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内燃機関超基礎講座 | レクサスLSの3.5ℓターボ[V35A-FTS]「V6なのにロングストローク」とは? 


レクサスLSが載せている新しいターボエンジン・V35A-FTS。V8代替のダウンサイジングユニットとして開発された本機には、果たしてどのような特徴があるのだろうか。

レクサスLSの「500」グレードには、新エンジンが搭載されている。V35A-FTSという呼称は、トヨタのパワートレイン戦略における新しい命名法に則ったもので、先に登場したカムリのA25A-FXSに続く第二弾。容易に想像がつくように、数字は排気量を示している模様。V型の、3.5ℓで(次の「A」は何を示すのだろう……バージョンだろうか)、ハイフンを挟んだサフィックスは従来どおりのよう。

ちなみにサフィックスの一覧は下のとおり。




 A:バルブマチック搭載


 B:E85燃料対応(2000年以前はサイドドラフト式のSUキャブ2連装)


 C:カリフォルニア州規制対応キャブ


 D:ダウンドラフト式キャブ2連装


 E:燃料噴射(いわゆるEFI)


 F:バルブ挟み角の小さな省燃費型DOHCヘッド


 G:バルブ挟み角の大きな高出力型DOHCヘッド


 H:高容積比設計


 I:シングルポイント式燃料噴射


 J:(かつてはオートチョーク装着車)(排ガス処理の某装置装着車)


 K:“アトキンソンサイクル”採用・除HEVエンジン


 L:縦置き用


 M:フィリピン市場用


 N:CNG仕様


 O:該当なし


 P:LPG仕様


 Q:該当なし


 R:低オクタン価燃料のための低容積比設計


 S:D-4型直噴仕様(かつてはスワールポート搭載車)


 T:ターボチャージャー過給仕様


 U:三元触媒搭載車


 V:D-4D型コモンレール仕様、あるいはダイハツ搭載のトヨタエンジン


 W:該当なし


 X:“アトキンソンサイクル”採用HEVエンジン


 Y:該当なし


 Z:スーパーチャージャー過給仕様
1UR-FSE@LS460(破線)と、V35A-FTS@LS500(実線)の比較

このV35A-FTS型は、先代のLSが搭載されていたUR型V8エンジンの代替として開発された。4.6ℓのV8自然吸気から3.5ℓのV6ターボへ。容積も気筒数も減らし、性能を向上させた、お手本のようなダウンサイジングユニットである。




 V35A-FTS@LS500:314kW/5200-6000rpm、600Nm/1600-4800rpm


 1UR-FSE@LS460:288kW/6400rpm、500Nm/4100rpm




今回のLS500に載せられたA35A-FTSと、先代のLS460に載せられた1UR-FSEの出力曲線を比べてみると、上のような図表になった(発表されている数値とグラフカーブがなぜか完全に一致しないが、そこは参考程度にご覧いただきたい)。一目でわかるのがトルクの発生の仕方で、V35Aがいきなり立ち上がっているのちに過給圧制御でフラットにして最大トルクのままフラットにしているのに対し、1URは回転上昇とともにトルク値が高まっていく。組み合わせる変速機は、V35Aがアイシン・エィ・ダブリュのAWR10L65型10速AT、1URも同じくエィ・ダブリュで、こちらはTL-80型の8速ATである。

V35A-FTSのトピックのひとつがロングストローク設計である。




V6エンジンというのはなかなか悩みの多い方式で、等間隔燃焼とバンク角の設定というのがひとつ挙げられる。4ストロークサイクルにおいてはクランクシャフト2回転でワンサイクルというのはご存じのとおりで、そのワンサイクルで6つの気筒を等間隔で燃焼させようとするなら、720度÷6で、120度という数字が得られる。




V6エンジンは向かい合う気筒のクランクピンを共用する設計にすることで全長を抑えられる特長があるので、そうすると、たとえば1番気筒が着火したのちに、じゃあ次は何番気筒を着火させればいいかといえば120度回転した後に上死点にあるシリンダ……となると2番気筒が、1番気筒に対して120度の角度に設置されていればベスト。つまり、バンク角120度のV6エンジンである。

ダイムラーM272型のクランクシャフト。赤丸で囲ったところが30度のピンオフセット部。

しかしそれほどの角度を持つエンジンとなると、エンジンルームに収まらない。そこで市販車用のV6エンジンはバンク角を縮小するために工夫を凝らしている。




たとえば、かつて存在したダイムラーのM272型は、バンク角を90度としていた。“理想値”からは30度足りない計算。等間隔燃焼のために、では彼らはどうしたか。本来1番2番、3番4番、5番6番で共用するべきクランクピンを、30度ずらしてセットした。




ちなみになぜ90度かといえば、同時代のM273型V8エンジンと設計を共有するためだったという。90度だとバンク角内の容積も大きく、吸排気のレイアウトにも余裕がある。

GMのV6エンジン用クランクシャフト。60度のピンオフセットのためにウェブをかませている。

しかしV6エンジンのバンク角において圧倒的多数なのは60度。バンク内の機器配置は厳しいが、エンジン本体をコンパクトにすることができる。




クランクピンはというと、“理想値”からは60度足りない。等間隔燃焼にするためには60度のオフセットを設ければ大丈夫──といいたいところだが、60度のずれともなるとさすがにピン間に一枚何かを挟まないとクランクシャフトの強度剛性がとてもじゃないと確保できない。そこで、等間隔燃焼仕様60度V6エンジンのクランクシャフトは1番2番、3番4番、5番6番のピン間に、クランクウェブと称する板を介して60度のピンオフセットを作り出している。




ところが、ウェブを挟むとその分クランクシャフト長が伸びてしまう。つまり、V6最大のメリットである全長短縮の意味が薄れてしまう。ボア間が当然開く格好になるわけで、だったら失われたコンパクト化の意味を少しでも取り戻そうと、その間を上手に使おうと大径ボア設計になるのがV6エンジンの大勢である。

ここでようやくV35A-FTSの話に戻る。このエンジンも多分に漏れず60度バンク。内径×行程値を確かめてみると85.5×100.0mm、ロングストローク設計であることがわかる。レーザクラッド式バルブシートによるストレートポートとそれに伴うバルブ挟み角の拡大、高タンブル吸気と直噴による急速燃焼など、先行したA25A型と共通する項目がいくつか見て取れるように、どうやら燃焼のさせ方について同様を目指したように思える。マツダSKYACTIVも、排気量は違えど燃焼パターンを同じくして──としていた。




じゃあ間延びしてしまうボアピッチはといえば、スペースに事欠かないことを利用して水路を穿ち、積極的に冷却することで耐ノッキング性を高めることに成功した。ホンダも高パフォーマンスエンジンのボア間に溝を設けて水路とし、同じ効果を狙っていたのをご存じの方もいらっしゃるだろう。ただしV35Aの水路はφ5.5mmものサイズ。その効果の高さがうかがえる。

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