ICE(内燃エンジン)搭載車にいつまで乗れるか……あちこちから出てきた「○○年にエンジン車の販売禁止」という話が、まだどの国でも法制化されていないのに、あたかも「決まりごと」のように報じられている。筆者の持論は「欲しい人がいるかぎりICEは続く」だ。とくに日本に限定すれば、世界の現状に比べてやましいことなどない。ICEの進化はまだまだ続く。日本の自動車メーカーは今後も、環境性能で恥ずかしくない、乗る人が後ろめたさを感じないICE車を世の中に送り出し続けるだろう。そのうちの大半が何らかの電動機構を持ったHEV(ハイブリッド・エレクトリック・ビークル=混合電動車)になったとしても、HEVの半分はICEである。30年後もICEは確実に残るだろう。



TEXT◎牧野茂雄(MAKINO Shigeo)

日本の現状は、世界に比べてやましいことなどない

エンジン車禁止の世界的潮流に日本は乗り遅れた……2019年はこういう論調の記事が多かった。管政権が誕生し、なんの前触れもなく「カーボンフリー」を唱え始めると、こんどは海外のいわゆる「環境関連企業」が日本への売り込みを狙い始めた。それで国際協調路線を歩めればいいのだが、おそらく、そうはならないだろう。日本企業の収益が海外に流出し、国民の税金も海外企業やファンドに吸い取られる。そんな気がしてならない。きれいごとだけは済まないのがエネルギーの世界であり、EUが仕掛ける「脱炭素」というゲームに日本が参加するとき、その副作用も覚悟しなければならない。

世界中のファンドが「CO2関連の銘柄は儲かる」と宣伝している。投資はその方面に流れている。日本でも「環境投資にいまシフトしなければ日本経済は沈没する」といった声が大きくなりつつある。菅総理の首相動静をみれば、そうした手合いの「専門家」が今回のカーボンニュートラルという入れ知恵をしたのだろうという推測は容易に成り立つ。中国の習近平国家主席がなぜCO2を言い出したのかを分析する能力が現政権にはないのだろうか。

PHOTO:Orsted

案の定、欧州企業が日本をプッシュし始めた。2019年の風力発電設備(いわゆる風車)設置は、ドイツを中心に騒音や環境影響面での訴訟が相次いだため陸上への設置が激減した。陸上への新設はきわめて難しくなった。そのため洋上風車へとシフトしている。日本にもその売り込みが始まった。ノルウェーのエネルギー大手エクイノールやデンマークの洋上風力世界最大手であるオーステッドなどがジャパンマネーへの攻勢を激化している。しかし、これだけ台風の多い日本のどこにどうやって巨大風車群を設置しようというのか。

実体経済とはかい離した株価高騰は、世界中で余っている資金が上場投資信託(ETF)に流れたという理由もあって、おそらく今後も続くだろう。その受け皿がCO2関連株であり、どこに投資しればよいかをESG(環境・社会・統治)という物差しが親切に指南してくれる。「は〜い、みなさん。投資先はCO2削減に熱心な企業ですからね」と。同時にノルウェー年金基金など欧州の政府系ファンドが脱CO2投資へと意識的に資金を移している。すでに日本企業は実害を被っている。ベトナムでの火力発電所建設に関わる三菱重工を投資対象から外すといったことが始まった。

ESG投資という考え方は筆者も否定しない。しかし、現状では欧州勢が演じるマッチポンプ的な利益誘導であり、資金は欧州に流れ込むようになっている。EU委員会のフォン・デア・ライエン委員長が「再び強い欧州を!」と演説し、この行為にお墨付きを与えたから、もう流れは止まらない。



菅政権が。この動きに乗っかるようにカーボンニュートラルを言い出したものだから、日本の産業界は慌てた。しかし政権の意向は無視できない。「Go To トラベル」よりもはるかに罪が重いのは、事前の根回しがないままの「Go To CO2」だ。また再び、日本が海外の食い物になりそうな気がしてならない。

やるべきは、排気量税制の廃止とエコカー減税のような「モード燃費」にもとづく優遇の廃止だ

主要国の温室効果ガス削減状況  IEA資料などから資源エネルギー庁が作成。日本は2014年以降、5年連続でCO2排出を削減し、基準となる2013年比で12%を削減した。2011年の東日本大震災以降に原発稼働が止まるなかでもここまでの省エネを進めてきた。

