世界でもっとも自動車の電化を進めているのはヨーロッパだ。最も早い国であるノルウェーでは2025年に、またドイツ・イギリスは2030年に、ガソリンエンジン車・ディーゼルエンジン車の販売を禁止する、としている。そこに対して中国企業は、どのように対応しているのだろうか? 今回は、中国企業SVOLTのヨーロッパにおける動向と同社の注目技術について、ご紹介しよう。
TEXT:川島礼二郎(KAWASHIMA Reijiro)
SVOLTは長城汽車からスピンオフして誕生した中国企業
ご存知の方にとっては今更だろうが、最初にSVOLTについて紹介しておこう。SVOLT Energy Technology Co., Ltd は中国は江蘇省に本社を置くグローバルハイテク企業だ。中国の完成車メーカーである長城汽車から、電池開発部門が分離独立して2018年に設立された。EVとエネルギー貯蔵システム用リチウムイオンバッテリーとバッテリーシステムの開発・製造を行っている。バッテリーセル、バッテリーモジュール、バッテリーパックと、それに対応するソフトウェアを提供している。
SVOLTはザールラント州の2つの生産拠点に最大20億ユーロを投資
そんなSVOLTはIAA 2019にて、ドイツに生産拠点を置くことを発表していた。この秋にも「候補地の絞り込みが行われている」とのことであったが、この度正式に「ドイツ中西部のザールラント州にバッテリーパックとモジュール工場をホイスヴァイラーに、また最終的には24 GWhの生産能力を備えた最先端のバッテリーセル工場をユーバーヘルン市に建設する」と発表した。最初の建設段階の完了後、セル工場は6GWhの生産能力となる。その後、顧客(完成車メーカー)の需要に応じて、それぞれ6GWhずつ生産能力を段階的に増強する。最終拡張段階の24GWhは、年間30万から50万台のEVのバッテリーに相当する。投資総額は最大で20億ユーロと計画されており、これは同社にとってヨーロッパでは最大となる。また最大2,000人の雇用を創出することを目指している、とも発表された。
SVOLTは中国の保定市と無錫市に2つの大規模なR&Dセンターと、3つのR&Dハブを有している。それでも、冒頭に記したように、ヨーロッパは自動車の電化において世界最先端を行く。そのヨーロッパにも開発と生産拠点を持つこの計画は、理にかなっている。
SVOLTは2021年半ばにコバルトフリーバッテリーを車載予定
さて、今回SVOLTを取り上げたのは、同社がコバルトフリーバッテリーの大量生産を2021年半ばまでに開始する、と発表しているからだ。今年開催されたAuto China 2020でも、SVOLTはコバルトフリーバッテリーについてのプレゼンテーションを行った。それによると、同社製コバルトフリーバッテリーはHとEという2種類のプラットフォームで開発されており、Hプラットフォームの226Ahバッテリーは、ハイエンドモデルに搭載される。 同社第3世代高速ラミネーションプロセスを使用した226Ahバッテリーは235wh/kgの重量エネルギー密度を備え、その寿命は3,000サイクルを超える、とされた。別の報道では、同社製コバルトフリーバッテリーはスピンアウト元となった長城汽車で繰り返しテストされており、航続距離は880kmに到達した、とされる。
コバルトを含まないニッケルマンガン電池セルは一般的な高ニッケル電池と同等のエネルギー密度を達成するが、コバルトを使用しないことにより、より持続可能で高耐久性、そして低コストである、と言われている。ご存知のようにコバルトはリチウムイオン電池の正極原料であるが、全世界で見てもその供給量は非常に少なく、そのため高価である。採掘地における児童労働が無視すべきでない問題として現存している。テスラはSVOLTのライバルにあたるCATL製コバルトフリーバッテリーを中国生産車に採用する、とも言われている。そのため、バッテリーサプライヤー間でのコバルトフリーバッテリー開発競争が激化しているのである。