今回ピックアップするフラッシュや水冷2ストのビートが発売された1983年は個性派スクーターが目白押しだった。なにが本流でなにが傍流か分からない……なんだかみんなギラギラしていたのだ。
語り:津田洋介/TDF、まとめ:宮崎正行
【津田】来たね、いいね、ホンダ・フラッシュ。うちの庭にもシルバーのフラッシュSがあるよ。
──あれはあるというよりも、ただそこに“いる”という雰囲気の朽ちつつある部品取り車なような……。
【津田】なーに、オレの本気レストアにかかれば、すぐにバリモンのフラッシュ完成よ。
──頼もしいですね。では読者のみなさんの中にフラッシュが欲しい方がいらっしゃいましたら、ぜひ津田さんのTDFにご一報ください。納期は……。
【津田】早くて5年かな。
──ながッ!
【津田】冗談はさておき、フラッシュはその個性的なルックスゆえどうしてもイロモノに見られがちだけど、中身はものすごく“フツー”のスクーターだったんだ。同じ1983年生まれのホンダ・ビートと兄弟車っていうのも「ヘンテコな奴ら」と思われてしまう一因かもね。まあ、ルックスはたしかにヘンテコだけどさ。
──ビートって、あの水冷2ストエンジンを積んだ7.2㎰のビートですか?
【津田】そうそう。外装にもパーツにも共通部品がたくさんあるしね。当時の噂としては、あの大人気だったヤマハのペリカンジョグに対抗して開発されたっていうのがあったな。
──ペリカンに噛みつく……アヒル? カエル?(笑)
【津田】もちろん未確認情報だけど、なんだか信憑性を感じるエピソードだったよ。あのころのノリとか勢いって、そんなカンジだったもん。ちなみに、この開かない口みたいなフロントの黒バンパーを外すとツルンとしていて可愛いんだよね。
──グレードは2タイプ?
【津田】「スーパーDXタイプ」がスタンダードモデルで、「Sタイプ」がスポーティな仕様になっているんだ。タコメーターが装備され、バンパーに赤いラインが引かれている。バックミラーも左右両側に付くね。でも違いはそのくらい。あ、ライダーの股間部分には、ちょろっとコックが出ていたな。
──当時のスクーターあるあるですね。ガソリン残量計があるにもかかわらず、なぜか燃料コックの標準装備。スーパーDXタイプもSタイプもボディカラーはそれぞれ3色ずつ。人気カラ
ーはどれでしたか?
【津田】レッドとイエローかな。スーパーDXのブルーはかなりレア……持ってるけど。レアと言えば、俺、フラッシュの純正カスタムパーツだった目玉デカールも持っているんだよね。ほら。目玉はこれがいちばん最初で、こののちDJ・1とかにも採用されるんだ。フロントカウルに貼ってるライダーが当時、たくさん街を走ってた。
──SP忠男の忠さんの目玉よりもだいぶ後ですよね?
津田 そこはグレーゾーンということで(笑)
──にしても、フラッシュは見れば見るほど愛らしいデザインですね。男心を鷲づかむアヒル口フェイス。えーと、エアロダイナミクス的にはどうですか?
【津田】ダウンフォース不足でウイリーしやすい(笑)。5㎰の空冷エンジンはタクト系のものでそこそこパワフル。けっこう速かったよ。
──スペック表をよく見ると、タイヤは前後8インチ。
【津田】当時は取りまわしの良さって、普段使いのスクーターには大切なポイントだった。10万円前後のプライスもジョグを意識している設定だし、仮想敵がものすごく明確だったのかも。フットボードは前方へ長く延びていたから、ライディングポジションの自由度が高かったのもフラッシュのいいところだね。
──ペリカンの口の中は、フットスペース?(笑)。でもビッグスクーターみたいでラクチンそうですね。
【津田】純正オプションのインナーラックもそこそこ容量があって便利なんだよね。でもいまヤフオクで買おうとすると、5000円くらいする隠れ人気アイテム。
──隠れキリシタンか!
【津田】フロアマットが別売りなのは、当時の自動車セールスと同じ風習かも。必要なんだから、最初から着けてくれればいいじゃん! って。
──たしかにアレは完全に、ディーラーを儲けさせるための手練手管でしたね。
【津田】昭和なエピソードだね。
──ところで津田さん。車名FLUSHの英語の意味って知ってますか?
【津田】パッと光輝く、みたいなことじゃないの?
──それもあるんですけどね。便所で「水を流す」って意味もじつはあるんですよ。
【津田】マジで! 水洗便所……って、そのまんまじゃん!