日本は世界第3位の経済大国である。21世紀に入って以降、その実感は非常に希薄ではあるが、ほとんどが製造業で占められる輸出型企業が外海外で稼ぎ、その身入りによって経済が回っている。いっぽう国内消費はジリ貧で物価も上昇していない。そんななかでの2018年度CO2(カーボン・ダイオキサイド=二酸化炭素)排出量確報値は11億3800万トン(国立環境研究所まとめ)、前年度比3.9%減である。2011年3月の東日本大震災以来、原発がほとんど稼働していないなかでの3.9%減は立派だ。

その代わりエネルギー自給率は2017年実績で2010年の20.3%に対し9.6%まで落ちた。これは原油輸入のほか発電用の石炭と天然ガスの購入が背景にある。ただし2014年には6.4%まで下がったエネルギー自給率を4年間で3.2%リカバーした。あらゆる分野での省エネの成果であり、これは誇るべきことだ。

2018年のEUは43億9200万トン、前年比2.1%減だった。自動車など運輸部門のCO2排出は全体の約25%を占める。日本は輸送部門の比率が17.8%であり、CO2排出全体に占める自動車の割合は日本のほうがEUより少ない。それだけ自動車分野での省エネが進んでいる証拠だ。大都市内や幹線道路の渋滞でロスする燃料消費がありながら、である。



何らかの電動モーター機構を搭載したクルマは、日本では年間100万台以上販売されている。1997年12月にトヨタが世界初の市販フルHEV、初代プリウスの納車を開始して以降、23年をかけてここまで来た。車両価格の上乗せ分と日々の燃料代とを比べてみれば、日本平均の年間走行距離7000km程度では10年以上乗らないと絶対にフルHEVではモトが取れないが、新しいモノへの興味と勤勉な日本人の環境意識とが相まって、HEV需要を下支えしてきた。

世界中でもっとも新車販売台数での電動化率が高いのはノルウェーだ。年間販売台数約13万台のうち7割弱がBEV(バッテリー電気自動車)とPHEV(プラグイン・ハイブリッド・エレクトリック・ビークル=外部充電できるHEV)だ。しかし販売台数は9万台ほどだ。ノルウェーの事情は前々回取り上げたが、BEV購入層は生活レベルが高い人びとが中心である。何らかの電動機構を持った車両の普及率という点では、日本は世界一である。その証拠が、自動車を中心とした運輸部門のCO2排出比率に表れている。

世界のエネルギー起源CO2 排出量 少々古いデータだが国ごとの排出比率には大きな差はない。中国とインドの比率が大きいが、ともに13億人の人口を抱えることを考えれば、1人当たり排出はアメリカのほうが大きい。

興味深いのはEU加盟国の国別CO2排出量だ。人口ひとり当たりで見るとフランスが低くドイツが大きい。これはCO2排出量計算で使うエネルギー種ごとのCO2係数のマジックであり、たとえば原子力比率の高いフランスは、発電端でのCO2係数が0.06でドイツは0.4だ。発電量がいかに大きくても係数でひと桁違うのだからCO2排出が少なくなるのは当然だ。



その代わり、前回書いたように欧州大陸内では国境を超えて電力を融通し合っているからどの国も政治的にはフランスを非難しない。脱原発を政治が決めたドイツは現在、フランスから電力を買うことで南ドイツの電力不足をしのいでいる。しかし、EUという枠組みになると再エネ発電を礼賛する。このちぐはぐさはじつに滑稽だ。

もうすでに「CO2が本当に悪者なのか」と問題提起しても世の中は動かない。しかし、温暖化や気候変動のメカニズムは解明しなければならない。欧米ではCO2悪玉論に懐疑的な発言をしたり論文を発表したりすると研究費の助成が打ち切られたりする。CO2悪玉論は「踏み絵」になった。地球物理系や熱力学系の研究者・学識経験者諸氏に訊くと、ほとんどの方が「太陽の黒点活動の影響や地球の歳差運動の影響のほうが大きいだろう」という。人為的温室効果ガス排出の影響は、エネルギー量としてほぼ無視できる、と。古気象学系の方々に訊くと「過去には現在より地表の気温が高い時期があったことはすでに証明されている」という。しかし、これらの意見は無視されている。

日本は「はやぶさ」プロジェクトのような日本らしい低予算創意工夫型プロジェクトで「温暖化」の真偽を検証すべきだ。日本中のお金が余っている方々と企業はここに投資してほしい。口封じされている世界中の研究者の方々のネットワークも使えるはずだ。それで本当に大気圏内のCO2濃度がもっとも疑わしいとなれば、おそらく誰もがCO2削減に協力するだろう。「ウソ」とは言わないが、パリ協定の根拠になっている考え方と数字は容疑者レベルに過ぎない。

