセットされた、下記の設定パターン(プリセット)
1:アクティブ
2:ベーシック
3:コンフォート
加えてユーザーが任意で設定できる、下記のパターン(ユーザーセット)
・U1
・U2
・U3
から設定できるシステム。
ライダーは左側のハンドルバーのスイッチを使用して、任意にモードと設定を変更。設定は、大型アナログスピードメーターとタコメーターの間のインストルメントクラスターの中央にある、TFTLCDパネルに表示される。
エンジン出力特性の制御
パワーモード セレクターは3つの異なる出力特性モードから選択可能。 モード1は鋭いスロットルレスポンスを提供し、モード2はソフトなスロットルレスポンスと直線的な出力特性を提供。モード3はソフトなスロットルレスポンスと、最大出力が減少したより緩やかな出力特性を提供。
アンチリフトコントロールシステム 概要:加速時にフロントホイールのウイリーを防ぎ、安定した加速をサポート モード:10(解除可能)
加速時に前輪が地面から浮き上がるのを防ぐことで、安全を確保し、ライダーに安心感を与えてくれるシステム。 ライダーは10のモードから選択、もしくはシステムを解除(オフ)にすることができる。
アンチリフトコントロールシステムは、設定が高いほど制御量が高くなるのが特徴。たとえばモード10の場合、2名乗車でスロットルを大きく開けても、前輪を持ち上げることはほぼ不可能だ。
エンジン回転数(クランクポジションセンサーからのデータを使用して計算)センサーの監視に加えて、隼のデュアルコア32ビットECMが、スロットル位置、ギヤ位置のデータを処理。電子スロットル制御の操作等に応じて、供給する適切な出力量を決定してくれる。
ローンチコントロールシステム 概要:発進時にフロントホイールがリフトするのを防ぎ、最適な発進をサポートする モード数:3(解除可能)
スタート時の効率的な発進と加速を可能にするシステム。 隼のローンチコントロールシステムには、ライダーが自分の経験や自信のレベルに合わせて選択できる、3つのモードを装備。 モード1は起動時のエンジン速度を4,000rpmに制限し、モード2は6,000 rpmで動作。モード3は最速モードが8,000rpmで動作するしくみ。
エンジン減速特性の制御
3つのモードと解除(オフ)設定を備えたこのシステムは、ライダーの好みに合わせてエンジンブレーキの有効強度を制御。設定値が高いほどエンジンブレーキの効果を抑え、スロットルグリップを離した後や、シフトダウンした後の減速時にリアタイヤのスライドやスキップを抑えることができるため、ライダーはよりスムーズで制御しやすい動作を実現。
エンジン回転数の監視(クランク位置センサーからのデータを使用して計算)に加え、ECMはアクセル位置、ギア位置、クラッチスイッチ、前輪および後輪速度センサーからのデータ入力を処理して、電子スロットル、インジェクター、イグニッションコイルに供給する適切な出力量を決定するしくみ。
一定速度でのエンジン制御
ライダーは設定した速度以下の範囲で自由に加速。またスロットルを戻すことで、通常通り減速することができる。このシステムは、スロットルを素早く1回ひねるだけで、一時的にオーバーライドがOK。設定された制限を超えて、加速して他の車両を追い越すことが可能だ。 スロットルグリップを放した後、ボタンを押すだけで完全に無効にすることができる。
クルーズコントロールは、高速道路を一定速度で走行する際の便利な機能。ライダーがスロットルを操作せず、設定速度を維持できるようにすることで、長時間走行時の疲労を軽減。
設定はLCDディスプレイに表示され、速度は選択スイッチ(左側のハンドルバー)を使用して簡単に調整可能。クルーズコントロールは、2速以上、2,000〜7,000rpmで走行しながら、31km/h〜200km/hに設定できる。
エンジン操作の制御
クラッチやスロットルを操作することなく、ライダーがより素早く、簡単にシフトアップ&シフトダウンできるシステム。2つのモードが提供され、モード1はレーシングスタイルの応答を再現するためにより迅速に反応。モード2はより軽いタッチを可能にしている。
スムーズなシフトアクションを確保するため、ECMは加速または安定した速度を維持する時に点火を遅らせ、減速する時にスロットルバルブをオープン。これにより、シフトダウン時にスロットルが自動的にブリップ(スロットルが一瞬あおられる)。新しいアシスト&スリッパークラッチのパフォーマンスにより、 スムーズなシフトチェンジを実現。
スターターボタンを1回押すだけで、簡単かつスムーズにエンジン始動OK。トランスミッションがニュートラルの時にクラッチレバーを引く必要はなく、エンジンが始動するとスターターモーターが自動的に切断される。
スタンディングスタートからの発進時や低速走行時のエンジン速度をシームレスに高め、エンジンのエンストを抑制。ストップ&ゴーにおけるトラフィックでの制御と操作を向上。
ブレーキの制御
フロントブレーキレバーを操作するだけで、フロントブレーキとリアブレーキの両方にブレーキ力が掛かるシステム。これにより、より確実で安定したブレーキングを獲得。
下り坂でのブレーキ時の後輪の浮き上がりを防止するシステム。ABSユニットはIMUからの入力を使用して、バイクの姿勢を監視。ライダーがブレーキをかけると、ABSの油圧ユニットがブレーキ圧を制御して、傾斜角度に一致する最適な設定を提供。
現在のスロープの角度に合わせ、リアリフトコントロールの量を継続的に調整。より安定したブレーキングを実現しているのがポイントだ。
このシステムをオンにすると、バイクの姿勢を監視するIMUが起動。バイクが上り坂で停止し、ライダーがフロントブレーキレバーやリアブレーキペダルを放しても、30秒間、リアブレーキを自動的に作動させる。
これによりバイクが後方に進む心配がなく、スムーズにスタート可能。 ヒルホールドコントロールは、フロントブレーキレバーを素早く2回握るか、エンジンを始動した時に解除可能。
システムの稼働を示すメーターの「H」マークは、作動している時に点灯し、システムが作動していない時は点滅するしくみ。
スズキのモーターサイクル初となるこの機能は、55km/h以上の速度で急ブレーキをかけた場合、前後のウインカーをすばやく点滅させて後続車両に警告。
サポート技術
上記の高度な機能の実現に役立つサポート技術の1つは、ボッシュが提供する新しい6軸IMU。IMUは、加速度計とジャイロスコープを1つのコンパクトなパッケージに組み合わせ、角速度と加速度を測定。ピッチ、ロール、ヨーの動きを常に監視する。
新しいモーショントラックトラクションコントロール、アンチリフトコントロール、アクティブスピードリミッター、クルーズコントロール、モーショントラックブレーキ、スロープディペンデントコントロール、ヒルホールドコントロールシステムは、IMUが提供するデータを採用。
隼には様々なセンサーとマイクロコントローラーが相互に通信できるようにする、堅牢なCANバスを採用。SDMS-α、モーショントラックトラクションコントロールシステム、アンチリフトコントロールシステム、クルーズコントロールシステム、アクティブスピードリミッター、スロープディペンデントコントロール、ヒルホールドコントロールシステムなどの高度なシステムが、これに含まれている。
高性能な「電子制御スロットルシステム」を新採用
新型の隼には、新たに電子制御スロットルシステムを採用。新しいスロットルシステムの導入に伴い、スロットルボディの長さが44mmから43mmに変更。
また、インテークパイプ全体の長さ(インテークパイプ、スロットルボディ、ファンネルを含む)を12mm延長。これにより、低速域から中速域でより大きな出力を生み出すことに貢献している。