自動車業界は今、100年に一度の大変革時代を迎えていると言われているが、クルマを所有しメンテナンスする私たちユーザーが直に接するアフターマーケットも決して例外ではない。当企画では、そうしたアフターマーケットの現状を、近年生まれた新しいキーワードを切り口として解説する。
今回は、その新車とも中古車とも区別が付きにくいことを逆手に取り、様々な呼称が用いられてきた「登録(届出)済未使用車」について紹介したい。
TEXT&PHOTO●遠藤正賢(ENDO Masakatsu) FIGUAR●自動車公正取引協議会
「登録(届出)済未使用車」とは、正確には、
●初度登録(届出)された車両で、かつ使用または運行に供されていない車両(中古車)
のことを指すが、もう少し噛み砕くと、「登録(届出)済」=ナンバーをすでに取っているクルマであり、かつ「未使用車」=完成検査や搬送などを除いてプライベート・業務の別を問わず一度も走っていないクルマとなる。
つまり、単に使われていないというだけで、区分としてはれっきとした中古車なのだが、こうしたグレーな立ち位置から、自動車アフターマーケットでは今なお「未使用車」「新古車」「新車同様」「新品」など、新車(=ナンバーを取っていないクルマ)と誤認させるような表記をしているケースが非常に多い。
だが、消費者庁公正取引委員会から認定されたルール「自動車公正競争規約」を運用する「自動車公正取引協議会」は、2014年9月の時点ですでに、
●単に「未使用車」と表示するのではなく「登録(届出)済未使用車」と表示すること
●「新品」「新車同様」「新古車」など、登録(届出)済未使用車が中古車でないかのように誤認を与える表示は行わないこと
と、会員各社に注意喚起している。そのほかにも、
●初度登録(届出)された車両で、使用または運行に供されていない中古車である旨を明瞭に付記すること
●使用または運行に供されたと考えられる車両(例えば走行距離が100kmを超える車両)について、「登録(届出)済未使用車」の表示は行わないこと
(注:走行距離に関係なく、一旦ユーザー名義で登録(届出)された車両や、試乗車や代車として用いた、または運行に供された車両は「登録(届出)済未使用車」と表示することは不可)
●通常の中古車と同様に、「走行距離数」や「修復歴の有無」はもちろんのこと、「定期点検整備実施状況」や「保証の有無」などの必要表示事項を明瞭に表示すること
●車両購入の際に、次回車検時までのオイル交換や次回車検時の整備費用を含んだパック商品などの購入を条件としている場合は、パック商品等の価格を販売価格(店頭において車両を引き渡す場合の消費税を含めた現金販売価格)に含めて表示すること
●「新車」の価格と比較してお得である旨を表示するなど、不当な二重価格表示に該当するおそれのある表示 は行わないこと
(注:登録(届出)済未使用車は、一旦登録(届出)された商品(中古車)であり、新車とは品質や経済価値等が異なる商品(新車と中古車は同一の商品とは言えない))
●「新車購入時に必要な重量税がかからないからお得」など、新車と比べ販売条件が有利であると誤認させるおそれのある表示は行わないこと
(注:重量税は車検残存期間分の経済価値として販売価格に含まれており、その経済価値は消費者が購入時に支払っている)
などの留意点が明記されているため、これらに反した表示を今も行っている中古車店は、相応に用心して見るべきだろう。
では、そんな「登録(届出)済未使用車」を購入するメリットとデメリットはどこにあるのか。
まずメリットは、やはり「安い」、これが一番だろう。これは、例え全く使っておらずとも、ナンバーが付いた瞬間に中古車となり、車検の有効期間もその後減っているため、その分だけ価値が低くなっているからに他ならない。
もちろん、新車の納期が極端に長期化している人気のモデルはこの限りではないが、おおよそ新車の車両本体価格から2割前後低い値付けをされているケースが多いようだ。