同時に、日本の政府がやるべきことは、排気量税制の廃止とエコカー減税のような「モード燃費」にもとづく優遇の廃止だ。本当に使ったぶんのエネルギーに課税する。電気も例外にせず、車両ECUから抜き出した電力消費量に課税する。ガソリン、軽油、天然ガス、LP(液化石油)ガス、電力それぞれについてWtWの物差しでCO2発生量を計算し燃料課税する。欧州はTtW=タンク・トゥ・ホイール、「走行中に排出されるCO2」だけを規制対象とするが、WtW=ウェル・トゥ・ホイールはウェル(井戸・油井)からホイール=車輪までの間という意味だ。エネルギーを作る段階、運ぶ段階でのCO2排出も含める。日本は唯一、この考え方を自動車に取り入れている。ならば、課税もWtWをベースに電力も含めたエネルギー全般で行なうべきだ。

財務省にとっては、自動車が使う電力が急増したらどうやって課税するかが頭痛のタネだ。ガソリン税は国税で軽油引取税は地方税。財務省にとって聖域は国税であり、だから過去に「ガソリン車代替」と言い出すと徹底的ないじめに遭った。いずれ自動車関連の税体系は完全な見直しを迫られるだろう。

急激なBEV推進は社会に歪みを生む

さて、ここからが本題。

市場調査会社の予測には開きがあるが、2031年時点での新車市場予測は、BEVが約17%、PHEVを含むHEV系の全合計が47%、純粋なICE車は36%というあたりが平均だ。日本の調査会社の中にはBEVが35%程度になると予測しているところもあるが、現在のEUのCO2規制強化方針を反映させてもBEV比率の上限は20%という見方が世界には多い。



その理由はバッテリー生産量の不足と電力消費の増加だ。BEV普及のためには年産1GWh(ギガワットアワー)以上の生産能力を持つ電池工場を世界各地に建設しなければならない。時間も費用もかかるうえ、資源問題が発生する。うまく切り盛りできたとしても、費用だけは数十兆円かかる。

筆者は、急激なBEV推進は社会に歪みを生むと見ている。欧州の例でいうと、2018年のECV(エレクトリカリー・チャージャブル・ビークル=充電電動車/BEVとPHEV)販売比率は、国民1人当たりGDPと完全に比例していた。この傾向が2020年もほとんど変わらない。補助金を増額する余裕のある国ではECVが増える。そうでない国は置いていかれる。



EUと英国、スイス、ノルウェーの合計で見ると、2018年の新車販売台数に占める平均のECV比率は2.0%だが、EU加盟国の半数は1%未満のECV比率にとどまる。そして1%未満のすべての国では、ひとり当たりGDPが2万9000ユーロ未満だ。これとは対照的に、ECV比率が3.5%を超える国はすべて、1人当たりGDPが4万2000ユーロを超える。

欧州での新車販売台数に占めるECV比率(2018年)

ACEA(欧州自動車工業会)まとめ。これを見ると、ひとくちにEUという括りで普及策を論じることは難しいだろうと感じる。EUの5大自動車市場で見ると、2018年はドイツが6万7658台/比率2.0%、英国5万9947台/同2.5%、フランス4万5623台/同2.1%、スペイン1万1810台/同0.5%、イタリア9731台/同0.5%である。2020年はECVが大きく伸びたが、その中心は補助金倍額のドイツと補助金大幅アップのフランスである。
国民ひとり当たりGDP(2018年)

EUとACEAのまとめ。新車需要に占めるECV販売比率が1%未満のすべての国ではGDPが2万9000ユーロ未満で、いっぽう販売比率が3.5%を超える国はすべて1人当たりGDPが4万2000ユーロを超える。ノルウェーはEU加盟国ではないが、1人当たりGDPはEU平均の3万600ユーロの2倍を超える7万3200ユーロである。ECV販売比率が低い国は1人当たりGDPも低く、リトアニア0.4%/1人当たりGDP1万5900ユーロ、チェコ0.4%/同2万500ユーロ、ギリシャ0.3%/同1万7100ユーロ、スロバキア0.3%/同1万6600ユーロ、ポーランド0.2%/同1万2900ユーロである。ECV販売台数はポーランド1324台、チェコ981台、ギリシャ315台、スロバキア293台、リトアニア143台である。

