排熱を最も効率よく使う方法は、熱のままで活用することだ。「必要な熱」を「不要な部分」から回収する仕組みと、その効能とは?
TEXT:松田勇治(MATSUDA Yuji)
実は、自動車用の排熱回収システムは、すでに実用化されている。排ガスの経路中にエンジン冷却水と接触する部分を作り、熱伝導によって排気ガスの熱を冷却水へ回収する、通称「ヒートコレクター」である。
基本構造は、下に掲載している三五の製品がわかりやすい。パイプの内部が同心円状の三重構造になっていると考えればいい。一番内側が通常の排気流路で、外側が冷却水の流路。その間が、熱交換用の排気流路だ。
現在、実用化されている製品の主目的は、暖機時間の短縮による燃費向上と、有害物質の低減だ。エンジンを早く温めたい状態では、通常の排気流路をバルブなどで閉じて、排気を熱交換用流路に導く。
この状態では圧力損失が高まってしまうが、暖機が終わるまでの間はあまり回転数を上げないので、特別なデメリットとはならない。暖機が終了したら、排気流路を通常のものに戻して圧力損失を減らし、所定のエンジン性能を発揮させる。
比較的簡便な構造で、そこそこの効能が得られることが特徴。機構的に、排気の熱量が効率に影響するため、エンジン排気量が大きいほど効果が高まる。
燃費向上の効果は、EV走行が可能なハイブリッド車に組み合わせた場合、冬季の暖房用エンジン始動が減らせる効能があるため、8%程度と良好なレベルだ。通常のガソリン車やディーゼル車でも、暖機時間短縮によって3〜4%程度の改善が見込まれる。
排熱回収のためのシステムとして、すでに実績を重ねている点が強み。今後は、回収した熱の用途をいかに拡げられるかがポイントとなる。