そしてもう一つのメリットは、「納期が圧倒的に早い」。新車の場合、メーカーまたは販売店の在庫に希望の仕様があった場合でも、車庫証明の申請・取得→名義変更+納車前整備&ディーラーオプション取付などに、最低でも1週間はかかる。在庫がない仕様の場合は短くとも1ヵ月弱は必要となるのが一般的だ。
だが登録(届出)済未使用車の場合はすでにナンバーが付いているため、支払い代金も名義変更に必要な書類もすべて揃っており、納車前整備&ディーラーオプション取付も必要なく、現在付いているナンバーと新しいオーナーの現住所とで管轄が同じ(例:現在のナンバーが「横浜」で新オーナーは横浜市在住の場合はナンバーが変わらないため、名義変更の際に現車を検査登録事務所や軽自動車検査協会に持ち込む必要がない)、といった条件をすべて満たせば、即日納車も不可能ではない。
そしてデメリットだが、前述の通り「車検の有効期間が新車よりも確実に短い」。中には初度登録(届出)から1年以上経過し、残りの有効期間が2年を割っているものもあるため、登録(届出)済未使用車の購入を検討する際は初度登録(届出)年月を必ず確認すべきだろう。
また、「新車を対象とした減税や補助金の適用対象外となる」。特にCEV(クリーンエネルギー自動車)補助金の対象となるEV、PHV、FCV、クリーンディーゼル車の場合はエコカー減税も合わせれば、新車と登録(届出)済未使用車とでトータルの出費の差が大きく縮まるため注意が必要だ。
さらに、「実際に製造されたのは初度登録(届出)年月よりも遥かに以前という可能性がある」「内外装に傷が付いている可能性がある」というデメリットも見逃せない。そもそも登録(届出)済未使用車とは、
●一部改良などで旧モデルになってしまった
●販売奨励金を自動車メーカーから得るには登録(届出)台数の上乗せが必要
といった事情から、ディーラーが在庫していた新車を登録(届出)しナンバーを取得して、中古車として販売することによって生まれるもの。従って、在庫として保有していた期間も、その保有のしかたも判然としないのが実情だ。さらに言えばその在庫が、ディーラーのショールーム内で展示車として使われていた可能性もある。
つまり登録(届出)済未使用車は、内外装のみならずパワートレーンやボディ・シャシーも相応に劣化している、というリスクをはらんでいるのだ。
そして一番のデメリットは、「グレードやメーカーオプション、内外装色を自由に選べない」ことだろう。これこそまさに、登録(届出)済未使用車がれっきとした中古車たる所以であり、新車を購入する醍醐味が大きく損なわれる要因であるのは間違いない。
「他人と同じクルマに乗るのはイヤだ」「無難な内外装色を選びたくない」「ベストな走りの仕様を選びたい」というクルマ好きが、グレードやメーカーオプション、内外装色のバリエーションが多い車種を購入する場合は、特に無視できないデメリットとなる。
だが裏を返せば、グレードやメーカーオプション、内外装色のバリエーションが少ない車種、具体的にはスズキ車か、大衆車ブランドの国産高級車あるいは輸入車を、クルマに対し強いこだわりを持っていないユーザーが購入するならば、このデメリットは顕在化しにくい。むしろ積極的に登録(届出)済未使用車を選ぶ大きな理由になるだろう。
最後に、「新車販売時の値引き額が、登録(届出)済未使用車となることでの値下がり幅と大差ない可能性がある」ということも、見落としがちなデメリットとして挙げておきたい。
フルモデルチェンジされてから5年以上経過した車種や、Cセグメント車や5ナンバー1BOXミニバンなど競合車種が多いながらディーラーの利幅は大きいカテゴリーの車種は、こうした傾向になりやすいため、新車の値引き相場と登録(届出)済未使用車の相場を両方とも調べる必要がありそうだ。
登録(届出)済未使用車を購入する際は、これらのメリット・デメリットを把握し、かつ中古車を選ぶ際と同様に一台一台のコンディションを入念にチェックしたうえで、好みのクルマを賢く選んでほしい。