EU委員会は、ポーランドなどECV販売比率が低い国でECVを販売した場合に勘定を×2にするスーパークレジット制を採用しているが、この比率も2021年は×1.67に縮小される。ポーランドは韓国・LGケミカルの車載電池工場を誘致したが、ポーランドの発電構成から見て、再生可能エネルギーによる電池製造だとは思えない。同じくECV販売比率も国民ひとり当たりGDPも低いポルトガルは、EU内のエネルギー企業およびファンドが進めるリチウム露天掘り鉱山の建設問題で揺れている。ポルトガル政府がこれを承諾しないとEU内での電池原材料サプライチェーンはまったく確保できない。

電池のあやうさは、自動車メーカーもEU委員会も、賢明な政治家や学識経験者も知っている。しかし、現状では電池に頼るしかない。その先にある水素社会が実現するまでは……。EUでの水素投資が活発なことは前回紹介したとおりだが、ドイツは再エネだけで精製した水素に大気中のCO2から分離した炭素を組み合わせた合成燃料、いわゆるe-Fuelの実用化を狙っている。いずれこの件も詳しく取り上たい。限りなくカーボンフリーに近い合成燃料が量産され、流通するようになれば、あえてBEVを選ぶ必要がなくなる。

たとえば、20年後の2040年にガソリン・軽油の半分をe-Fuelで肩代わりすることができるようになると仮定する。そこに至るロードマップのなかにECVおよびさまざまなHEV系の普及を重ねれば、そう無理することなく自動車分野のCO2を減らせるはずだ。石油需要が漸減するとなれば、産油国はこの方面への投資とプラント建設に動くだろう。



ただし、それまでは精製される原油を余すことなく使い切ることが重要だ。まだ人類は化学原料をすべて合成できるわけではない。原油を精製すれば必ず出てくる中間留分はガソリン、軽油、灯油として消費するのが賢明だ。さらに現在はナフサが余っている。ナフサをディーゼルエンジンで使うとほとんどNOx(窒素酸化物)が出ないことは日本の石油化学業界が実証に成功している。

要は、いま手にできる燃料なり資源なりをできるだけ有効に、適材適所で使いこなすことでも省エネに寄与することができるということを、もう一度しっかり認識することが重要ではないだろうか。東西と南北の分断をもたらしてまでECV化を進めなければならない理由を、筆者は想像できない。

「CO2削減は待ったなし!」



そうだろうか。ならばなぜ、IPCCは2度も温暖化予測を誤ったのか。計算の前提が誤りだったからではないのか? その検証もせずにECV化を煽るのは、フォン・デア・ライエンEU委員会委員長が演説で語った「再び強い欧州を政治主導で実現させる。アメリカのIT企業と中国の製造業に対抗できるだけの競争力をEU企業に持たせる」ためではないのか?

前述したように、日本の自動車分野のCO2排出比率はEU全体平均よりもずっと低い。同時に年間150万台、比率にして約35%がECVとさまざまなHEVで占められている。35%は充分に誇れると筆者は思う。しかも、これを原子力発電比率5%程度で実現している。うしろめたいことなどない。逆に、原発比率5%だからBEVは厳しい。一概に「BEVは環境に優しい」とは言えないのが日本だ。

自動車は一国の経済を支える一大産業であると同時に、商品そのものは嗜好品でもある。しかし、社会的なコンセンサスを得た国・地域ごとの環境および安全基準さえ満たしていれば、それを購入することは誰からも非難されるものではない。日本の2030年燃費規制は24.5km/ℓだ。これはWLTP/WLTCでの数値である。これを満たすためのさまざまな研究開発が進められている。同時にECVの開発も進められている。

多くの人が、価格も含めて「BEVでいい」と思うようになれば、ICE車は自然淘汰されるだろう。HEVが年間数千台から100万台以上へと成長した背景は、お客さんがHEVを選んだからにほかならない。同じことがBEVで起きても不思議ではない。では、いま現在BEVは、そのレベルに達しているだろうか。補助金がなければBEVに競争力がないことは欧州と中国が証明している。

3回にわたって「エンジン車は、いつまで続くか」を取り上げた。筆者の結論は「30年先でもICEは存続する」だ。ただし燃料はずいぶん違っているだろう。もし日本で水素ベースの合成燃料が潤沢に流通するようになれば、エネルギー自給率は高まり中東依存度は下がる。日本はBEVに絡む世の中の分断に加担する必要はない。むしろ分断を緩和する方向で貢献すべきだ。同時にアジアや中南米、アフリカに向けては、欧米メーカーのように「お古」ではなく最新のICEを今後も供給し続けるべきだ。世界が「買ってくれる」以上、日本人が考えたICEはなくならない。

情報提供元:MotorFan
記事名:「 エンジン車は、いつまで続くか。その3「30年先でもエンジン車は残る」2020〜2021年自動車産業鳥瞰図